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シークレット

作者: ゆーすけ




「好きな人がいるんだ」

 突然、暖人はるとがそんなことを言い出すものだから理央りおの心臓は跳ね上がった。

「へぇ……どんな子なの?」

 務めて平静を装いながら尋ねる。声が震えていないか、理央はそれだけが心配だった。



 暖人と理央は出会った時からまるで昔から知っていたかのように馬が合った。お互いが恋人を見つけるために参加した合コンで出会ったにも関わらず、二人の関係は親友のようだった。

 お互い何でも話せる間柄で、出会ったころはよく理央も暖人に恋の悩みを打ち明けていたのだが、いつも相談に乗ってくれる暖人にいつの間にか理央は思いを寄せるようになっていた。


 友達と遊んでいる最中も、気が付けば暖人の顔を見つめている自分に気付いて目をそらす。まさかこいつを好きになるなんてあり得ないと、理央は何度も自分に言い聞かせた。それでも一度気付いてしまった感情をそう簡単に抑えられるわけはなく、暖人に会うたびに気持ちをおしこめるのに苦労した。おかげで平静を装うことは得意になったが、反面無理やり押さえつけた気持ちは胸の奥でどんどん大きくなっていった。



「ちょっと相談に乗ってほしいことがあるんだけど」

 そう言われた時に理央は嫌な予感がした。実際その予感は最も聞きたくない形で的中してしまった。


「前から気になってる子がいてさ。その子はきっと俺の事なんかなんとも思ってないんだろうけど、やっぱり告白したほうがいいかな?」

 恥ずかしそうにそう言った暖人の顔に胸がズキンと痛む。

「……好きなんでしょ? だったら、告白しないと何も始まらないよ」

「そうだよな……」

 恥ずかしそうに暖人ははにかむ。その顔を自分のために向けてくれたらと思ってしまう。



 もしかしたら暖人も同じ気持ちなんじゃないか? そう思ったことは何度もあった。


 不意に目があった時。

 何気ないことで一緒に笑いあえた時。

 何も話さなくても二人きりでいられた時。


 独りよがりだとわかっていてもどこか期待していたことに今更気付く。もしかしたらはやっぱりあり得なかった。

 親友という間柄を作ってしまった自分に後悔してしまう。この関係をたった一言で壊してしまうかもしれない。そう考えると理央はどうしても「好き」とは言えなかった。



「で?」

 無理やり理央は明るい声を出した。どうにもならないのならせめて親友としての自分を最後まで演じようと心に決める。

「誰なのよ?」にっこり笑顔を作る。

「うん。そうだな。明るくて、いい子だよ」

「可愛いの?」

「そりゃあ、可愛いよ。いつも笑顔でさ、すこし意地悪なところもあるんだけど、一緒にいて楽しいっていうか、安心するっていうか」

 言いながら暖人の顔が少しだけ赤くなったのを理央は見逃さなかった。


 笑顔は崩れていないだろうか?

 まだ声は震えていないだろうか?


「……あたしの知ってる子?」

 そう聞いてから理央は瞬時に後悔した。もし知り合いだったら自分は恐らく恐ろしいまでに嫉妬してしまう。

 この質問には答えてほしくなかった。早く違う質問に塗り替えなけなければ、と考えているうちに暖人の口から「うん」と聞こえて理央は頭が真っ白になった。

「お前もよく知ってるよ」


 無理やり作っていた笑顔がそのまま冷たく張り付いていくのが分かった。


「だれ?」

 頭の中ではこれ以上聞きたくないと思っているのに、口が勝手に動いてしまう。


 暖人の口が動く。誰かの名前を言っているようだったけど理央には聞こえなかった。



「ホントはもっと早く言いたかったんだけど、なかなか言い出せなくて」

 暖人ははずかしそうに鼻の頭を掻いた。

「え?」

 理央はキョトンとする。聞こえなかったのだから仕方がない。

「だってさ、もう3年以上もこんな関係で、今更この関係を壊したくなかったんだよ。言ってもし断られたらもう二度と同じような関係には戻れないだろ?」


 暖人が何を言っているのか、理央は必死に理解しようとした。しかしすればするほど理解とは程遠い方向へ考えが向いてしまう。


「どう?」

「どうって?」

「いや、だから、好きなんだよ」

「誰が?」

「お前の事が、だよ」


 ようやく耳に届いた言葉はするりと耳から抜けて気を付けないとどこかへ無くしてしまいそうな気がした。


「なんで?」

 無意識にそう尋ねて、理央はハッとする。

「なんでって……」

「だって、あんたまるで全然あたしに興味ないような感じで……」

「そうしないといけないような気がしてさ」

 眉をはの字に曲げて暖人は弱弱しく笑った。

「お前は俺の事きっと友達だと思ってるだろ? だから俺もずっと友達でいようと思ってたんだ」

 そんなことない、そう言おうとして理央は言葉に詰まった。何故声が出ないのかと不思議に思う。

「俺もこの関係を壊すのが怖くてさ。お前とこうして話すことができなくなるくらいなら告白なんてしないほうがいいって、何度も思った。でも、抑えられなくなっちゃったんだ。やっぱり、俺は理央が好きだから」


 そう言ってはにかんだ暖人の顔がゆっくり滲んで理央はようやく自分が泣いていることに気付いた。


「な、なんで泣くんだよ?」

 理央の涙を見て暖人はにわかに慌てる。いったいどっちの涙なのかわからなかった。

「ゴメン……」

「あたしも……」

 声を詰まらせながら理央は今まで必死に抑え込んでいた気持ちをようやく、ゆっくりと言葉にした。

「あたしも、好きだよ」






なるべく無駄を省いていたら今までで一番短い物語になりました。(笑)

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