配信① プチバズの恩恵来た!
11時59分。西新宿ダンジョン前に到着した俺は、ダンジョン内部へと繋がるゲート、すなわち自分と同じ大きさの黒い渦の前で配信の準備をしていた。
「このカメラドローン、中に入ってるAIがユーザーの思い通りのアングルで映してくれんのか。電源入れるだけで良いなんて、進化してんなあ」
右手に握ったドローンの背部にあるスイッチを入れると、ドローンは勝手に手の中から抜け出して宙に浮かび始める。
――さて、最後にメンテナンスを掛けよう。四肢の機能、胴体部、及びコアの作動、全て問題なし……行ける。
俺はポケットからドローンのスイッチを取り出す。
――このボタンを押せば、配信が始まる。ここに来るまでに脳内でシミュレーションを何回もしたとは言え、やはり緊張する物だ。
胸に手を当て、深くゆっくり息を吐き出す。
「……緊張してるのに、胸がドキドキ跳ねないってのは変な感じだな。義体には心臓がないから仕方ないが……あのドキドキが、今は少し恋しい」
そんな下らない事を口に出した後、意を決してボタンを押し、気持ちを配信用に切り替えた。
◇ ◇ ◇
「――よし、映ってるな? 音声も良好、電波強度も問題なし!」
:うおおお始まった
:え、コイツ本当にチャンネル主?
:このチャンネルで配信出来てるんだから本人だろ
同時接続視聴者数は、配信が始まったばかりにもかかわらず3000人を記録した。
多い、多すぎる。押え込んだはずの緊張がぶり返してきたぞ。
「初めましてお前ら! 俺こそがお前ら『マイフレンズ』の中で話題になってるダンジョン配信者、柳葉ハルだ!」
:うおおおかっこかわいいいいい
:姿見たしマイの所行くわ
:配信してないんだよなあ
反応は良好。ひとまずこれで、前のように顔を見てブラウザバックされることはなくなったな。後は、トークと戦闘で視聴者の心を掴むだけだ。
「そんじゃまあわざわざ来てくれた礼に、早速俺がこの姿になった理由でも話そうかね」
「知っての通り、俺は三年前の配信を最後に失踪した。まあ簡単に言うと、あのボスゴブリンを倒したあとは相討ちになる形で死んでたんだよ俺」
:ボスゴブリンと相討ちwwwwww
:アーカイブ見てない情弱発見 半年コメントするな
:俗にいうTS転生って奴?
「TS……まあ性別は変わっちゃいるが、転生かと言われると微妙だな」
「結論から言うと、この体はある魔道具エンジニアが作った物だ。名前は伏せるが、結構腕が立つ職人でな。この通り、一目見ただけじゃ義体とは分からん仕上がりの器に俺の魂を入れてくれたんだ」
:うっし今から死んでくる
:草 行ってらっしゃい
:名前教えろ! 名前教えろ! 名前教えろ! 名前教えろ!
「教えねえって。とにかく、この体は全身が百数十個もの魔道具で構成されてる。俺自身もどんな魔道具が組み込まれてるか全然把握してないから、これからお前らと一緒に機能の開拓をしていこうと思っている」
「あ、あとこの配信でエンジニアっぽい名前出した奴は容赦なくBANしてくからよろしくな」
俺は早速、コアを介してドローンのAIにBANコマンドをプログラムする。すると早速、AIは5件のコメントを削除したようだ。
:【メッセージが削除されました】
:【メッセージが削除されました】
:横暴だ! 後出しじゃんけんだろ!
――気持ちは分からんでもないが、大物配信者から流れてきた視聴者は強めに取り締まらないと後が困る。今BANされた五名のリスナーよ、大人しく犠牲になってくれ。
「名前伏せるってんのに特定しようとする方が悪い。ともかく、説明義務を果たしたところで次は簡単なプロフィールだな」
そして次に俺はドローンに情報と信号を送り、即興でプロフィール表を作って貰うとすぐに配信に出させた。
「後でこの画像はSNSにも載せるから、あと5秒くらい表示したら撤収するぞー」
プロフィールに載せたのは年齢、身長にスリーサイズと体重、そして冒険者ランクと趣味と配信予定ジャンルの六つだ。
ちなみに身長は168cm、スリーサイズはB83/W54/H77、体重は412kgとなっている。あえて体重を明かすことで、この体が義体だという事を忘れさせない戦法だ。
「はいお終い! じゃあ早速だが、今日はダンジョン配信をしてくぞ」
:体重412キロ??
