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あの日の出来事とゾーイの決意

「それでゾーイ、あの時の事を話してくれるか?」


晩餐が終わり、カーラとヴァレンティン、ベルナールとフィリベールに、遅れてきたエリックとジョゼットが加わり応接室でお茶を飲んでいる席で、カーラが話題を持ち出した。


「あの時というのは、私が指輪に閉じ込められた時のことでしょうか。」


「ああ、まあ詳しく知らないから、君たちがあの日王宮に行った後から知りたいかな。」


「実は私たちも聞きたいと思っていたんだ。王宮に閉じ込めていた割に、私が多忙だったために事情を詳しく聞くことが出来なかったから。」


ベルナールはポリポリと頭を掻きながら言った。


「そうですよね。まずは父が言っていた、魔道具に内側から魔力を込めれば破壊できるのでは、という仮説は正しかったようです。」


アーサーがゾーイの母クロエの魔道具について話したのが、随分昔のようだとゾーイはしみじみ感じていた。


ゾーイはポケットから、肌身離さず持っていたポーチ型の魔道具だったものを取り出す。


(これは恐らく、銀の指輪同様意思を持った魔道具だった。話しかけてきたのが、きっと魔道具だったのよ。)


ポーチをぎゅっと握るゾーイ。


「あの日ベラを生贄にして実験を行おうとしていた現場に駆け付けた時、ベラは私に対して怒りを露にしました。死んでほしいと。その瞬間ベラの持つ金の指輪が強く光って、それに応えるように銀の指輪が光り出しました。」


「あの真っ二つに割れた魔道具も光ったと?」


「はい。光った後、私、とロッシュ先生は暗闇の中にいました。」


「間違いありません。咄嗟にゾーイの手を掴んだからか、一緒にあの真っ暗な空間に移動したようでした。でも僕がいくら話しかけてもゾーイは答えないし、何も見えないからゾーイかどうかも定かでは無かった。だから強く手を握っていることしかできなかったんです。」


ヴァレンティンを見たゾーイは頷いた。


「あの真っ暗な空間は、ベラを蘇らせた時と同じでした。あの日と違ったのは、手を握っている人がいて、声は聴こえませんでしたが、一人では無かったことですが。」


そう話すゾーイの手にヴァレンティンが手を乗せる。


ゴホンとベルナールが咳払いをした。


「あ、指輪は私にあの時と同じ問いかけをしてきました。私は、これは魔道具の暴走だと感じたんです。書き写したように同じセリフと、その後の問答に混乱したような態度。まるで筋書き通りに行かず、対応できないようでした。」


「これまで同じ問答で乗り切ってきたが、データに無い事に対応できなかったと?」


ジッと話を聞いていたカーラが質問する。


「はい。その後、私は多分、最初の聖人を蘇らせた牧師の声を聞きました。“僕から始まった事だ、僕が終わらせよう”って。そもそも膨大な魔力を吸収してきたあの指輪が、私だけの魔力で壊れるとは思えません。きっとベラを蘇らせた時も今回も、あの指輪に閉じ込められた過去の魂たちが、私に手を貸してくれたんではないかと思うんです。」


一思いに話しきったゾーイがふう、とため息を吐くと、しばらく全員が黙り込んだ。


「なるほどな。それで行方不明になったベラだが、消息は掴めていない。」


エリックが徐に口を開いた。


「そうなんですよね。王宮全体を覆った学園長の植物たちをかいくぐって外に出られたとは思えないですけど、念のためって学園長が言うから、あの日から虱潰しに調査をしているんです。私が文字通り寝る間も惜しんでですよ?でもどこにも痕跡が見当たらない。だからやっぱり王宮を出たとも思えないんですよねー。そう思うでしょう?学園長。モガ」


ペラペラと話すジョゼットの口を大きな手で押さえたエリックは何度か頷いた。


「ジョゼットの言う通り、ベラが外に出たとは考えにくい。そして王宮中探しても見つからないとなると、レフェーブル伯爵令嬢と同じように指輪の魔道具の中に閉じ込められ、出て来られないでいるのではないか、と思っている。」


「その可能性が高いだろうな。今回のトリガーは恐らくベラのゾーイへの強い殺意。それに応えて金の指輪が発動し、引っ張られるように銀の指輪が発動した…というところか。」


腕を組みながらベルナールが言う。


「2つの指輪の発動には、強い思いが必要だった。金の指輪には特定の人物への強い殺意。銀の指輪には特定の人物を蘇らせたいという強い思い。それは始まりの聖人の話にも繋がって来るな。」


「“僕から始まったことだ”か。双子のそれぞれの思いが始まりとなって、あの指輪の魔道具を形成したというわけだな。」


「ベラは…もう出てくることが出来ないのでしょうか。」


ゾーイがポツリとこぼした。


「蘇りというのはその異質さゆえ、話題にも上りますから認識は簡単でした。でも人が死んだことが他殺であるかどうかなど、そうそう分かるものでもありませんし、更にそこに指輪が関わっているかなど判断できないでしょう。つまり…」


「金の指輪にはどのくらいの魂が宿っているか分からないと?」


ゾーイの言葉をヴァレンティンが引き継いだ。


「はい…。もし銀の指輪よりもはるかに多くの人に使われてきたのなら或いは…。」


(ベラはその人たちの力を借りて、指輪から出てくることが出来るのでは…)


ゾーイは不安から、心拍が上がるように感じた。


「ふむ。確かに一理あるね。」


カーラが難しい顔で腕を組み、ソファに寄りかかった。


ゾーイは両手をぎゅっと握り、唇を噛んでから話し始めた。


「私…彼女に蘇って欲しいと思ったくせに、今は戻ってきて欲しくないと思ってしまっています。どこまでも自分勝手ですよね。」


シンと静まり返る室内。


「当然のことでは?」


シレッと言葉を発したのはフィリベールだった。


「二度も自分の命を奪おうとした相手ですよね?それでもなお戻ってきて欲しいなんて言う人がいたら、それこそ信じられないですけど。」


「フィリベールの言う通りだ。ゾーイ、君がこの件に関して気に病む必要は無い。しかしよく分からないままでいるのも、精神衛生上よろしくないな。」


「国王陛下、どうか一つだけお願いを聞いていただけないですか。」


ゾーイは意を決したように、ベルナールを見た。


「何だい?」


「指輪を…。王宮で保管している、壊れた銀の指輪を一度だけ持ちだす許可を頂きたいのです。」


ゾーイの言葉を受け、ベルナールの視線がきつくなるのが分かった。

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