【あとがき】第三章「結び留める者」⑯『ロキ』
本編「オレ、オーディンになったらしい。〜ラグナロク不可避⁈ もうすぐフェンリルに食われることになってるんだがどうすりゃ回避できるんだ?〜」(N7288LN)の各エピソードで使用したネタとその解釈なんかを書いています。
まずは本編をお楽しみください。
■スィアチ討伐とスカジの結婚
「お前誰?」と言わずにはいられないスカジの登場。まずスカジが何者か?というところから。
スカジはニョルズの嫁です。訳あってニョルズと結婚することになるのですが、それは後ほど。さて、このニョルズとスカジの結婚のきっかけになったのが、スカジの父であるスィアチをアース陣営が討伐するという事件。何があったのかは検索していただくとして、このイベントで最大の謎なのが討伐の参加者。主力はオーディン、ロキ、そしてヘーニルの3名。ロキはともかく「へぇ、ヘーニルが同行したんだ」と流されてはいけません! というのも、時系列的にスィアチ討伐はアース=ヴァン戦争の後。つまりヘーニルは人質としてヴァナヘイムへ行っているはず。にもかかわらずしれっと混ざっています。他にもこうしたイベントにヘーニルはニコニコ(してたかどうかは分かりませんが)と参加しています。何なん?コイツ。ヴァナヘイムを抜け出して来たんか? だとしたら人質の意味がないじゃん!となるわけです。これはどういうことなのか? 雑プロットの穴、といえばそれまでなんですが。ちなみにヘーニルはイベントには参加しつつも特に何かしたわけではない模様。うーむ… で、私ひらめきましたよ。多分ね、ヘーニルとミーミルを取り違えてる。ヘーニルとミーミルは仲良しコンビ、よってどこかで取り違えをしたのでは?と。そして、アース=ヴァン戦争の後だとミーミルはキャリアブルデバイス状態。持ち運びができる上、困ったときには質問できるが首から下が無いから何もできない。これは原典の穴を埋めて余るほどの新解釈! …だと思うんですけど、どうですかね? ともかく、原典で人(神ですが)のつじつまが合わないところは、誰かと取り違えをしたのでは?と疑ってみるのも手かと。
■ヴァーリは誰の子?と「謎のスタンザ」
それを裏付ける論拠ともいえるのが、「ヴァーリは一体誰の子供なのか?」という謎と「謎のスタンザ」という謎。謎だらけですがどんまい。
まずオレオー本編では「ヴァーリはオーディンの子」としています。実はですね…このエピソードを書く前の資料整理で、「ヴァーリはロキの子」となっていたのですよ。シギュンはナリを産んだ後、ヴァーリを産んでいる、と。これはCopilotがそう言ったのですが…ところが時を置いてこのあたりの情報整理でCopilotに質問すると「ヴァーリはオーディンの子」と言う…こら! いい加減にしろ! こないだ「ロキの子」だって言ってたろ! いくらAIは間違うことがあるったって程があんぞ!と憤ったものの相手は機械、こちらの怒りは理解できず…で、一体何が起こったのか?をCopilotに次々と質問を投げかけ、やっと原因に辿り着きました。
まず、北欧神話には『謎のスタンザ』と呼ばれるものがあります。スタンザとは詩の「連」みたいなもん。そして一連の話の中に、なんの前置きもなく筋も無視していきなりドンっと意味不明のスタンザが割り込むのだそうです。調べてもらったところ、謎のスタンザは以下の通り。
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##代表的な「謎のスタンザ」一覧
1. **ヴァーリの唐突な登場**
- 「ロキの息子ヴァーリが兄弟を裂いた」という一節。
- 他の資料には存在しない人物像で、誤記や混乱とされる。
2. **バルドル死後の断片的イメージ**
- 「縄で縛られる」「狼が走る」といった象徴的な断片が唐突に挿入される。
- 文脈を説明せず、ただ不吉なイメージだけを投げ込む。
3. **世界再生直後のニーズヘッグ飛翔**
- 「暗黒の竜ニーズヘッグが死者を翼に乗せて飛ぶ」描写。
- 再生の希望を語った直後に不吉な存在が割り込む。
4. **ドヴェルグ名簿スタンザ**
- ラグナロクの流れの中に突然挿入される「ドヴェルグの名前リスト」。
- 延々と固有名詞が並ぶだけで、物語の進行には関係しない。
5. **文脈に合わない古詩引用(スノッリの散文エッダ)**
- 散文の説明の途中で唐突に古い詩句が挿入されるが、内容が噛み合わない。
- 編者が資料を寄せ集めた結果とされる。
6. **終末描写に混じる場違いな日常断片**
- 「人々がまだ畑を耕す」など、ラグナロクの混乱と合わない生活描写。
- 詩全体のトーンを乱す。
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言ってみれば謎のスタンザというのは太い国道をラジオを聴きながら車で走っていると突然割り込んでくるトラックの違法無線のようなもの。 …例えが古い、か。あ、これはどうだ。AMラジオを聴いてると混信してくる北朝鮮のラジオ放送。 …これも古いのか。ともかく、そんな感じで脈絡なく突如割り込んでくる情報、それが謎のスタンザです。
