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物凄い視線が突き刺さるのを肌で感じる。 やはり、この国ではこんな長さの髪の女性はいないらしい。 そんな視線にニヤリと笑い掛けながら歩みを進めて、いつも通り夜空の下でもうすぐ帰って来るだろう蛇男を待つ……ほら、そうしてると馬の蹄が土を蹴る音が近くなって来た。
「 おかえり 」
ーー何故か、時間が止まったみたいに蛇男は動きを止めた。
そして、出迎えた私の異変に気付いた蛇男が少し眉を顰めて、急いで馬から降りて、コツコツと靴を鳴らして私の前に歩み寄って来た。
「 お前、その髪はどうした 」
「 切った。 邪魔だったからねぇ 」
あれから自分で整えたボブの黒髪は、自画自賛出来るほど綺麗に切り揃えられて意外と好評だった。
自慢気に毛先を手で靡かせる私に、蛇男は何も反応せず真顔で私を見つめているまんま。
「 あのさぁ、普通なんか褒めたりしないの? アンタそんなんだったら女にモテないよ 」
「 生憎、昔からその方面で困ったりしたことは無いな 」
……そりゃ、そうだろうよ。
ジト目で睨む私に、仕返しの様にしてやったり顔で見下げて来る蛇男は、確かにどう見てもモテ過ぎて困った部類の人間だろう。
「 さあ、戻るぞ 」
それは、いつも通りの台詞で、蛇男はサッと背中を翻し夜空の下、ゆったりと階段を上品に登って行く。すると、何故か真ん中あたりで立ち止まって後ろに居た私は蛇男の背中にぶつかってしまった。
「 ちょっと、急に立ち止まらないでよ 」
怒った私が蛇男を見上げようと顔をあげると、同じタイミングで蛇男が私の顔を覗き込んで来た。 真顔の綺麗な顔が触れそうなほど近くに映り込む……本当に女性みたいな綺麗な顔の人だ。 澄んだ瞳も、通った鼻筋も、長い睫毛も、女性なら欲しくて堪らない様な美貌。 そんな人が、真っ直ぐ私を見つめてきて。
「 良いんではないか? その長さも似合っているぞ 」
狡い男だ、なんてタイミングでそんな事を言って来るんだろう……しかも、そんな優しい表情で。
ーーーー
ーーー
私はワインの様な深い赤のドレスを身に纏い、耳に真珠の揺れるピアスと蛇男に貰った髪飾りをつけている。
この城に来たのは何時ぶりだろう? 沢山の貴族達が私の髪を見て驚いた様に息を止めて私を見つめて来る。 その度に私は挑発する猫の様にスッと微笑むと、その途端そいつ達は恍惚とした表情を浮かべて馬鹿みたいに私に心奪われて酔いしれる。
私のそばには当然の様に蛇男が隣に居て、ハンカチを握り締めて悔しそうに指を咥えてる女の姿も見えた。
エドワードや国王に挨拶をして、カミーリィヤのそばに行った時だった。
「 ラファエル、元気そうで何よりだわ……久し振りに顔を見た気がするわね 」
「 ああ、そうだな。 管轄が変われば自然とそうなるだろう 」
そんな、ぎこちない二人の会話を聞いた私の心に少しだけチクリと針が刺さってしまう……良いのだろうか、このままで。
そう思って、顔を少しだけ俯けたその時、拍手と共に誰かが舞台に上がった様だったのでそちらを振り向いた。
「 え、あれって…… 」
そこには、自信たっぷりに短い金髪のボブを揺らす可愛くおめかしした女の子がいた。 お辞儀をして、ピアノに座るその子は、どんな声だって物ともしないように振舞っている。
そうか、スザンナの言ってた発表会ってこの舞踏会の事だったんだ。 だから、内緒にしてたかったのか……なんて、可愛いんだろう。
私のその声を聞いて、演奏が始まった舞台に視線を移した蛇男が少しだけ驚いた顔をして、何かに合点が言ったように舞台のスザンナと、そのスザンナに顔が綻んでしまっている私を見比べた。
「 ふ、成る程な……そういうことだったのか 」
隣にいる蛇男は視線を下げてそう言って軽く微笑んだ後に、言葉の意味が分からず眉を潜めていた私を、澄んだ瞳で射抜いて来た。
「 何よ、ハッキリ言いなさいよ 」
「 ……いや、そうか、成る程な 」
何でそんなに楽しそうと言うか、微笑ましい感じで目尻を下げて硬い表情を緩めるんだろう……何がツボに入ったのか、珍しく声を我慢して口元に上品に手を当てクツクツと笑っている。
「 何か、居心地悪いんだけど 」
「 気にするな、お前は本当に珍しい女だな 」
向かい合って不貞腐れる私と、クツクツ喉を鳴らす蛇男を見つめるカミーリィヤと目があった。
彼女は、優しく眉尻を下げて表情を緩めていた……ああ、何故だか分からないけれど。
ーーその微笑みに私は大きな罪悪感を持ってしまった。




