13
「 ポチ様、コレはラファエル様からです。 不器用でしょう? きっとお恥ずかしくて照れ臭くて直接お渡し出来なかったのですよ。 今日、子供達の世話をしてくれた御礼にとの事です。 どうぞ、お受け取りください 」
王宮に戻ったら、蛇男は私を馬車から降ろすと振り向きもせず早足で、立ち去って行った。 冷酷なのは何時ものことなので、気にせず自室に戻ろうとした時、使者が私を呼び止めて、満面の笑顔でクスクスと喉を鳴らしてそれを渡して来た。
ーーあまりの衝撃に、私は笑えなかった。
「 ポチ様? 」
「 あ、ごめんなさい。 嬉しくって思わず固まっちゃった! 」
時々砕けた話し方をすれば、その相手は急に親近感と愛着を覚えるのは、私が人生の中で学んだ経験である。 案の定、あまり付き合いのなかった使者は私にさっきより砕けた笑顔で話し掛けてくれる。
私は平常心を装って、相槌を打ちながら他愛ない話をしてその場を後にした。
ーーーーーー
ーーーー
ーー
窓から漏れる月明かりだけが、私の部屋に灯りをくれていた。 そしてそれを邪魔させる様に、私はゆったりとした仕草で蝋燭に火を灯す。 ユラユラ揺らめくその灯りは哀しげで酷く美しい。 そして、その灯りを未練がましく見つめた後、私はおかしな笑いが止まらなかった。 どうかしてると自分でも思うし、恐ろしくて不気味だと自分でも気味が悪い。 でも、もう良く分からない。 どうせなら一層の事このまま泣ければ良いのに、本当の泣き方なんてもう。
「 目障りなの、心の底から 」
そう呟いて、私は手に持っていたそれを蝋燭の火に近付ける。 ソレは段々と角から燃えていき、美しい色から醜い黒色に変わって燃えていく。
「 大好きな訳ないでしょう…? 」
そう、私はこの美しい物が大嫌いだった。 炎が燃え移ったその赤色は残酷にも全ての花びらを失い、茎だけが寒そうに私の手に握られている。
ーー蛇男がくれた、美しい花だったもの。
「 王女様には相応しい、私には相応しくない。 ねぇ、そうよねぇ 」
クスクスと喉を鳴らして、白い花を燃やしていく私はきっと歪みに歪んで、もう純粋な心なんて戻って来ない。 あの馬鹿正直な天使のようには、なれない。 きっと、物語の嫌われ役の魔女か悪魔だろう。 それで良い、だってポチの間は皆が私に微笑みかけてくれる。 ポチになれば物語の主人公みたいに無垢でいれるから。
鏡台に映る自分の顔が、酷く醜い顔で歪んで笑っていて、それすら可笑しくて笑いが止まらない。
『 ポチって悩みなさそう 』
『 愛されて育ちましたって感じが全身から出てるよねぇポチって 』
ポチはとても可愛い子。
馬鹿で、赤ちゃんみたいで、無様。