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ゾーイの雪解けとヴァレンティンの想い

もう大丈夫だと何度言っても、アーサーもソレイユもアンナも、ゾーイに安静を強いた。


「私はもうどこも悪くないのだけれど…」


「お嬢様。自分ではお気づきではないでしょうが、お顔はほっそりとされて、あまり顔色も優れません。どうかあと数日はお部屋でごゆるりと過ごされて下さい。」


「そうです義姉様。こんなに痩せてしまっては、たとえ元気でもすぐに体調を崩してしまうでしょう。」


「そうだ、ゾーイ。自分の体調というのは、案外自分が一番分からないものだ。クロエだってそうだった。」


ゾーイの居室で口をそろえて言われてしまえば、ゾーイはもはや反論する気にもならない。


「分かったわ。分かりました。お部屋で本でも読みます。」


渋々ゾーイがベッドへ戻ると、3人はホッとした顔をした。


アーサーとアンナの謝罪を、ゾーイは受け入れていた。


始めは複雑な気持ちだったが、事実ゾーイを心配しての行動だったと理解出来たから。


コンコン


「お話し中失礼いたします。ロッシュ公爵ご令息がお嬢様のお見舞いをといらしています…」


「何?先触れも無しに来るなど無礼だろう。帰ってもらいなさ」


「伯爵様、ロッシュ先生は恩人です。お通しして。それに皆下がって下さい。」


有無を言わさぬゾーイの言葉に、3人は後ろを振り返りながら退出した。


ようやく静かになった部屋で、ゾーイはベッドの背もたれに寄りかかった。


ほどなくして、ヴァレンティンが大きな花束を持って部屋に入って来る。


「ゾーイ、無事戻れたようで良かった。」


ゾーイの顔を見たヴァレンティンは、心底ほっとした顔をした。


「お陰様で、ケガもなく戻る事が出来ました。」


ゾーイがニコリと笑うと、ヴァレンティンは顔を赤らめてドギマギした。


「あ、その…これを。お見舞いには花束だと言われて…あ、言われたから持ってきたわけではなくて。」


焦ったヴァレンティンは、オロオロと花束を差し出す。


「ありがとうございます。先生は…なんていうか、とってもおっちょこちょいですね。」


「ま、待ってくれゾーイ、僕は本当はすごくしっかりしていると言われるし、ドジなんて踏まないし、とても落ち着いているタイプで…」


クスクスと笑うゾーイをポカンと口を開けて見ていたヴァレンティンは、更に焦りながら言い募った。


とても信じられないゾーイは苦笑した。


「そうですね、先生はとても…しっかりされています。」


「はぁ…。その、とにかく元気になって良かった。ところで君は、あ、あの日…君は…」


一層しどろもどろとし始めたヴァレンティンを見たゾーイは、ああ、と思い至る。


「あぁ、先生を好きみたいと言ったことですか。」


「ゴホゴホッ!」


ヴァレンティンは何もしていないのに酷くむせかえった。


「いやその…あれは空耳ではないという事?君はあの後とても辛そうだったからもう一度聞くことが出来なかったんだけど、てっきり僕の妄想かと思っていたんだが…」


「あはは、妄想ではありませんよ、実際言いました。私は先生に好意を抱いているみたいですから。」


「こ、好意…好意ってその、好きという?」


「…いくら突き放しても、先生は私を助けてくれました。あ…別に先生の思いを試していたとかいう事ではなくて、その、私は自分のことで精いっぱいだったのに、先生は私を常に思ってくれていた。その事に気が付いた時、ようやく気が付いたんです。ああ、この人が好きだなって。」


恥ずかしそうに言うゾーイ以上に顔を真っ赤にしたヴァレンティンは、ギュっと目を瞑った。


「これは夢じゃないよな?夢なら夢で、僕はこの世界にずっといよう。」


ぺちぺちと両頬を叩くヴァレンティンに、ゾーイはそっと近づいた。


頬を叩くヴァレンティンの両手をそっと掴む。


「夢じゃありませんよ。ふふ。」


両手を握ったゾーイを、ヴァレンティンは凝視する。


「は、始めは幼かったゾーイが入学してきて、懐かしいなと思ったくらいだったんだ。」


ヴァレンティンは、ポツポツと話し出した。


「入学してきたゾーイはとても優秀だった。それを妬んでいる者は多かったし、何故か次第に孤立し始めるのも不可解だった。でも君は毅然としていて、とても…美しかった。だが、時折酷く寂しそうにする時もあって…。」


ゾーイを再びベッドに横たわらせると、ベッドの横に置かれた椅子に静かに腰を掛けたヴァレンティンは、再び話し始める。


「そんな時、君と関わるきっかけが出来たんだ。」


「時計台の魔道具について?」


「そう。君は魔道具の話をする時は、憂いなど忘れたかのように屈託なく笑っていた。そして、バカみたいだと言われる僕の趣味について、蔑んだりしなかった。その…僕は誰かに認められたかったんだろうな。何の役にも立たない次男。長男として公爵家を引き継ぐわけでもなければ、嫁に行って家の役にも立つわけでもない。影のような存在だった僕は、何でも良かったんだ、何か功績が遺せれば。」


自嘲するように笑うヴァレンティンに、ゾーイの胸は締め付けられた。


「大変でしたねと君が言ってくれた時、何だかスッとして。がむしゃらにやってきたことも、意味のない事では無かったのだと思えたんだ。結果的に、少しは君の命を救う手助けになったわけで…。」


「先生。」


「だから僕が言いたいのは、その…助けられたのは君ではなくて…」


「先生。」


口で言っても無駄だと思ったゾーイは、ヴァレンティンをそっと抱き寄せた。


「ゾ…!ゾーイ!何を…!」


「先生、ありがとうございました。私は先生に何度も、何度も何度も助けられました。この旅に出た時、私は半分ぐらい、いいえ、殆ど死んでしまっても良いと思っていました。でも結果的には帰って来られて良かった。色んな誤解を解くことが出来たし、それに、先生にまた会えましたから。」


抱きしめられるヴァレンティンは石のように固まっていたが、ゾーイの言葉を聞いて強く抱きしめ返した。


「ゾーイ、生きていてよかった。生きていてくれて、ありがとう。」


震える声で言ったヴァレンティンに、ゾーイは強く抱きしめ返す事で返事をした。

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