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「 ポチ、慎ましい女性とはどういったものかしら…殿方ってどんな女性がお好きだと思う? 」


よくもまぁ、蛇男が居る前でこんな風に頬を染めてその台詞が言えるなと思う。 今まで見た女の中で一番タチが悪い…… 悪意の無い純粋なその言葉が何よりも邪悪で。 私はワザと机に置かれていたティーカップを落とした。 侍女が慌ててそれを拾いにやって来る。侍女に散々謝って話をうやむやにして王女様に問い掛ける。


「 王女様、申し訳ありません! えっと、何かお話して下さってましたよね…? 」

「 いえ、良いの気にしないで 」


王女様は恥ずかしがって多分2回も同じ事を言わないだろうと分かってたから、ワザとそうしてやった。 蛇男があんまりにも辛いと思ったから、勝手にそんな行動をとってしまった……侍女の手間を増やしてまで、何故、そんな行動をとったのだろう。


「 あのね、ポチ……私って 」


ああ、こいつ本当に分かってない。

頬を染めて無邪気に目をつぶるこの女の話をこれ以上、拳を握りしめて黙って目を瞑っている蛇男に聴かせちゃいけない。


「 ま、まって下さい王女様…… 」

「 まぁ! どうなさったの⁉︎ 酷く苦しそうよ⁉︎ 」

「 何か、急にお腹が痛くなって 」


私は大きな声で大袈裟に唸って見せた。 すると、侍女が心配そうに駆け寄って来て、蛇男も閉じていた目を開けて眉をひそめている。


「 あぁ、駄目だ…申し訳ありません王女様、今日はちょっと体調が優れないみたいです…… 」

「 大変! ラファエル、早く寝室へお運びしてあげて! 酷く辛そうよ! 」


焦ったようにお願いをする王女様に、蛇男が珍しく戸惑った様に頷き、すぐさま私の元へ駆け寄って来た。


「 立てるか? 」

「 ……はい、ごめんなさい 」

「 謝らなくていい 」


どれだけ私が苦しそうでも絶対に抱きかかえなかった蛇男を見て、とても嬉しかった。 人を好きになると、そうやって特別扱いするんだと、私はそこで教えて貰えた気がしたから、とてもホッとした。 やはり王女様が特別なんだと思うとこの蛇男の気持ちが本物なんだと思って、やっぱり応援してやろうと思えた。


部屋を出て、私の速度に合わせて蛇男がゆっくり歩く。 時々チラッと私の顔色を確認する視線が分かった。

まぁ、正直全然苦しくもないし、身体は絶好調なので、ゆっくり歩くのもめんどくさかった。


「 本当に歩けるか? 」

「 はい、大丈夫ですよ 」


それでも一応演技は続けなければ、変に同情された事に余計に蛇男が傷付いてしまうだろう……って、何故わたしがこんなに気を遣わなければいけないんだ。 阿呆らしい。


「 ……本当に、具合が悪いのか? 」


疑うようなその声に思わずドキリとする……バレかけじゃねぇかよ。 私は集中して、言葉を紡ぐ。


「 本当に、とは、どう、いう? 」

「 いや、すまない此方の思い違いだ……気にするな、話さなくて良い 」


そうこうしてる間に、自室まで辿り着いて蛇男がゆっくり扉を開けてくれた。


「 医師を呼んでおこう 」

「 いえ、良くあるんです…多分寝不足なだけなので、寝れば治りますので大丈夫ですよ! ありがとうございます 」


そうぎこちなく言って、お礼を言った私に頷いた蛇男を見てから、扉を締めた。


立ち去る蛇男の特徴のある足音を聞きながら、私はため息を吐く。



「 ……私、なにしてんだろ 」



そう、本当にどうしてだろう。

特に自分に何か得がある訳でも無いのに、何故かあの蛇男が哀しむのが見たく無かった。



ーーその日部屋に運ばれて来た夕食を見た私は、酷く落ち込んだ。



「 ……何なのこれ、病院食みたいなんだけど、最悪 」



お粥みたいな胃に優しそうなその夕食は多分、蛇男が給仕に指示したんだろう。 あぁ、良いことなんてするんじゃなかった、割とまじで。



「 味ないじゃないの、本当に最悪」




ーーそう言いながらも、何で笑ってるのか自分でも分からなかった。


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