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「 具合はどうだ 」


本当にこいつには抑揚ってもんが、全くない。 淡々と話すその口調に慣れたのは慣れたけど。 と言うか、首に怪我させたこいつが仮病を心配してる事が可笑しくて。


「 何故笑っている 」

「 いえ、貴方が私の具合を心配して下さる時が来るなんて不思議で 」


クスクス笑っているのは、ポチなのか、それとも私なのか。 そんな私を見て、蛇男が私の寝台の前で視線に合わせてしゃがみ込む……あれ、何か反省してる様な感じだ。


「 ……反論は出来ん。 あれは確かに全て私が悪かった 」


おや、とてもすまなそうに眉を下げている。 別に嫌味のつもりでは無かったのに、少しだけ申し訳なくなる。


「 ふふふ、冗談です! だって貴方にはその何倍もお世話になってますから! これで貸し借りナシですね! 」


そう言ってポチを張り付けて無邪気に笑うと、蛇男がジッと私を見つめて来る。 なんだ?


「 ……お前は、本当にカミーリィヤに似ているのだろうか 」



そんな事、私だって知らない。



ーーーーーー

ーーーーー

ーー



「 どうしたんですか⁉︎ 」

「 訓練で斬ってしまっただけだ 」


そう言う彼の手の平から血が滲んで来ている。 巻かれていた包帯はとても適当な巻き方であまり上手とは言えない。


「 ……何をする気だ 」

「 えぇ!見て分かりませんか? 」


大袈裟に驚くのは、世話焼きのポチ……何だろうか? よく分からない内に私は包帯と薬を片手に蛇男の手を取っている。 そして、血が止まったその斬り傷の上から塗り薬を塗り込むのを、蛇男は良い子に黙って見ている。 何も話すこともせず、黙々と包帯を巻く私をジッと蛇男が見つめる。


「 お前、ヤケに上手いな。 医師か何かをしていたのか 」

「 いえ、良くこうやって包帯を巻く事がありましたから! 」


ニコニコとポチが笑うのを、静かに蛇男が眺めている。 そうやって彼の手の包帯は綺麗に巻き直すことが出来た。


「 はい!完成です! 湯浴みの後、また巻き直しますからその時は教えて下さいね! 」


あぁ、自分でも拍手したいほど無邪気で可愛いポチだ。 素晴らしい。 蛇男はその包帯の手を感心した様に眺めている。 おぉ、小さい子供みたいで意外と可愛いじゃん。


「 ……礼を言う 」

「 ふふふ、いえいえ! 」


礼を言うって、それお礼じゃないし。 『ありがとうございました』だろ、なんて思う癖に私の心が少しだけポカポカしてる。


「 包帯を巻ける女など、この世には存在せぬだろうからな。 お前は珍しい女だ 」


そうか、そりゃ貴族の蛇男の周りの女は蝶よ花よの代名詞みたいなんばっかりだろうな。


「 カミーリィヤはこういう時、何時も泣いておどおどしていたからな……淡々と手当をしてもらうとは不思議な気分だ 」


あぁ、そうか。 ならポチも泣いた方が良かったのかもしれない……って事はこれはポチじゃなくて、私がしたって事なんだろうか……そっか。



ーーーーーー

ーーーー



鏡台の前でボンヤリと自分の身体を見つめる。 服を纏わない自分の裸体……あの頃の様に程よく肉が付いてて、男が言うには抱き心地のいい身体つき、らしい。 全てがあの頃のままだ。


「 これも、あの時のまま 」


ヘソのあたりに残る火傷の跡を、憎らしくなぞっても、消えたりしない。 そう、ずっと残る私の傷跡。


「 あぁ、可哀想なポチ 」


そう言って笑う私の顔は酷く滑稽だった。


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