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対峙と清算

ベラは、ルー侯爵家爆破事件の噂を王宮内で聞いていた。


曰く、マルア教による5年前の報復としてエリックの屋敷が狙われたとか。


曰く、エリックの屋敷には強力な防御魔術が施されていて、爆破の余波が外に出ることなく、驚く事に周辺に全く被害がなかったとか。


曰く、屋敷内には気絶したドミニク家の令息とトーマスがいたが、不思議なことにそれ以外の人間は見当たらないとか。


王宮に与えられた一室で、出された紅茶に手も付けずにベラは親指の爪を噛んでいた。


(一体どうなっているの?ゾーイやソレイユたちも逃げてしまったようだし、国王も何もしようとしない。)


落ち着かない気持ちで部屋をうろつき出すベラ。


窓を覗くと、遠く大きな門の付近で、多くの騎士が馬に乗り出兵するのが目に入った。


慌てたベラが侍女を呼ぶため鈴を鳴らすと、見知らぬ侍女が静かに入室してくる。


「今王宮から騎士たちがたくさん出て行ったようだけど、何があったの。」


「はっきりと分かりませんが、東の辺境、バラトを目指していると聞きました。」


「バラトですって?そこには…何があるの?」


「申し訳ございません。私にはこれ以上のことは…」


そう言った侍女は深々と頭を下げた。


「もういいわ。下がって頂戴。いえ、待って。昨日まで私に付いていた侍女は…」


コンコン


ノックと共に扉が開くと、体の大きな騎士が数名入室してきた。


「聖人様。国王陛下がお呼びですので、ご同行頂けますか。」


(ようやく何か行動を起こすつもりなのね!まったくノロマなんだから。)


「分かったわ。案内して。」


ベラを連れた騎士は、ひたすら階段を下る。


1階に降りると今度は王宮の深部、ベラが足を踏み入れたことのないエリアに向かい始めた。


「国王陛下には、謁見の間でお会いするのではないの?」


「我々は命令通りに聖人様をご案内します。」


(何よ。何も答えないつもりなのね。何だか一人では不安…)


