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赤と白、その花は何時だって私を蔑んで評価している。 私はそれから一生逃れる事は出来ない。


あぁ、今此処に誰も居なくて良かった。 だってポチはこんな顔をしない、何時だって向日葵の様な笑顔と少しだけ馬鹿な阿呆らしい笑顔をするんだから。


「 無様ね……ポチ 」


風が吹いてその花が揺れると、香りが鼻につく。 あぁ、苦しいな。 そう思って私は何の景色も見えない様に瞼を閉じる。 暗闇に安堵してそのまま風に身を委ねた。



「 馬車が来た、戻るぞ 」


その声に瞼を開けてその声の主を見つめる。 また蛇男は眉間に線が刻まれて難しい顔で私を睨み付けていた。


「 はい! 今日は本当にありがとうございました 」


満面の笑顔で頷いた私は無邪気な足取りで蛇男の側に近寄る。 すると、珍しくそのまま背を向けることなく私に話しかけて来た。


「 あの花が気になるのか 」

「 え? 」

「 何度も同じ事を言わせるな、お前の耳は飾りか 」

「 あぁ、あの赤と白のお花ですか? 」


淡々と先程と同じ様に私を見つめるその顔に、私はちゃんとポチの笑顔で答えれたのだろうか。


「 あの花は、此方では何と言う名前で呼ばれていますか? 」


その声に蛇男は赤と白をその瞳に移す。 そして抑揚もない冷たい声で静かに答える。


「 ロビィリャだ 」


そうか、あの花はそんな名前を貰ってるのか。 この世界には花言葉なんて存在しないらしいけれど、あの花はそれでも凛々しくその花言葉を背負って私を見下し続けるんだろう。


「 お前の世界では何と言うのだ 」


珍しい。 蛇男は私と会話を続けようとしている。 私はポチの仮面を貼り付ける。 馬鹿で無邪気なポチは、きっと何も考えず教えて上げるだろう。


「 カミーリィヤです 」


ほら、蛇男の顔が少しだけ固まったけれど、ポチはそんな難しい事に気付かない。 あの王女も同じだろう、そうやって無邪気に鋭利な刃物になって心を抉る。


「 カミーリィヤと言う名前で、花言葉は『 至上の愛らしさ ・愛らしい 』なんですよ、王女様に相応しい花ですよね! あれは愛の花ですから 」


ほらね、蛇男はきっと瞼の裏にあの無垢な天使を思い浮かべて、きっと以前の様に側にいれなくなった愛しいあの人に心が掻き乱されている事だろう。 見せて欲しい、愛の凄さと言うものを、愛が素晴らしいと言うことを。 愛なんてものに嫌悪感しか湧き出て来ない私に、その尊さを身を持って教えてほしい。


「 You’re a flame in my heart 」

「 何を言っている? 」

「 あの花のもう一つの花言葉です 」


どんな境遇だろうとあの無垢な天使を求め続けると見せつけて欲しい。 だから、私は蛇男の心から天使が逃げていかないように鎖をかける。


「 『あなたは私の胸の中で炎のように輝く』 そう言う意味です、素敵だと思いませんか? 至上最高の愛の花なんですよ! 」


無邪気に笑う私を蛇男は見ていなくて、ただ、赤と白の花に釘付けになっている。 愛され上手で、いつも周りから無償の愛を受けて世間の残酷さなんて知らず、苦労を知らない馬鹿正直に育ったあの無垢な天使にこそ相応しい花だろう。


「 そうか、お前はあの花が好きなのか 」


衝撃を受けた癖に、それを表に出さない蛇男が花から視線を逸らせずに私に静かに問いかけてくる。


「 大好きです! だって愛の象徴みたいなお花ですよ⁉︎ 女性の憧れじゃないですか! 」


両手を空に掲げて、馬鹿みたいにはしゃぐ私をジロッと冷たい目で睨んでため息を吐く蛇男。そんな彼の後ろから、待ちくたびれたのか馬車から走って来たのだろう城の使者が、恭しく蛇男に声をかけて来た。


「 戻るぞ 」

「 もうっ! 本当に冷たいですね! 」

「 ラファエル様、ポチ様はこんなにも可愛いらしいではありませんか 」

「 ふん、私には馬鹿にしか見えぬ 」


それだけ言って背を向けた蛇男に、私は怒った素振りで甲高い声でケラケラ笑った。 使者はそんな私に優しい眼差しを向けてくれる。 計算通りだ。だって、ポチはこうやって自然と皆に囲まれる子だから。



ーーーーーーーー

ーーーーーー

ーーー



揺れる馬車の中、ひたすらに蛇男は私を睨みつけてくる。 長くて邪魔そうなその足を優雅に組んで、思い馳せるように頬杖をつくその様は雑誌やゲームから間違えて出てきたようだ。


「 おい 」


何故そんな怒った声で睨みつけて呼んでくるのかさっぱり理解不能だ。 人間は愛嬌だよ、愛嬌。 心の中で愚痴りながらも私はポチの笑顔で返事をする。


「 そんな事はしなくていい 」

「 ……え? そんな事とは 」

「 分からんのか? お前の好きな様にしたら良いと言っているんだ 」


呆れた様にため息を吐かれても唐突過ぎて全く意味がわからない。 蛇男は本当に言葉が足りない。 首を傾げる私に、蛇男は目頭に手を当て考え込む。


「 私に気を使わずとも良いと言ってるのだ 」


あぁ、そう言う事か。

城に籠らなくても、好きな様に出掛ければいい私はそれを迷惑に思ったりしない……多分、そう言いたいんだろう。


「 ふふ、ありがとうございます 」


今の微笑みはポチじゃなかった。

あぁ、ちょっと失敗した、蛇男は私の笑顔を見て少しだけ驚いている。 そのまま黙って蛇男は馬車の小さい小窓から流れる風景を静かに見ていた。 夕陽に照らされて耳の装飾がキラキラと外の色に染まって、 胸まであるそのサラサラの紺の髪が相待って、まるで儚い女性に見える。


私は一人の時間以外は完璧にポチを演じ切る。 それはもう何年も続いてる私の一人芝居だ。 今も、鼻唄を歌って無邪気に身体を揺らす。


「 貴様は呑気な奴だな 」

「 あ、煩かったですよね…えっと、申し訳ありません 」


冷酷なその顔が私を睨み付けるから、一応怯えた顔で謝罪をしたら、より一層に蛇男の顔が険しくなる。


「 ……元々こういう顔付きだ 」

「 え? 」

「 睨んでいる訳でも、貴様に怒っている訳でも無い……癖の様に謝るよはよせ、気分が悪い 」


あぁ、成る程。

勘違いさせてごめんね、怒ってる訳じゃないからそんなに謝らないでね……と言うことか、何故いちいち解釈しなきゃいけないんだ。 愛想が悪いというか、この人は表情を素直に出すのが苦手な男なんだ。 なんか個性的な人ばっかだな。


「 ……次は再来週だ 」

「 何がですか? 」

「 お前は本当に馬鹿なのか? イヴァンと約束していたのは貴様だろう 」



連れて来てくれるのか……何だかんだ最近ちょっと棘が無くなって来たなこいつ。 あぁ、可愛い子供達の笑顔が脳裏を過る。 思わず思い出し笑いをしてしまった私を蛇男が睨み付ける。 そっか、睨み付けてる訳じゃ無いんだったっけ。



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