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それは、おとぎ話のように語り継がれている絵本の中のお話し。 全く別の世界の人間をこの世界の女神様が連れて来る。
「 この国でも200年前に一度だけ、異界の人間が現れた事があるんだ 」
しかし、私のように黒の髪と瞳の人間が現れた事はなかったらしい。 多分、今まで東洋人は訪れなかったと言うことなんだろう。
「 すまないね、君の顔立ちと色が余りにも浮世離れしていると聞いたから、ラファエルに危険では無いか確かめさせたのだが、それが良くなかった 」
別にもうどうでもいい。
この国の王子殿下だと言うさっきの上品男がやたらと謝ってくる。
「 異世界からの招き人は代々どの国家でも王家がもてなす決まりがあるんだ。 安心しなさい、悪いようにはしないから 」
私はポチらしく安堵した声を漏らして何度も感謝を告げる。 この殿下はあのカミーリィヤと呼ばれていた王女様とよく顔立ちも似ていて、凛々しい美貌の金髪緑眼だった。
この国は数ある中でも有数の国家らしいが、抜き出て一番の大国と言うのは無いらしい。
エドワード・フォルシウス
彼はこのフォルシウス国の唯一の王子様。 年は私の4つ下で19歳らしいが、なんとも落ち着いた雰囲気だ。
カミーリィヤ・フォルシウス
あの人はこの王子様の5つ上のお姉様。 24歳の割りにまぁなんとも色気ムンムンの麗しいお姫様だ。
「 話せるなら初めからそう言えば良い。 その首の傷はお前の自己責任だ 」
私に容赦ない冷たい声のこの男は、この国の王家に代々使える武家のような家柄らしく、何でも由緒正しい貴族の御出身だそうで。 この世界の王家の近衛騎士はどの国でも彼等の一族がその役目を負っているらしい。
ラファエル・ヘルクヴィスト
彼の紺色のような黒髪はヘルクヴィスト家の血筋にしか現れない、戦闘の神様フローリゲルという人の恩恵を受けた尊い色らしく、だからこそ私の黒髪に皆が驚いたということ。その神様は漆黒の髪だったそうで黒に近ければ近い程、その家系では大事にされるそうだ……瞳まで黒の人間はこの世界には存在しないらしい。 まぁ、それを聞くとあの時の周りの反応も仕方ないだろうと納得するしか無い。
ーーラファエルと言うこの蛇男、 まぁ何とも妖艶で美貌が素晴らしい男だ。 絹糸の様な、紺に近い黒髪が胸元まであるのが全く嫌味じゃなく、耳に宝石の様な煌めく装飾を付けていても違和感がなくて。 本当、目つきの悪い美女に見える。三白眼の瞳は少しグレー掛かった例えようのない不思議で綺麗な色をしてると思う。
西洋人と東洋人の間の様なその顔立ちは揃いも揃って、何かのゲームに出て来そう。
私の首の傷にご丁寧にも上品王子が塗り薬を付けて包帯を巻いてくれた。 この傷を付けた本人は高みの見物で、情けも何もかけて来ない冷酷な顔をしてる。何とも腹の立つ男だ。
「 それにしてもポチの顔立ちは浮世離れしていて異国情緒が漂うね。 何と言っても目の形がとても美しいよ 」
『 ポチは黙ってたら顔立ちは猫みたいだよね~。 性格は犬なのに 』
あぁ、自分でも邪魔だと思うスッと通った鼻筋と、よく綺麗だと褒めてもらっていた奥二重はやはり異国情緒漂う珍しい顔付きなんだろう。
「 おい、黙ってないで何とか言えないのか貴様は 」
ラファエルが乱暴に椅子に座り、床が木と擦れ音が出る。 彼は感情の起伏が殆ど無いのだろうか? 声に心が全く篭ってない。 あぁ、そう言えばさっきから私は黙ってばかりだった。
「 あ、あの、お二人共……ありがとうございます。 私は、このお城に置いて頂けるんですか? 」
「 勿論だ、 父上にももう報告をしている。 とにかく今日は疲れただろうからゆっくり休むと良いよ。 君の世話係に指名した侍女長がもうすぐ君の部屋へ案内に来るだろうからね 」
そうか、私は今度はこの国で駒として、道化師の様に操られるんだろう。 この年頃の王子様はその優しい口調とは裏腹に目が据わっている。 きっと私の前で嘘を付くことに躊躇がない……何となくそれを確信した。