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密室に男女。

男が寝台に女を押し倒す。


「 貴様、この状況の把握すら出来んのか 」


いや、ポチはどうだか知らないが私にはよく分かる。 ただ、何故逃げる事もせずされるがままなのかは、自分でも分かってない。 ああ、それよりも雨の音が怖くて仕方ない。 何も言わない私に腹立たしく舌打ちをする蛇男。


「 貴方が泣きそうな気がします 」

「 …っ、貴様に何が分かる‼︎ 」


それだけポツリと言った私に、蛇男の激怒が飛んでくる。 私には分からない……身分制度も無かったし。


ーー誰かを愛したこともない。


「 私には… 」

「 身分制度もなく呑気に生きていた貴様に…っ、私の何が分かると言うのだ‼︎‼︎ 」


ああ、珍しい。

こんなに顔を歪めて怒って悲壮を漂わせるなんて……そんなに、好きなのね、その癖に想いを伝えようとはしないんだね。


「 ……同情でもしてやろうと言うのか 」

「 ただ、貴方を1人にしたくないだけです。 多分、きっと 」


そっと頬に触れた私に、蛇男が蔑んだ嘲笑うような冷酷さを漂わせる。 確かに、この人を1人にしたくない。





ーーそれに、私も1人になりたくない。





首筋に蛇男の顔が埋まる。

私を纏っていた布切れが少しづつ落ちて行く……あぁ、それで良いんだ。 キスなんてない、愛なんてないこの虚しい行為。



「 カミーリィヤ… 」



最後の最後に、そうあの天使を呼んだこの男を別に恨んだりもしない。そう言えば、涼介も情事中に間違えて浮気相手の名前を呼んでたな。 あいつはそれすら気付いてなかったけど。



ーー私はいつだって二番目だった。



『 愛してるよポチ 』


そんな事言いながら、男達は私を見てなんか居なかった。 私はいつも誰かの代わりだったし、結局はポイ捨てされちゃってた。 でも、私はそれでもこの行為を求めた……だって、抱かれている間は、偽りだって嘘だらけだって、人の温もりが感じれたから。



ーー愛してると言ってくれたから。




ーーーーー

ーーー



「 ……悪い 」

「 謝られると、私が無理やりされたみたいではありませんか 」


服を着た蛇男が、寝台に裸体で座りこんで居る私にシーツを被せる。 窓の外は少しだけ雨が落ち着いた……あぁ、良かった。 もう怖くない。


蛇男が後悔に苛まれた顔を私に向けるけど、それに力なく微笑む。 それは、多分ポチの方だと思う。 この男もきっとあの王女の名前を呼んで私を抱いたなんて覚えてないんだろう。


ーーその癖、私の顔を何故か心配気に覗き込んでくるから不思議だ。 一度抱いた女に情でも移ったのか蛇男が私の力なく寝台に置かれた手に少しだけ触れてくる。


「 腹の皮膚はどうしたのだ 」


ああ、男はみんなそうだ。

情事の最中やその前、もしくは情事の後にそうやって同情目いた声で腫れ物に触る様な顔で聞いて来る。 私の真っ白な肌に、そこだけ爛れた汚い皮膚が広がっているから。


「 あぁ、小さい頃に鍋をひっくり返しちゃったんですよ 」


何時もそうやって答えると、馬鹿な男共は安堵した様に苦笑いする。

『 おっちょこちょいだなぁポチは 』そんな風に笑って、そしてまた欲を消化する為に私を何度も抱くんだ。 だから、この答えはポチのお決まりの返答。



「 ……お前は此処で寝ろ。 私が出て行こう 」


ああ、いつもと違った。

そりゃそうか、こいつはあの男共と違って私を抱いたことに後悔しかないんだ。 ヤケクソで違う女を抱いた事を心底後悔してるんだ。



ーーー


蛇男が出て行った部屋の中、1人でそのまま寝台に横たわっている。


「 今までの男の中で一番相性が良かったわねぇ、ポチちゃん 」


自分の髪で遊びながら、1人でケラケラ笑う私の声は何だか虚しかった。 別に愛のない情事なんて慣れっこだったし、お互いに利用しただけだ。 蛇男は行き場のない愛を私にぶつけて、私はただ人の温もりを求めた。



ーーなのに、酷く惨めに思える。


それは、生まれて初めての感覚だった。 男に抱かれた後に自分を惨めに思うなんて初めてだった。 蛇男が可愛いや綺麗と言ってくれなかったからだろうか、ただ淡々と私を通り越して、あの愛くるしい馬鹿な天使を見ていたからだろうか。


あぁ、やっぱり本物には敵わないんだ。 ただそれだけだ。



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