精神科で見た、ある保護室での出来事
精神科に入って間もないころ、
患者体験として、
保護室に入ったことがある。
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扉が閉まると、
空気が変わった。
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独特の臭いと、
逃げ場のない圧迫感。
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壁には、
無数の文字が刻まれていた。
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「助けて」
「ここから出して」
「地獄行き」
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英語で、
「heaven」
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他にも、
意味のわからない数式のようなものが並んでいた。
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ここで、
心が落ち着くはずがない。
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そう思いながら、
外に出た。
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入れ替わるように、
一人の女性が入ってきた。
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壁を指差し、
静かに聞いてきた。
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「これ、なんて読むの?」
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「ヘブン、ですか?」
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女性は首を横に振った。
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そして、
はっきりと発音した。
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「heaven」
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「もっと勉強した方がいいわよ」
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そう言って、
保護室に入っていった。
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しばらくして、
中から笑い声が聞こえた。
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独り言。
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そして、
突然の怒声。
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看護師たちが集まり、
扉が開けられた。
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その先の様子は、
よく覚えていない。
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後日、
その女性は退院したと聞いた。
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そして、
船から飛び降りたとも。
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それが、
本当かどうかはわからない。
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最後まで読んでいただきありがとうございます。
あの場所では、
何が正しくて、何が間違っているのか、
わからなくなることがあります。
あの言葉を、
誰が正しく理解していたのか。
今でも、わかりません。
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