A+昇格への切符を手に!
午後九時。あの後、ダンジョン配信に関する相談をカフェでを終えた俺らは、駅周辺の娯楽施設を片っ端から回って遊びまくった。
マイ自身も誰かと遊ぶのは久々なのか、とにかく子供のようにはしゃぎ回っていたのが印象深い。
ボウリング、ダーツ、ゲームセンターに……風呂とサウナ。
――マイの希望で行った銭湯だが、生きた心地がしなかったというのが正直なところだ。周りにどれほど人が居たか、マイと何を話したか、サウナの心地とかは今でも一切思い出せない。
そんな遊びたい放題の休日も終わりに差し掛かり、駅前に到着した俺達は、これからどうするかを話し合おうとしていた。
「……お別れの時間、ですかね」
「名残惜しいが、そうなるな」
ワンピースの裾を握り、悲しげに俯くマイ。
「そう悲しむなよ。また会いたければ、いつでもあってやる。もうしばらくは、配信以外の予定が挟まる事も無いだろうしな」
「ほ、本当ですか?」
「ああ、お前が楽しそうに遊びに打ち込む様は、見ていて気持ちが良かった。今度は別の場所で、遊び回りたいもんだ」
顔を上げ、マイは嬉しそうに微笑む。
「はい! 是非お願いします! ……あっそうだ。お近づきの印に、是非コレを受け取ってください」
マイはポケットから二枚の紙切れを取り出し、俺の右手に握らせた。その紙に目をやると――
「これ、お前のソロライブのチケットか? S席って書いてあるが」
「ええ。関係者に配る用の、最前列のチケットです」
最前列。その言葉に、少し動揺する。
「そんなもの、気軽に俺にくれちまっていいのか? こういうの、家族に配るもんじゃないのか?」
「いいんですよ。家族とは疎遠で、友達もいないので……いえ、居なかったと言うのが正しいですかね?」
その言葉に思わず笑みがこぼれる。
「ああ、それで合ってるぜ」
「よかった……」
「ところで二枚貰ってるんだが、1枚返した方が良いか?」
「いえ、そちらは貴女の大切な人に渡してください。いるのでしょう? 一人、恩返しをしたい人が」
思わず驚いて目を丸くすると、マイは不敵な笑みを浮かべる。
――配信でヒントを出してたとはいえ、やはりコイツ、気付いてるな。でもこれからの友情のために口には出さない……って感じか。
「……まあ、居るな。ありがとう、じゃあ遠慮なく貰っとくぜ」
「そうしてください。ではいよいよ、本当にお開きにしますかね。また会える日が来たら連絡します! オフで会うのは勿論のこと、いつかコラボもしましょうね!」
「おう、予定が合えばな。じゃあ、またな」
俺が駅の改札口に向かいつつ右手を上げると、マイは深々とお辞儀をして俺を見送る。
――また会いたいと思える、良い友達ができた。ライブが落ち着くまでに、俺の事を忘れてないと良いが。
◇ ◇ ◇
「ただいまー……おっと」
ミツキの家に帰って来た俺は、リビングの机の上で、座布団を枕にして寝ているミツキの姿を見る。
――アイツ、今日も配達の為に都内を回ってたって言ってたもんな。お疲れ様。
靴を脱いでミツキの横に立った俺は、こめかみに指を当てて書き置きの内容を頭に思い浮かべ、額から一枚の紙が出てくるとソレを取ってチケットと共に机に置く。
『いつもお疲れ様。マイからソロライブのS席チケットをもらってきたから、置いておくぞ』
書き置きにはこんな内容を残しておいた。コレ見て気絶しないといいんだけど。
――さて、じゃあ明日の配信で行くダンジョンの予約を済ませておこう。話題性の為に、黒化モンスターの出現報告がある渋谷区か国分寺市を狙っていくか。
台所の隣にあるパソコンの前に座り、冒険者協会のサイトにログインして検索タブを押そうとする。
すると、画面右上に新規メッセージを知らせる通知が来ている事に気づく。
「ん……?」
通知に従ってメッセージを開くと、メッセージの送り主は冒険者協会審査課の長だった。その内容は以下の通りだ。
『柳葉ハル殿 西新宿ダンジョンでの黒化ボス討伐の光景は、勝手ながら我々審査課の方で拝見致しました。そこで貴殿には明日、とある国分寺ダンジョンの攻略を依頼したいと考えました』
――しめた。丁度そこら辺で依頼を受けようとしてたから、渡りに船と言える。
『そこは言わば黒化の「病巣」であり、このダンジョンを攻略すれば、国分寺地域のダンジョンは黒化の影響を受けずに済むと考えております』
『ただし病巣というだけあり、全てのモンスターの黒化が確認されています。相当な激戦が予想されますので、依頼の受注は慎重にお考えください』
――つまり、ほぼ全てのモンスターがS級相当の強さに引き上げられてるって事か。強敵を倒すのは配信映えするとはいえ、全員はちょっと……
『なお依頼達成の際には、その事実を理由にA+級昇格へさせるものとします』
「やります」
俺は迷わずメッセージに添付されていたURLを踏み、依頼受注画面に転移して受注を確定した。
――A+級冒険者自体は少なくないが、その中で配信者となると、世界でも1000人居るか居ないかのレア物だ。その座に滑り込めるなら、なんだってやるとも。
そして次に、俺はSNSに明日の12時から国分寺ダンジョンで配信を行う旨を投稿。
――配信するなとは書いてないし、A+級昇格の事さえ隠せばいけるっしょ。
(とはいえ……明日は西新宿のボスオークと同等か、それ以上に熾烈な戦いをする事になるだろう)
パソコンの電源を落とし、冷蔵庫からノンアルコールビールを取り出して蓋を開ける。
(やっぱり、不安だ。恐らくダンジョン配信を知ったばかりのマイフレンズは、明日の刺激的な戦いには付いて行けないはず。それに、そもそも生きて帰れるかが未定だ)
ビール缶に口を付け、半分ほど一気に飲む。そうして二口目を飲もうとしたところで苦い後味がやって来て、缶上部にラップを掛けると冷蔵庫に仕舞った。
(……うん、やっぱりまだ払拭出来てなかったか。あの日、黒いボスゴブリンに腹と胸を貫かれて死んだトラウマを。配信上ではとっくにカタが着いたことになってるけど……)
表には出せない、トラウマを清算する真の聖戦。それが明日俺が戦う意味になる。そして何より……
「死んだら、マイのライブを見れねえ。アイツのためにも、生きて帰らねえとな」
配信も盛り上げる、生きて国分寺から出る。両方やらなくっちゃいけないのが、バズる配信者の辛い使命と言えよう。
――けど、ちゃんと成し遂げてみせる。俺は決めたんだ、いけるところまで行くってな。




