登録者5万人? まだ上に行ける!
「おいおい……どうなってやがんだこれ」
「わ、私が聞きたいよ。何が起きたら、こんな事になってたんだ」
冒険者協会での出来事から一日後の朝。俺は今、昨晩ミツキに頼んでおいたログインとアカウント名変更、それから配信の予約が出来ているかどうかを確認していた。
1階にあるパソコンの前で、横並びになってチャンネルページを確認する俺とミツキ。その目線は、一様にチャンネル登録者数に集まっていた。
――そりゃあ驚きもするだろう。三年前は100人だったチャンネル登録者数が、起きたら5万人に増えていたのだから。
「し、信じられないかも知れないけど、昨日までは100人のままだったんだ。本当だよ!」
「疑わねえよ。あのチャンネルに死後バズる様な要素がない事は、俺がよく分かってるからな。じゃあコレは一体……」
「……もしかしたら、画面右上でずっと震えてる通知バーが答えを教えてくれるかも」
パソコンの操作をミツキに任せると、すぐにミツキは通知バーを開く。するとそこには――
『新神マイから来た人』
『コレがマイマイの推しかあ……』
『地味。0点』
といったような、多種多様なコメントが過去の配信アーカイブに寄せられた事が判明した。
「いやいや待ってよ。ハルと新神マイには何の接点もないでしょ。荒らし?」
「関係ならあるぞ。まあ、テスト後に二言挨拶を交わしただけだがな」
「は?」
一瞬にして青ざめるミツキ。
「いつかコラボしたいとも言ってたな。やる気に満ちあふれてる新人は嫌いじゃないぞ。むしろ、昔の自分を見てるようで好みだ」
「ま、まさかハル、新神マイが誰か知らない感じ?」
「誰って、将来有望な新人ダンジョン配信者じゃないのか?」
「……」
ミツキはキーボードに手を伸ばし、ブラウザの新しいタブを開いてWeb検索をする。
そう言ってミツキが見せてきたのは――登録者1000万人を持つ、『新神マイ』の名を冠したチャンネルページだった。
それを見た俺は思わず息を飲み、目を丸くする。
「……マジかよ」
「新神マイはね、非冒険者系ストリーマーの帝王と呼ばれる超大物女性配信者なの。活動歴は12年で、ダンジョン配信が主流になった今でも、ゲーム配信と歌と雑談で多くの同接視聴者数を取る伝説的存在だよ」
「はあ~、そりゃすげえな」
――あえて、マイの実年齢の話はしないことにする。
「配信者リスナー問わず誰もが知ってるはずの存在だけど、ハルはダンジョン配信しか見ないって言ってたし、知らないよね」
「ああ。それらの配信を見る暇があれば、A+級冒険者の配信を見て学ぶべきってのがかつての俺の考えだったし」
――ただ、体が変わり気持ちに余裕が戻った今なら分かる。非ダンジョン配信を見る事も、道中の雑談ネタを仕入れる上で大事なんだって。
「とにかく、いま気にするべきなのはマイの正体じゃなく、この不自然に増えた数字だ。一体この中の何人が初配信に来るのか、それ次第で今後の対応を変えざるを得ん」
「対応? 具体的にどう変わるの?」
「こうなった背景を見るに、まあこの数字なら1000人前後の同接を稼げれば良い方だろう。だがそれより著しく視聴者が少ない様だったら、これは旧チャンネルとして切り離し、新しいのを作る」
「え? でも、このチャンネルで配信してこそ意味がある、とか言ってなかったっけ?」
「初配信はな。だがそれ以降はチャンネルを新しくしても、サブチャンネルとしてアレを残しておけば設定はなくならない」
――とはいえ、これはあくまでもそうなったらの話だ。一から始められずに済むならそれが一番なので、作り直すハメにならない事を祈るばかりだ。
「ハリボテの数字ではなく、俺は中身のある生きた数字が欲しい。俺が目指すバズとはすなわち、そういう数字の集合体を指す。どれだけ時間が掛かっても、そういう数を積み上げて行きたいんだ」
「……やっぱりハルは凄いや。前からずっと思ってたけど、バズりに対する情熱が凄い」
「そりゃアツくもなるだろ。前世じゃ出来なかった工夫の数々が、この体と力なら余さず実践に移せるんだから。必ず売れてやる、絶対……!」
下げた拳をギュッと握り、マイのチャンネルの登録者数の文字をジッと睨む俺。その様子を見て、ミツキは興奮したように震えながら息をゆっくり吸う。
「良い! 良いよハル! もっとそうやって自我と欲望を出して! 人が頑張る姿ほど目に優しい物は無い!」
「お、おう、そうか。じゃあ早速――」
「丁度ネット窓口も開く頃合いですし、ネットで依頼を受けましょうか」
「!?」
ミツキはいつの間にかメガネを掛けており、凄まじい速度でキーボードを叩くと冒険者協会の公式サイトにアクセスする。
「……え、今ってネットで攻略依頼を受けられるのか?」
「ええ。一年前に始まったネット会員制度によって、一度登録を済ませればいつどこにいても、ダンジョンの攻略依頼を受注できるようになりました」
「へえ~便利になったな」
「再登録の際、受付嬢からプラスチックカードを1枚貰いませんでしたか? ネット会員登録にはアレが必要なんですが」
俺はジャケットのポケットにしまっていたカードを取り出し、ミツキに渡す。
するとミツキはサイトの案内に従い高速で情報を打ち込み、僅か20秒前後で登録を完了させた。
「しっかしタイピング早いなお前」
「これぐらい早く打てないと、配信内でグルグル変わっていく話題に合わせたコメントなんて打てませんから。あと見てくださいよ、この依頼検索画面」
「どれどれ……ん、全国各地の依頼を検索できるのか?」
「そうなんです。これにはネット会員の開始と同時に、他県で出た依頼を受ける『出張』制度も解禁された事が影響しています。依頼先と居住地域との距離に応じて、追加手当が出るとも聞いてます」
「へえ、そりゃいいな。東京での活動が落ち着いたら、マンネリ対策に北へ南へ活動範囲を伸ばしていくのも悪くない。だがまずは……」
俺をミツキの手を上から包み込む形でマウスを握り、東京のタブを開いて依頼一覧を眺め始める。
「……え?」
「んーやっぱ、23区に依頼が集中してるな。あそこは人が多いから、その分ダンジョンも湧きやすいのか?」
「ななななな何を、何を!?」
「えーっとここから一番近いダンジョンは……お、西新宿ダンジョンが近いな。よし、ここら辺にすっか」
ミツキの手を覆ったまま右クリックをし、依頼の受注を完了する。そうしてようやく、ミツキが顔を真っ赤にして椅子の上でぐったりしている事に気づいた。
「あー……悪い、推しに触れられたらそうなっちまうよな、いまいち気が効かなんだ。う~んしかし、眼鏡掛けた状態で気絶されると打つ手がない……」
俺は少し迷った末、ひとまず座布団を枕代わりにして居間に寝かせる事にした。
――ミツキを初配信の現場に立ち会わせてやれないのは残念だが、起きるのを待つ時間もない。何てったって、あと二時間後には配信を始めなきゃ行けないしな。
「じゃ、行ってくるぜ。帰ったら、一緒にアーカイブを見ような」
俺はミツキの顔から眼鏡を外してテーブルに置いた後、彼女の白い前髪の上から軽く額を撫で、ポンポンと優しく額を叩くと玄関に向かう。
――いま、生きる事が楽しいと思えている。やっと俺の人生が本格的始まったんだと、しみじみ心の中で思うのだった。
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