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何故今私はふざけた格好の男に剣先を向けられているんだろうか。



「 お前、此処で一体何をしていた? 何故そんな奇妙な身なりをしている 」



何をしていたと言われても、さっきの天使が眩しくて目を瞑った……そして、目を開けたら此処に居た。 ただ、それだけだ。 それ以上この不審者に喜んでもらえそうな回答は出て来ない。 それに、奇妙な身なりなんてこの男に言われたくない。 洋画に出て来そうな中世の騎士装束に身を纏い、長過ぎて床を這っているマントが凄く邪魔そうに見える。


黙っている私を睨みつけるその目は蛇の様な三白眼で、この状況が掴めない私は黙るしかなかった。


「 その口は装飾か? 身元を証明出来んのなら今此処で潔く死ぬか 」


そう言って私に同情など皆無で嘲笑って来たその男が、私の首に当てた剣先に力を入れる。 痛くなかったけど、少しだけツーっと血が流れ落ちて来た。


「 やめてラファエル!!!」


甲高い声を出してその男の腕を掴んだのは、それはそれは見目麗しい女の人だった。 金髪緑眼の蝶みたいな女性。


「 カミーリィヤ! 」


表情なんてなかった氷みたいなその男の顔が少しだけ焦った様にその女の人の身体を私から離そうとする。


「 危ないからお前は近付くなと言っただろう!?何故いつも私の言うことが聞けんのだ !!……おい、カミーリィヤ王女をこの化物に近づけない様にしろと申したであろう! 」


後ろにいた同じ様な騎士装束に身を包む人達に激昂を飛ばすその男。 何だか知らないがヤケにこの女の人が大切らしい……と言うか、王女? 頭が可笑しい集団なのか?


自分のいる場所を目だけでチラッと確認すると、 私がおかしいのか、もしくは夢としか思えない。



ーー大理石で作られた豪華絢爛としか言いようのない神々しい聖堂。


これは、一体何が起きてるんだ? 意味が分からなくて戸惑う私に、その女の人が同情する様な心配する様な目を向けてくる。


「 ……っ、ラファエル、よく見て御覧なさい! この方酷く怯えていらっしゃるわ! 」


あぁ、きっと馬鹿正直で良い人なんだろうな……人を疑う事も、そんな経験をする必要もないくらい誰かに護られていたんだろうと何となくそう思った。


「 おい、化物。 その髪と瞳は一体どうなっているんだ 」


化物呼ばわりするその男が、剣先で私の顎をグッと上げると切られた辺りがチクっと痛む。


「 …いっ、 」


思わず小さな声が出て顔が引きつる。 そんな私をその男はただ嘲笑って眺めている。


「 ほぉ、痛いと思う感情はあるようだな……そして、その唇は装飾ではないようだが? 何故口を閉ざす 」

「 止めなさいラファエル! エドワードが来るまでお待ちなさい…良いですか? その方を傷付けてはなりません!これは王女の命令です! 」


あぁ、もう夢なら醒めてくれ。 こういう芝居がかった茶番が一番イライラする。 何で私はこんな所に居るんだ、何故化物扱いされなきゃいけないの。


そんな張り詰めた空間を、凄まじい音が一瞬で遮る。 すると、聖堂に居た騎士達が一斉に美しい敬礼する。


「 おい、ラファエル! どう言うことだ!本当にいきなり現れたのか? 」

「 エドワード、このざまですよ。残念な事にこの化物は話し方が分からないようです 」


砕けてるのか丁寧なのか分からないその口調で、蛇の男は扉からやって来た何とも品のある男にそう溜息と共に話しかけている。低くて重厚感のあるその蛇男の声だけが聖堂に反射して響いて来た。 後からやって来たエドワードと言う人が、私をじっと定めるように見つめてくる。


「 ……本当に黒の髪と瞳。 何がどうなっているのだ、 何が起きている? 」

「 エドワード、近付いてはなりません。 コレは正体の分からない化物ですよ 」


蛇男が素早く後ろに回り、私の両手を乱暴に後ろに持っていく。 まるで犯罪者が確保された時みたいだ……ご丁寧に首筋の剣はそのままに。


「 ラファエル、この娘の怪我はお前か? ……幾ら何でもやり過ぎだ 」

「 御言葉ですが殿下、カミーリィヤ王女を護るには致し方ない事でございましょう 」

「 反抗の意思が無いか確認するだけで良いと言っただろう… すまない、とても震えているね、怖がらせてしまったか? 」


そう言って私の目線までしゃがみ込む仕草も品があって美しい。 震えているのは恐怖ではなく、化物扱いされたことやアホくさい茶番に心底イライラしているからに決まってる。

いや、でもこういう時『ポチ』ならどうするんだろう。 あぁ、そうか。


「 ……っ、ゔっ 」


表情を変えた私を見て、その上品な男が申し訳なさそうに眉を下げる。


「 済まない、泣くほど恐怖を与えてしまったか 」

「 ……っ、私、こ、怖くて! ごめんなさい! わからないんです…自分でも何故此処に居るのか、どうなってるのか状況が把握出来なくって、ごめんなさい!ごめんなさい! 」


私の頬にボロボロと涙が零れ落ちる。 そう、可愛い天然のおバカな『ポチ』ならきっとこうする。



ーー嘘泣きなんて息をするくらい簡単な事だ。



「 ラファエル、お前は優秀だがカミーリィヤが絡むと度が過ぎると何度も言ってるだろう? 」

「 あたり前です、私は忠誠を誓った騎士なのです。王女を護る事こそが役目に御座います故 」


後ろから蛇男の低い淡々とした声が聞こえてくる。 その声に気難しい顔をした上品な男が私に声をかけてくる。


「 名は、何と申す? 」


私はそれにまだ醜い偽りの涙が残った声で、静かに返答をした。





「 ……ポチ 」








ーー可愛い可愛いポチ。






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