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私の小学生時代からのあだ名は『ポチ』
明るくて無邪気で少し天然。 そして、赤ちゃんの様な無垢な性格に子犬の尻尾が見えそうなほど人を疑わないから。 周りはそんな風に私を評し、いつも笑顔で私をポチとそう呼んだ。
いつだって、皆の可愛い可愛い『ポチ』
「 涼介、私はそれでも貴方と過ごした時間は宝物だよ。 その子を幸せにしてあげて 」
「 ポチごめん、本当にごめん…お前みたいな子を傷付けて本当に本当にごめん 」
「 良いの、私は貴方と付き合えて本当に良かったよ。 高校からお友達だったんだしさ、これで変になるのはやめようね? お互いこれからもお仕事頑張ろう! 」
電話越しの男がやはり何時も優しいポチのその言葉に、勘極まった様に何度も泣きながら謝罪と感謝を不良品のロボットの様に繰り返す。
ーーついさっきまで私の恋人だった人。
浮気した挙句、そちらの女に熱を上げてしまい私は呆気なくお役目御免になったようだ。
「 その子を大切にね、もう浮気なんてしちゃダメだよ? ふふ、でも私の事を愛してくれてありがとうね! 」
最後の電話を明るく終わらせた私は、ゆっくりと電話を切る。 私は少しも泣いてない……だって、悲しくもなんともない。 ただ、別れ際のそういうやり取りがアホらしくて力仕事を終えた様な溜息が漏れる。 億劫に首を鳴らして何と無くテレビを付けた。
” 今日はスタジオに斎藤涼介さんにお越しいただきました! 今夜9時からいよいよドラマがスタートですね、是非意気込みをどうぞ! ”
” えー、正統派の恋愛ドラマですが、皆さんの心に残る様な最高のドラマが出来たと思っています ”
バラエティ番組から、今先程別れを告げて来たばかりの男の嘘臭い話し方と好感度を気にする笑顔が流れてくる。 間の悪いテレビの映像に思わず顔が歪む。
「 ……めんどくさ、勝手にその女のとこ行けよ。 別にお前の事好きでもなんでもないっての。 酔いしれてんじゃねぇよバーカ 」
『 ポチ 』 そう呼ぶ人を私は心の中で酷く嘲笑って生きてきた。