うわさばなし①
「俺が知るかぎりでこんなに信じられない話はないぜ。あー…今日もいつものを。あとコイツにも同じやつを」
顔に農夫であれば多すぎる傷を持つ男は、店員に充分聞こえるようにそう言った。
何度も伝えるのは煩わしいし、店員も何度も聞き返すほど暇ではない。
この時間の酒場はクエストを終えた者、旅で宿を取った者、たまたま賭けに勝った者、大勢の人々で賑わうものだ。
「アンタみたいなモンも信じられないけどな。腕っぷしで稼ぐわけでもなく、魔法の探求をするわけでもなく…まぁそんなことはどうでもいいんだろうな」
男は酒を受け取り、そのままゴクゴクと流し込んだ。渇いた喉が潤い、少し焼けるようないつもと同じ感覚を味わった。
クエストを生業にする者たちは、どこの町でも村でもおおよそこうなのだ。
いつ死ぬかわからない。
手練れの者でも、毒持ちの魔物と対峙したときに運悪く解毒薬を持ち合わせておらず死ぬこともある。
比較的裕福な商人も魔物に驚いた馬が暴れれば、馬車から振り落とされて死ぬこともある。
少し戦いになれた冒険者が、装備の手入れを怠り剣を抜けぬまま死ぬこともある。
そう、この世界には死がすぐそばにいる。
だからこそ人々は1日に終わりに神に感謝し、仲間を労い、自分の力を誇り、お互いを褒めるのだ。
男はすぐに酒を飲み干すと、また店員に代わりを頼んだ。
「そんな顔で睨まないでくれよ。これでも酒には強いんだ。酔っ払う前にちゃんと話すよ」
男の目の奥で何かが変わった。
魔物と戦う者たちは皆、この目をする。
男でも、女でもそれは変わらない。
私の仕事が始まる。