ナリ殺害のシーンが描かれている原典がいくつもあり、その内の一つにヴァーリをロキの息子とするスタンザが混じっていて、しかもこっちの原典から記事を起こした解説サイトがいくつもあるので、そのせいでCopilotの情報に揺らぎが生じてしまった、と。結局北欧神話研究界隈ではヴァーリはオーディンの子とするのが主流なので、オレオーでは主流説を採りました。結構資料と筋書き直すの大変でしたのよ…(泣)ヴァーリもシギュンの子だとしたら、子供に子供を殺させることになるのでドラマとしてはかなり迫力が出るんですが、オーディンの子、しかも突如知らん女を孕ませて産ませた子とかなると、オーディン、マジワケ分からん…となってしまった…
なぜ「謎のスタンザ」が生まれたのかも謎なんですが、まぁ資料整理が雑だったか。あるいは「ぱぱーこれなーにー?」「あー、ダメダメ、そこに置いといて」「はーい」って混ざったか。
■ヴァーリ出産の悲劇(笑)
ヴァーリはオーディンがリンドとパコって(しかも結構無理やりよ。レイプといって差し支えないレベル)即出産、生まれた子は一晩で成人になりましたとさ。
…マジで? 神話はいつもこれだ… これがどれほどの無理難題か、検証してみることに。Copilotにお願いして計算してもらいました。
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1. 即日出産のツッコミ
リンドが妊娠したその日にヴァーリを出産。
卵割が10万倍速で進む必要があり、母体は物理的に耐えられない。
実際は「召喚型出産」に近く、生物学的リアリティはゼロ。
2. 巨大卵子の矛盾
出産までのエネルギーを卵子単体で蓄えると直径20〜30cm級に巨大化。
母体に収まらないサイズで、存在自体がブラックユーモア。
3. 新生児から成人への爆速成長
新生児3.5kg → 成人65kgへの成長に必要なエネルギーは約43万kcal。
白米換算で約1,025丼。分速1.42丼=2分で3丼を休みなく食べ続ける必要。
平均発熱量は約41.7kW。電子レンジ40台分の熱を常時放出する計算。
4. 排泄の壁
摂取総量約256kgのうち、体に残るのは約61.5kg。
残り約195kgはCO₂・水・尿・便として排出される。
CO₂は約150kg規模、呼気換算で毎分100L超の純CO₂排出。
便は数kg規模でも、12時間連続排出は非現実的。
5. 母リンドの悲劇
ヴァーリの爆速成長に伴う酸素消費は母体の呼吸能力を桁違いに超える。
母乳を与えようとすれば酸欠で即死する構造的ブラックユーモア。
神話でリンドが「ちょい役」なのは、この必然を隠すためと解釈可能。
6. 環境描写のブラックユーモア
ヴァーリの周囲は高CO₂・高湿度・高温の三重苦。
炎が消え、空気が重く、結露が走る「局所温室効果」。
成長の場が物理的に地獄化し、母心を出す者は命を落とす。
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総括
ヴァーリ誕生と成長は、生物学的に考えると「無理である」を数値で証明できる。その無理さがブラックユーモアとして神話の残酷さを際立たせ、リンドの影の薄さも必然として説明できる。
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以上。これはもはや柳田理科雄先生案件。私にはどうすることも…
■ロキの捕縛の補足
ロキを捕縛する方法については以前「腸ヒモ理論」で述べた通り。これを今回裏付けします。原典でもロキは鮭になって逃れようとするのですが、トールに尻尾をフン捕まえられてしまいます。そしてどうやら鮭の姿のままで洞穴まで運ばれて、「腸ヒモ」で縛られることに。このとき、鮭の鰓蓋のあたりと胴体、そして尻尾の付け根辺りを腸ヒモで縛ったのちにロキが変身を解くと、ちょうど肩・腰・膝のあたりを拘束することになります。これで肩・腰・膝の3点拘束だった理由が説明できますね。
ロキが化けた鮭はどれくらいの大きさだったんだろうか?というのも計算してみました。ロキがヨトゥン=巨人ということで背丈を200cmほどと仮定した場合、鮭は140cm前後になるそうです。ちなみに釣りキチ三平で三平君が釣り上げたキングサーモンは50ポンド=約22.7kgオーバー。これを全長換算すると110〜115cm前後。ワールドレコードが約57kgで150cm近いということからロキ鮭はかなりデカい、どころじゃなくめっちゃデカい。そもそもこれだけデカい個体が川に遡上してくるってあり得ないんですが、いたとしても絶対背びれが水面から出ちゃってるだろうな。だから原典でも滝が出てくるんだと思うんだ。ほら、三平ワールドでも滝つぼにはでっかいヤツが潜んでたりするでしょ? いや、それでもこれだけデカいとトールでなくともすぐ見つけられるわな…




