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もうすぐで一年が経つ。

私が来てから、この国の経済は以前にも増して大きく成長したらしい。

もうそろそろ、此処を出て1人で静かに生きて行こうか。 そう思いながらも、何がしたいのか分からずこのぬるま湯につかったままだ。


「 用意は出来たか? 」

「 はい! 早く行きましょう! 」

「 ……お前を待っていたんだろうが」


呆れながらも抵抗せず私に引っ張られる蛇男とは以前よりも距離が近寄ったと思う。 私じゃなくて、ポチが。 王女はあれからも何度か縁談を断り続け、私も嫌々ながら蛇男の影の応援者としてあの王女と毎日の様に過ごしていた。


そして蛇男は屋敷以外に出掛けようとしなかった私を王都に連れ出してくれる様になった。 でも、私は彼等に一切心を開いていない。 どうせ、いつかは切れる縁だし、私に彼等は必要ないから。



そんなある日のことだった。



「 へ、偽装? 」

「 ……無理にとは言わん 」


なんと蛇男が、自分の恋人役をして欲しいと頼んで来たのだ。 25歳になった蛇男には、両親から無理やり縁談が持ち込まれる様になった。彼は王女が好き。しかし、このままでは勝手に婚姻までされかねない状況らしい。 何となくその恋心がバレているだろう私は、有難い事に自分に一切興味を示さない。 他の女はうざったいほど纏わり付いてくるのに。 そんな好条件の私に頼んで来ることは良く良く考えれば当然だろう。 蛇男がそう言った訳ではないけれど簡単に想像がつく。 私も蛇男が結婚したら困る。 だって2人の愛を証明して欲しい。王女の気持ちはどうなのか知らないけれど。


「 えぇ、勿論! 私で良ければ 」

「 ……そうか、すまないな 」




ーーーーーー

ーーーー

ーー


「 あら、それならそうと早く言ってくれれば良かったのにラファエル 」


私を嬉しそうに見つめるのは蛇男のお母さん。 あれから何度も訪れていたこの屋敷。 いつの間にか蛇男の母親は私をとても可愛がってくれる様になった。


「 ポチ様が貴方の恋人だなんて気づかなかったわ……ごめんなさい、ラファエルが縁談をするかもと聞いて落ち込ませてしまったかしら 」

「 私の立場上、中々周りに打ち明けれ無かったですから……でも、私は彼を信じていました。 彼はとても誠実ですし、とても大切にしてくれてます。 だからきっと私との事をお母様に話してくれるだろうって。 やっぱりまだ誰にも言えないので、お母様だけにお伝えする事に決めたんですけれど 」


まぁ、驚くほどスラスラと嘘が出てくる。 笑顔でそう言った私に驚いていたのは蛇男だった。 蛇男の母親は嬉しそうに私を抱きしめて、未来予想図を嬉嬉として話し出す。 孫がどうだのと言われた所で結局は嘘なので、少しだけ罪悪感が湧き出て来る。


「 母上、この子が困っているだろう……辞めてあげてくれ 」


そう言って私の肩を掴む蛇男。

そういえば、触れられたのは初めてだ……そうか、蛇男は『この子』とか言うのか、へぇ、そうなんだ。


「 あぁ、ごめんなさいポチ様! …で、貴方はこの馬鹿息子のどこに惚れてくれたの? 教えて教えて! 」


上品なドレスに身を包む貴婦人である蛇男のお母さん。 私は唯一この年代の女性に弱いんだ、優しくされると涙が出そうになる。


「 彼は無愛想に見えて、実は人一倍優しいんです。 私を王都に連れ出してくれたり、今日だって風邪をひいてはダメだからとコートを用意してくれていたんですよ 」


その言葉に蛇男が驚いている。

あぁ、コートの事がばれていたことが照れ臭いのだろうか。 そう、こいつは時間が経つ程に何となく気に掛けてくれ始めた。 きっと、他人から知り合いに昇格したんだろう。 私はそんないい奴である蛇男の為に恋人役を演じ切る。


「 あら! 可愛い、ポチ様、照れて頬が赤くなってらっしゃるわよ? 」

「 や、恥ずかしい! 辞めてくださいお母様、本当に恥ずかしいです 」


そう言って頬を隠して俯けば、大体の人間は胸キュンしてくれる事を私は知ってる。 案の条、蛇男の母親は私に射抜かれた。


ーー人を欺く事は私にとって朝飯前なんだ。



ーーーーー

ーーー


「 来週子供達もこの屋敷に来るから、また遊びにいらして! 」

「 はい! ありがとうございますお母様っ! 」


そう言って抱きつけばもう完璧だ。 この母親はすっかり私に絆された。


「 母上、もういいか? 私達は戻る……これを羽織っておけ 」


淡々と言葉を繋いだ蛇男が、そう言いながら私の腰に手を回す。 そして、宝物の様にコートを私に掛けてギュッと自分の方に引き寄せる……あぁ、人の温もりだ。 偽物だけど、今、本当に大事にされてるみたい。


それをみて囃し立てる母親と別れて私達は馬車に乗り込んだ。 揺れる馬車の中で、珍しく申し訳なさそうに蛇男が眉を下げる。


「 すまなかった、母があんなに話を聞いて来ると想像していなかった 」

「 ふふふ、当たり前ですよ。 大事な息子が初めて恋人を連れて来たんですから、あ、でもまぁ偽物だから……お母様には申し訳ないですけれど 」


そう言うと、更に申し訳なさそうな声で蛇男が声を紡ぐ。


「 お前はカミーリィヤに似ている……ああいった嘘を付くのは苦手だったろう。 悪かったな 」


苦手? むしろ逆。 私にとって一番得意な事だった。 ただ罪悪感を持ったのは今日が初めてだったってだけで。


「 えへへ、でもこれで暫くは縁談も持ち上がらないでしょう? 御力になれて良かったです 」


そう言って微笑めば、いい。

確かに今回の事はポチとは正反対の事だった。 まぁ、誰にも言わないよう遠回しに釘を刺しておいたし、これで心置き無く王女と蛇男の行く末を見守れる。

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