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今世こそは、バズってやる!

 部屋に飛び込んできて俺の胸に顔を埋めた、俺をTSさせた犯人と思しき白髪碧眼の白衣少女。問い詰めなきゃと分かってはいたが、いまいち言葉に出来ない。


「このままずっと目覚めなかったらどうしようって、最近はずっと眠れなくって! ふう、無事でいてくれて良かったよお~安心した!」

「ま、待て、待ってくれ! ホント待って!」


 どうにか我に返った俺が女の子の肩に手をおいて軽く揺さぶると、女の子はようやく冷静になって手を解き、俺の傍から一歩離れて涙を拭う。


「ああ、ごめんね。3年間の努力が実った瞬間だったから、つい嬉しくって」

「……3年だって?」

「そう、今は2025年の10月25日! 当時からは色々変わってるけど、それは一旦後回し。えーっとメガネメガネ……」


 女の子は白衣のポケットをまさぐってメガネを取り出し、つるを開いて耳に掛ける。すると一気に雰囲気が変わり、見た目通りの冷静な化学者の雰囲気を醸し出す。


「申し遅れました。私は河野(こうの)ミツキ、21歳です。青いスコップのアイコン覚えてます? アレが私のアカウントです」

「!! まさかお前、『Mitsuki』か!?」


 ――忘れる訳がない。アイツは俺が配信を初めて1年ぐらい経った後に、俺の配信に初めてコメントとチャンネル登録をしてくれた古参リスナーだからな。


 そして唯一、配信に毎回訪れてはコメントをしてくれるアクティブリスナーでもある。俺が活動を続けられたのはコイツのお陰でもある。


「覚えててくれて幸いです。もしエンジニアモードへの切り替えを忘れてたら、今頃私は嬉しさのあまり失血死していたでしょう」

「え、エンジニアモード?」

「眼鏡を掛けると極めて冷静に、かつ端的に物事を説明することが出来るんです。それはともかく、今は貴女の疑問を解消する手順を進めましょう。そのためにまず、私が過ごしてきた3年を解説しますが、よろしいですね?」

「お、おう……」


 ――凄い冷静だ。耳が赤くなってなければ、サイコパスを疑ってたくらいだ。


 ◇  ◇  ◇


 河野ミツキ。彼女は『魔道具エンジニア』の仕事を15歳の頃から続けており、個人や企業から預かった魔道具の改造や修理を生業にしているという。


 俺がいるのは、そんなミツキの仕事場兼自宅である一軒家、その地下室らしい。なんでもここは元々物置だったが、あるのっぴきならない事情で技術開発室にせざるを得なくなったという。


 ――その事情こそ、俺こと柳葉(やなぎば)ハルの()である。


 3年前、当時のミツキは俺の配信直後の投稿から異常事態を察知。配信映像から俺の居場所を突き止め、クリア後のダンジョンが自然消滅する24時間を迎える前に、現場に到達したのだ。


 そしてミツキは少し悩んだ後、俺の死体から魔道具で魂を取り出し保管。それを持ち帰った後で『柳葉ハル蘇生計画』を打ち出し、魂の入れ物となる『()()』の製作を始めたという。


 義体の製作は、家にストックしてあった魔道具を分解・改造し、それらを人型に組み合わせる形で進められた。こうして、仕事の(かたわ)ら作業を進める事約1000日……


 無事に義体は完成を迎え、それを記念してミツキは保管してあった魂を義体に装填。魔法の行使が可能になる特殊な液体を義体内で循環させながら、ハルが覚醒する日を待つのだった。


 ◇  ◇  ◇


「……マジか」


 解説を受けても尚、疑問は残る。だがひとまず、状況が飲み込めたのは幸いと言える。


 要するに俺は女に転生したのではなく、女性型の義体に脳移植を受けた様な物だと考えて良いだろう。


「本当はイケメン型の義体を用意したかったのですが、生憎私は男慣れしていないので、動悸で手元が狂わないよう美少女型にさせて頂きました」

「男慣れしてないとかあんま人前で言うもんじゃないぞ」

「分かってます。それと、うなじに付いてる供給管は外して良いですよ。貴女が意識を取り戻した段階から、既に心臓の代わりである『コア』による『魔力液』の循環は始まっておりますので」