ベラは一瞬掠めた自分の感情を捉えきれなかった。


彼女は気付いていなかった。


既にベラの周りには、彼女を慕う人も、信じる人もいないことに。


狭く暗い廊下に入ると、また階段が現れ、騎士達はその階段を無言で下り始める。


「あ、あなたたち、本当に近衛騎士なの!?まさか私を攫おうと…」


階段を下りながら、意を決してそう言いかけたベラの前で、突然ギギギギギッと大きな音を立て、両開きの重そうな扉が開かれた。


中は薄暗く、目が慣れるのに時間がかかった。


煉瓦敷きで寒々しいその場所は、円形の大きな空間が広がっている。


壁には等間隔に松明が設置され、ほの暗く部屋を照らしていた。


不安感が増したベラは、後ずさりしようとして後ろを騎士に塞がれている事に気が付いた。


「あ…ここで何をしようと…」


「おお!ベラ嬢!よく来てくれたな。さあこちらへ。」


奥から響くように国王の声が聞こえ、ベラは僅かにほっとした。


中央に人影がいくつか見え、恐る恐るそちらへ向かう。


「陛下。何故このような暗い場所に…。」


国王はいつもの格式ばった恰好ではなく、どちらかと言えばくたびれた格好をしていた。


国王の横には、大理石でできた長方形の何か、まるで寝台のようなものが不気味に横たわっている。


国王の背後には、フードをすっぽりと被って顔も見えない者が4人ひっそりと立っていて、ベラは眉を寄せてその者たちを睨んだ。


「さぁこちらへ。実は聖人である君にはかなり期待していたが、あまり情報が得られなかった。」


「じょ…情報…?」


「聖人の蘇りは、不老不死に繋がっているのだろう?」


「は…、仰っている意味が良く…」


「しらばっくれるでない!それほど重要な情報を隠し通そうとするとは、強欲な女め!」


突然大声を出した国王の表情は狂気に満ちていて、ベラは体中の毛が逆立つのが分かった。


何故罵られているのか理解できず、周囲を見回すベラ。


ここへ連れてきた騎士たちは既に姿を消し、ベラの四方はいつの間にかフードの者たちによって囲まれていた。


「頑なに言わないつもりならばやむを得ん。捕えてここへ!」


国王の一言で、四方を取り囲んでいた者たちがベラを取り押さえ、大理石の寝台に強引に押し付けた。


「何をするの!?やめて!痛いわ!離して!」


ジタバタと抵抗するベラの努力も虚しく、何らかの魔術によって体が縛り付けられてしまったようだ。


「体を隈なく調べれば、何か手がかりが掴めるだろう。」


「国王陛下。あまり詳細に調べますと、精神や身体に異常をきたす可能性がありますが。」


「構わない。既に一度死んだ存在だ。もう一度命を落としたとて、不審に思う人間はいなかろう。」


「な…!」


ベラの顔は見る見るうちに青くなり、体がガタガタと震えだす。


「待ってください!何かお役に立てるはずです!私の存在は尊いと…」


横たわるベラの四方をフードの者たちが囲み、両手をかざし始めた。


「や…!やめなさ…」


その直後、ガリガリと削るような音がしたかと思えば、天井からボコボコと植物の茎のような物が壁を沿って何本も下りてきた。


更に、固く閉じられている両開き扉の方から、何やら声がする。


唐突に、重厚な扉がまるで小石のようにはじけ飛び、ひしゃげてベラのそばに大きな音を立てて落ちた。


「な、何事だ!?」


国王が後ずさりながら声を荒げた。


「父上。これはさすがに看過できませんね。」


扉の向こうに立っていたのは、フィリベールとベルナール、ヴァレンティンとゾーイだった。


「フィリベール殿下!ベルナール殿下!ヴァル様!た、助けに来て下さったんですね!」


大理石の寝台に横になりながら、ベラは幸悦とした表情で涙を浮かべた。


まるで悲劇のヒロインになったかのように、ベラの体は震えている。


「ベラ。」


淀みない声に、ベラは胡乱な目をゾーイに向けた。


「あなたと話しをするのは、私よ。」


ゾーイはまるで葬儀に着用するような、シンプルな濃紺のドレスに身を包んでいる。


オレンジの宝石が一粒付いたネックレスだけが、唯一光を放っているようだ。


「何を言っているの?何故あなたなんかが、殿下やヴァル様と一緒に?」


ギリッと表情を歪めたベラはゾーイを睨みつけ、もはや憎悪を隠そうともしない。


「ベラ、私とあなたは、いつまでも変わらない関係なのだと思っていたの。」


フィリベールやベルナールが国王と対峙している傍ら、ゾーイとヴァレンティンは、ベラの方へ向かって行った。


「私たちの関係ですって?」


ベラは吐き捨てるように言った。


「変わらないわよ。私が特別で、ゾーイは平凡。そうでしょう?」


「あなたが特別なのではないの。聖人は、蘇ったのではなく蘇らせられただけ。蘇らせた人たちに、共通点があったのよ。ベラ、あなたは私が蘇らせたの。」


片方の頬をヒクヒクと痙攣させ、ベラは口をパクパクと何度か開け閉めし、唇を噛んだ。


「何を言っているの?自分が特別な存在だって言いたいわけ?お門違いも良いところね!」


ゾーイは無表情でジッとベラを見つめていた。


「見ないで!見ないでよ!!消えなさい!!死んでよぉ!!!」


ベラが叫んだ瞬間、ベラの金の指輪が閃光を発し、それに共鳴するように、ゾーイの銀の指輪が熱を持ち、同時に強い光を放った。


二つの指輪が放つ光が部屋を満たし、全員の目を眩ませた。


「ゾーイ!!」


ヴァレンティンが目を塞ぎながら叫び、咄嗟にゾーイの腕を掴む。


誰かが何かを叫ぶ声が聞こえた。

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