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「 カミーリィヤが来たと言うのは本当なのか? 」

「 ええ、まあすぐに騎士様が連れて帰ったけれどね 」



夜、屋敷に戻って来た蛇男は焦った様に出迎えで待っていた私の元へ駆け寄って来た。


「 すまない、驚いたろう 」


ああ、てっきりカミーリィヤの事で焦ったのかと思ったのに、私の事を気遣ってくれてたのか……そういうのが、何か辞めて欲しいんだ。


「 私達は仲直りしたんだって。 カミーリィヤがそう言っていたわ 」


あの子の名前を呼んだ私に、蛇男はとても驚いた顔をしたけれど、 でも、そのあと優しい顔で私を見つめる。


「 さぁ、屋敷に戻るぞ 」


何も聞くことはなく、何時もの様にごく自然に私に視線を向けてそう言って歩き始める蛇男の後ろ姿……闇に溶けそうな紺色に近い、胸まであるその黒髪と、風に流れる耳元の装飾。 それを見ながら心の中で呟く。




ねぇ、もしかしたらまだ間に合うかもしれないよ。




私は、どうしてあげるべきなんだろうか。


ふと、その後ろ姿の隣に、蛇男に笑い掛ける天使の姿が重なって……そして、私は何故か目を閉じた。


ーーー



毎晩共に過ごして…本当にこのままで良いんだろうか。 コレは蛇男の為にならないんじゃないか、だって屋敷に私が居る時点でカミーリィヤにも何かを勘違いさせてしまうんじゃないか……それに、恋人だと言う噂を、いつかカミーリィヤが知ってしまうんじゃないか。 二人の本当の想いを知ったのは、私だけかもしれないのに。


何で、朝からそんな事を考えているかなんて決まってる。



ーー初めて、蛇男の寝顔を見てしまった所為だ。


その寝顔は小さな子供の様に警戒心がなくて、心地良さそうに無防備で、スヤスヤと寝息を立てていて。


心が強く何かに潰されそうだった。


「 ……なんだ 」

「 アンタ、寝坊してんじゃない? 」

「 いや、今日は休暇だ 」


ぼーっと目を開けたその人は、まだ少し眠そうな声でそう呟いてから少し唸って、枕に顔を埋める。少し愚図っているようなその姿が何だか可愛いとすら思える……休暇の時だって早く起きてた癖に、今日は何故か寝坊したようだった。だから、初めて見たんだ。 この人の可愛い寝顔を。


「 ……王都にでも出掛けるか 」


枕から顔を出した蛇男は、少しだけ寝起きの甘ったるい声で寝台に腰掛けていた私を見上げる。


「 いや、遠慮しとくわ 」

「 私は疲れてなどいないし、その所為で寝過ぎた訳でも無い……気を遣うなと何度言えば分かる 」


こいつは、起きて早々に図星を突ついて来るから腹が立つ。


「 ねぇ、アンタ頑張りなよ……本当に好きなら黙って指咥えてるのは辞めなよ 」


私は蛇男を嗾ける。

呆れたような顔をしてそういう私に、蛇男が返事をすることは無い。


まだ、間に合うかもしれないよ?

あの異国の王子様に確かに心惹かれているかもしれないけど、本当にずっと好きだったアンタに直接想いを伝えられればあの子だって傾くかもしれないのに。


「 支度しろ、昼前には出よう 」


そう言って結局返事をせずに、部屋から出て行ってしまう。




ーー私は、本当に此処に居て良いんだろうか。





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