「じゃあお言葉に甘えて……」


 俺はうなじに手を伸ばし、パイプをうなじから引っこ抜く。するとパイプは一瞬でしぼみ、ドロドロに溶けて消滅した。


 それを見届けてから、俺はミツキの目を真っ直ぐ見つめる。


「ありがとうミツキ。こんなに沢山手間をかけてまで、俺を蘇生してくれてよ」

「お構いなく。私への恩義など一切気にせず、己の道を進んで下さい」

「無論そうする。だがその前に、野暮を承知で一つ質問させてくれ」

「どうぞ?」

「ミツキ、なんでお前はそんな凄まじい手間とリソースを掛けて俺を蘇生させたんだ? 俺、お前に何かした事あったか?」

「……」


 ミツキはゆっくりと目を閉じ、メガネを外すと息を吐く。溜息ではなく、心を落ち着かせるための行動と見える。


 そうして目を開いたミツキの目つきには、聖母のような優しさが満ちていた。


「……覚えてる? 私が初めて貴女の配信にしたコメントの内容」

「勿論だ。確か、『出来損ないでも夢を追っていいですか?』だったかな」

「うん、その通り。今思えば、初見でするコメントじゃないなって思う。でも貴女はそんな無礼を働いた私に対して、『()()()()()()()()()()()()()()()()、がむしゃらに進め』って言ってくれたよね」

「ああ、言ったな」


 ――まあ、俺が自分を出来損ないだと思いたくないから、そうだったらいいなっていう願望を口にしただけだが。


「その言葉のお陰で私、ここまで来れたんだよ! 新潟から上京したばかりの15歳が、今や東京一の魔道具エンジニアって呼ばれる程の逸材になれた!」

「おう凄いなそりゃ。大出世じゃねえか」

「それもこれも貴女のお陰。貴女が毎日頑張る姿を発信してくれていたから、私も頑張れた。義体作りに励んだのは、そのお礼を直接伝えたかったのと……」


 ミツキは俺の右手を取り、両手でギュッと握ると真っ直ぐ俺の目を見つめる。


「貴女が夢を叶える所も、この目で見たかったからなんだ」

「俺の夢……」

「いつも言ってたでしょ、貴方が命を捧げてまで叶えたかった夢。思い出して」


 ――忘れるもんか。たとえ死んでも幽霊になって叶えてやると誓った夢。それは当然……『()()()』事だ。


 そしてその夢を思い出したと同時に気付く。もしかして今の俺ならバズれるんじゃね? と。


「ミツキ、鏡はないか!」

「あるよ!」


 配線の上をパタパタ音を立てて走り、部屋の左奥に立てかけてあった姿鏡を俺の前に持って来て置くミツキ。


 そして鏡に映っていたのは、ウルフショートの赤髪と赤い瞳を持つ、彫刻のような美しい体つきを持った裸の美少女だった。


 俺は顔に手を置き、髪を触ったり頬を摘まんだりしてソレが本物かを調べる。


「すげえ……すげえよミツキ! これならいける! がむしゃらに追いかけ続けた夢を、ついに掴めるかもしれねえ!」

「そうでしょ! 貴方の為に凝ったんだ、その見た目!」

「ああ、鏡を見ても嫌な気分にならなかったのはこれが初めてだ。よし――」


 俺はベッドを降り、ミツキに手を差し出す。


「バズりに欠かせない『華やかな外見』をくれたお前のためにも、必ずバズってやる。今度はお前と一緒に、配信者の頂点を目指すぞ! 目標は高く、()()()1()0()0()0()()()だ!」

「ッ~~!! うん! その言葉が聞きたかった!」


 握手を交わしながら嬉しそうに唸るミツキを見て、思わず笑みがこぼれる。


 こうして、元・底辺配信者と凄腕魔道具エンジニアのコンビによる二人三脚の出世街道が幕を開けた。それと同時に、俺はこれからジワジワと思い知る事になる。


 ――ひょんな事で得たこの義体が日本を、はたまた世界を揺るがすとんでもない性能を持っている事に――

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