うわさばなし⑥
人のような腕、剣と思われるような塊
そして、その腕が生えている箱上の何か。
それがこの後街を襲った怪物の正体だった。
一本だけ生えた腕は戦士のように鍛えられており、塊を振り回すには不十分なように見えたらしい。
箱は棺桶にしては小さいが、子供が収まるような長方形の箱だったらしい。
腕が塊を持ち上げ振り回すと、その塊は風を起こし、人の身体の形を簡単に変えた。
盾で防ごうとしたものは盾ごと身体を砕かれ、その姿を横目見ていたものは首と胴を分けられたようだが、彼女の首から上は見つかっていない。
弓を構えるために後ろに飛び下がった弓使いは、剣がえぐった際の岩や土に強く身体を打たれ倒れた。
魔法使いは詠唱が終わる前に全身を半分以下にまで潰された。
その光景は一瞬の悪夢だっただろう。
彼ら冒険者がそれを現実と再認識する前に魂がこの世から離れたものは救いがあったかもしれない。
箱から溢れるネバネバした黒い液体は言葉にできないような悪臭を放ち、触れたものを腐らせた。
人の体に呪い、そして汚した。
かろうじて剣を避けた者でその液体に触れたもので、生き残った戦士がいたが彼の心はこの世にはいないようだった。
何人か冒険者は何とか意識を保ち、迎えうとうと各々構えたらしい。
が、彼の意識が戻ったとき、彼らは彼らの一部をその場に残すだけだった。
「俺は…。俺はほとんど何も出来なかった…。気がついた俺は、かろうじて息をしていた顔見知りを助けようとしたんだ」
彼は仲間を助け起こそうとして例の液体に触れ、足を失った。
「だが、アレは…火のような熱さを感じたんだが、すぐに氷のような冷たさに変わって…俺の足をダメにした。あの液体にまるで飲まれるようにソイツは文字通り…溶けたよ」
彼は気づいていないようだが、自然と涙を流し始めた。




