第6話(終)
「実に馬鹿な真似をしたようだな。非常にお粗末だ。あんな手に乗るのは自称執事くらいだと思うが」
厳しいジェームズの声に、ハドソンは答えない。
それをアイリはおろおろしながら見ていた。
部屋は暖炉のおかげで温かい。あれからすぐにジェームズは解放されたものの、アイリとハドソンの報告で急激に機嫌が悪くなったのだ。
「私の書いたメモは最後まで見なかったのか?」
「見たさ」
「ではなぜその通りにしなかった。君もよくわかっていると思うが、私の計画は君のそれよりもはるかに安全で正確だった」
「君を助けたいと思ったからに決まっているだろうが!」
耐え切れないとばかりに怒鳴るハドソン。アイリがびくりと肩を震わせるのに、誰も気づかなかった。なぜなら、即座にジェームズが怒鳴り返したからだ。
「私は君が傷ついたり死んだりしてまで助かりたいとは思わない! 君のやったことは馬鹿としか言いようがないじゃないか! 命を軽々しく扱うな! 余計なことをしたとしか言いようがないぞ!」
そう怒鳴られ、ハドソンの顔が傷ついたように引きつる。
その様子を見て、ジェームズの顔も引きつる。
「…………」
アイリは何もできず、ただ立っているだけだった。
「……帰る。余計なことをしてすまなかった」
ハドソンは部屋に戻っていく。アイリはそれをただ黙って見送った。
「…………」
「ジェームズさん」
「アイリーン、見たか。大人でも喧嘩をするんだ。そして、大人でも仲直りの仕方がわからない時がある」
「ごめんなさい、言う」
「ああ、だがその一言が、凄く難しい。私は君ほど素直じゃないんだ」
ジェームズは大きく息を吐く。
「すまないが今日は晩御飯はいらない。君は食べたかったら1人でとってくれるか? 私はもう休む」
そう言って、ジェームズは寝室へと入っていった。
アイリはまたそれを黙って見送り、小さくため息をついた。
『……2人ともガキなんだから……』
アイリには痛いほど2人の思いが伝わってきた。
お互いにお互いを大事に思いすぎてこじれてしまっているものの、本来の2人がどれほど仲が良いかを知っている。そしてどれほどお互いを大切に思っているかも。
もはや、2人はお互いがいないと駄目なのだ。
特にジェームズのような気難しい男と付き合えるのは、ハドソンのように心が広く、細かいことを流せる人でないと無理だ。
『面倒だなあ……』
アイリは小さくため息をつくと、どうやって2人を仲直りさせたらいいかを考え始めるのだった。




