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他人なんてちょろい。
欺くのは簡単で呆れるほど単純。 馬鹿の一つ覚えの様に褒めて無邪気を装えば、大抵の奴等は私の事を『ポチは本当に良い子』なんて目を細めて絶賛する。 反吐が出るほど馬鹿で下らない。 私は23年の人生でそれを幾度も学んだ……いや、 寧ろ、それしか学んでいない。
” 女優の小鳥遊 椿さんが突然の思い病に倒れ早くも2ヶ月が経ちました……何故、あんなにも愛される素晴らしい女性に病は牙を向いたのでしょうか。 依然、小鳥遊さんの身体を病は蝕み続けています。奇跡の復活を望み、私達は小鳥遊さんのこれまでの活躍を纏めました。 ぜひご覧ください ”
TVから、ワザとらしい涙声が聞こえて思わず黒い溜息が漏れる。
「 ……やかましいんだよ 」
誰に言うでもなくそう言ってテレビを消すと、この無機質で何もない虚しい空間に静寂のみが訪れる。 涼介と別れてから4ヶ月が経った。
「 ……愛とか気持ち悪 」
『 愛 』 それは私がこの世で一番嫌煙している大嫌いで、心から嫌悪感が湧き出てくる薄っぺらい言葉。 馬鹿らしくて反吐が出る…… 愛なんて言うその寒気のする気味の悪い言葉を口に出すこと自体、私の口が穢れてしまった気分だ。
投げやりの心を落ち着けようと、ふと横たわったまま窓の外を見るとヒラヒラと雪が舞い落ちて来ている。
「 ……何が聖なる夜なのかしらねぇ 」
思わず呆れるのも仕方ないと自分で思う。だって、この時期の商戦でボロ儲けする何処かの企業に、馬鹿達が掌で転がされてるだけだから。 この建物からでも徒歩でいけるだろう銀座の街には、毎年この時期に流れるあのお決まりのテーマソングが流れてるんだろう。
ーーあぁ、なんてくだらない世界だ。
「 早く……終わらないかしら。 それか一層の事、地球じゃない星にでも行けたらいいのに 」
誰に言うでもなく、呟いた。
『 あら、ちょうど良かった。 今から貴方を此処じゃない所へ連れて行くつもりだったの、説得する手間が省けたわ 』
何事にも動じないと自負して居た私でも、突然のその鈴の様な声に驚いて振り返る。
「 ……え? 」
そこには絹糸の様に触れば壊れてしまいそうなほど繊細な金髪を腰まで揺らして、輝きを纏った天使みたいな人が慈愛の微笑みを浮かべて手を伸ばして居た。
ーーーそこで、私の記憶が途切れた。