第10章 リークの力
「え?」
現在ファンベルトとつばぜり合いをしている。
開始直後、いきなりの突進攻撃から巨剣を横凪ぎに振り抜かれた時、リークは剣ごと真っ二つにされ昇天する姿を想像した。
しかし、ファンベルトの剣とリークの剣は火花を散らしながらつばぜり合いをし、両者拮抗の状態が続いている。
いやこの表現は正しくない。
正確にはリークが圧倒的に優勢だ。
本人以外は気づいていないが、リークはまったく力を込めていなかった。
「俺の剣を受け止めるとは、以外だなぁ」
目の前で大男が嘲笑しているが、リークはその姿がひどく滑稽に見えた。
ファンベルトは徐々に力を強めているが、リークには羽毛ほどにも感じない。
こいつ手加減してくれているのか?
あまりの軽さに思わず疑ってしまうが、ファンベルトの表情を見る限り本気だろう。
試しに少し力を込めて押し返してみる。
「な、なにっ?」
先ほどまで嘲笑を浮かべていた顔が、一気に引き締まる。
すぐさま巨剣を中段に構え、再度攻撃してくる。
縦への振り抜きがわかっていたリークは、ファンベルトが力んだ瞬間に左に避け、変わりに横凪ぎを放つ。
「くっ!?」
しかしそこはアトラス最強といわれる男だ。
リークが放った横凪ぎを、直前まで降っていた剣で弾く。
技の途中の剣を止めるなんて......
「バケモノ級だな」
ファンベルトは返事の変わりに剣を唸らせる。それをリークは弾く。
いつしかリークは決闘を楽しんでいた。
現在世界では決して味わうことのできない緊迫感。
徐々に周りの音が聞こえなくなり、剣尖に集中する。
右左、右左。
ファンベルトの放つ剣を目で追い、追い越す。
もうリークにはどこにどのタイミングで剣が通るのかはっきりと見えていた。
「ここだぁ!!」
ファンベルトが放った垂直斬りを先読みすると、頭に当たる瞬間剣で弾く。
完璧なタイミングで弾かれた巨剣は大きくのけ反る。
リークは初めて攻勢に出た。
右左と剣を乱舞し、ファンベルトに攻めこんでいく。
初心者丸出しかと思ったが、案外きれいな型で攻撃できているらしく、ファンベルトに隙を与えない。
リークが右斜めから振り下ろすと、ファンベルトは固そうなガンレットでそれを靡くと、そのまま剣を掴んで投げられる。
流石ファンベルトである。
比較的体重の軽いリークはそのまま宙で回転すると、一旦ファンベルトとの距離を開ける。
しかし、よくもまあこれだけ身体が動くものだ。
現実世界ならば骨折ものだろう。
さてどうしたものか。
リークにはファンベルトに勝る圧倒的な力と速さがある。
しかし、同時に経験、戦略、リークにはないものをファンベルトは持っていた。
加えてアリアとの決闘では台風の目であった魔法も、今は使えない。
いや、待てよ。
一昨日勝ったのは魔法を使ったからか?
確かに魔法は使った。
しかしなぜ魔法を使ったらアリアに勝てたのか。
......武器を壊せばいい。
リークの隠れ馬鹿力があればあるいは......
リークは不敵な笑みを浮かべる。
ファンベルトはそれを挑発ととらえたのか、大きく剣を振りかぶると、横なぎに払ってくる。
剣尖が真下に来る瞬間を見計らってジャンプすると、そのまま振られている巨剣に飛び乗る。
ファンベルトが驚愕するのを無視して、そのまま次の動作に移る。
リークは両手剣を逆手に構えると、そのまま巨剣の真ん中を貫く。
「ガキィィ~ン!!」
凄まじい衝撃とともにファンベルトの巨剣は半ばからへし折れ、手元には弱々しい柄だけが残る。
唖然とするファンベルト。喉元に突きつけられる剣。
悔しそうに顔を歪めるが、やがて両手を上げる。
「こ、降参だ......」
コロシアム内は再び沈黙に包まれる。
誰もが大きく予想を裏切られた。
観客が、ファンベルトが、何よりリーク自身が。
「おお~!!」
突如歓声によって沈黙が破れ、コロシアムが熱気に覆われた。
空気が揺れ、コロシアムも揺れた。
突然ファンベルトが握手を求めてきた。
リークの2倍はあろうかという大きな手に、握り潰されると一瞬警戒したが、刹那の幻想に終わった。
優しく包み込むような握手は妙にたくましく、リークの勝利を素直に称賛しているかのようだった。
「どっちがバケモノだよ」
「ま、まったくです」
こうしてリークは最強剣士としての名声も手にいれてしまうのであった。