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日向の娘  作者: 野津
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【後日談】珊瑚

二人のその後。天孫の独白。

後日談と銘打ちましたが、少し違うかもしれません。

アンハッピーエンドにつき要注意。

遥かな神代かみよ


葦原 中国なかつくにの南に位置する筑紫日向国を治める国つ神・大山津見神の二の比売ひめ、神阿多都比売は天孫邇邇芸命の妻となり、異母姉・石長比売の残した怨恨の念によって燃え盛るほむらの中に閉じ込められ、その火焔陣の中で身篭っていた火照命、火須勢理命、火遠理命という三柱の御子を産み落とした後、懸命の治療の甲斐も無く、夫・邇邇芸命の腕の中、眠るように遥かな黄泉路へ旅立った。


壮麗な高千穂の宮にひとり残された邇邇芸命は、己が生涯唯ひとりの妃と定めた最愛の妻が、その命を懸けて護り切った三つの忘れ形見を心底慈しみ、高天原より遣わされた多くの神々の手を借りる事無く、手ずから遊び相手を勤めるほどであったが、虚無感は募る一方だった。






喪明けの早朝、天孫は生前の妻が願いにこたえんが為、天孫降臨の折、祖母・天照大御神より授けられた天叢雲剣によって高千穂の宮の一柱を斬り倒し、ひつぎしつらえ、そこに妻の遺骸と共に鏡・つるぎなどの副葬品も納め、彼女の故郷ふるさとである日向の灘へと沈めた。


妻の死した時にすら、一滴ひとしずくなみだも流すことがなかった天孫だったが、重石を付け、徐々に蒼き波間へと沈みゆく柩を眺める内、いつの間にか静かに落涙していた。


こらえるように固く引き結ばれた口元が微かに震え、灘を吹き抜ける潮風によって両の角髪みずらに纏め切れなかった天孫の長くつややかな黒髪が吹き上げられる。



未だ夜明け前、東の空に天照の日輪の陽は無く、海上は薄暗闇のままである。


そんな中、亡き妻との短過ぎた蜜月を思い、天孫は血の滲む程に唇を噛み締める。



「何故、わたしより先に逝った…!」



喪って尚、愛しい妻。

恋しき少女おとめ


最早この世に無く、二度と逢いまみえること叶わぬからこそ、余計に想いは募る。


強引にこの腕に捕らえ、抗う彼女を力尽くで奪い、漸くその心をることが叶った時の悦び。

その想いを胸に、この先共に永久とわに近き歳月ときを過ごす筈だった。


だがその命は、指の隙間から零れ落ちる浜の砂のように、この手からすり抜けていった。



『見掛けない子がいるが、誰だい?』



笠沙の岬で出逢った、潮風に煌めく水面みなもの如く閃々とした眼差しの、日向のすが


あの澄んだ清冽な双眸に見据えられた時、既に心奪われていた。



「これからの永き歳月、其方の居らぬ憂さを、わたしは一体如何すれば良いのだ!?」



柩が沈み、その姿が完全に見えなくなった後も、天孫はひとり打ちひしがれ続けた。


日輪の陽は未だ昇ること無く、薄暗い闇がその支配の手を緩めることは無い。



「我が、愛しき妻よ――。其方が御魂は、今、何処いずこ流離さすらうか…」



己の命よりも大切な者の死を受け止め、未来さきへと歩み進めるには、葦原中国を統べるべく遣わされた天孫は余りにも若年過ぎた。






余りに早く亡くした愛しき妻を求め、若き天孫はこれからも嘆き続ける。


その悲痛なる心の慟哭が消えることは無い。

これにて完結です。

最後までおつき合いくださり、ありがとうございました。

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