:スリムなのにデブとはこれいかに
:プロポーションやば モデルになれよ
:ダンジョン配信始まる? じゃあ俺帰るから・・・
「待て待て行くなお前ら! これから俺がするのはただのダンジョン配信じゃねえ」
「お前らの主である新神マイが、ダンジョン配信を始めようとしてるってのは聞いた。だがリスナー側がダンジョン配信を受け入れられる体勢が出来てなければ、むしろ登録者を減らす恐れがある」
「あの子にリスナーを分けて貰った恩義に答えるためにも……今から、ダンジョン配信を初めてみるリスナー向けの講義配信を行う事にした」
:初配信で講義とは
:でも5年間ずっとダンジョン配信し続けた奴だし、聞く価値あるだろ
:お前の配信を見れば、マイマイの配信が楽しめる様になるんだな?
――そりゃあ、実績の無い奴から教えを乞うなら保証が欲しいよな。正直、今いる5000人の視聴者相手に『俺の言葉には聞く価値がある』と言い切るのは怖いが……
「断言しよう。俺が授ける知識と新神マイの配信センスがあれば、お前らでも確実に楽しめる様になる!」
:うおおおおおおおおお
:言ったああああああああああ!
:録音した 二言はないな?
――言った! 言っちまった! だがこれでいい、これで視聴者に配信を見て貰える! その後の事は……後の自分に任せよう。
「細かい話は後だ。こっから先の解説は、ダンジョンに入ってからするとしよう」
俺は黒い渦に向かって手を伸ばし、その伸ばした手を握って胸の中心に叩き付ける。すると一瞬で俺の周りを黒い影が包み込み――
その影はすぐに、どこまでも奥へと続く洞窟に変わった。
:うおお背景が変わった
:見た事ある背景だな
:レトロゲームの背景みたい
俺は背景をぐるりと見渡したあと、ゆっくりと歩き出す。
「ダンジョンの背景は三種類有る。この背景と、エジプトの神殿っぽいものと、稀に出てくる都市型の物だ」
「俺自身の見解だが、出くわす割合はそれぞれ70%・29%・1%くらいと考えて良い。まあ三番目のケースはA級以上のダンジョンで出るっぽいから、俺は会ったことないがな」
:出会ったことないのかよ
:仕方なくね コイツちょっと前までD級だったんだし
:【このコメントは削除されました】
――ははん、さては『D級とか弱すぎて草』とか言ったな? 悪いがお前らマイフレンズには、ここで痛い目を見てダンジョン配信の作法を学んで貰う。
「そしてここからが重要だが、ダンジョン配信の見所と言えば断然、魔物との戦いだろう」
:戦いかあ
:何か見る気が起きないな
「推しが傷つく姿を見るのは嫌か? もしかしたら死ぬかも知れなくて、それを見てられない?」
「安心しろ。配信者が一番嫌うのは、『やる気がある状態で配信を続けられなくなる事』だからな。彼女はベテランだ、生命を危険に晒す無理な戦いはしないはず」
「……とまあ、俺が口でベラベラ語るだけじゃ何も伝わらんだろうし――そろそろ実践と行くか」
いつの間にか俺は洞窟の中のだだっ広い大空間に出ており、そこには等身大のゴブリンが大量に点在していたが……
俺の姿を見るやいなや、牙を剥いて一心不乱に駆けてきた。
「先に言っておくが、血が苦手な奴でも配信は安心して見れるぞ。致命傷を負った魔物、特に小型モンスターは一瞬で消えるからな」
俺はスポーツブラの襟を右手で引っ張り、大きく露出した谷間の中心を2回軽く叩いてビームサーベルの柄を出す。そしてそれを勢いよく上に引き抜き、赤く光る刀身を出現させる。
そして両方のかかとをミニブースターに変形させ――
「そんじゃあ義体の性能テスト、もといダンジョン配信最初の見せ場を始めようかァ!」
正しい姿勢を取ってブースターを全力で稼働し、一瞬でゴブリンの集団との距離を詰めるのだった。
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