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ゾーイの喪失と追跡

「ゾーイ?お待たせ、どこにいるんだい?」


ヴァレンティンは、図書館の入り口で待っているはずのゾーイの姿を探す。


通りを行き交う人がチラリとヴァレンティンに視線を向け、すぐに逸らして去っていく。


「ゾ、ゾーイ…?」


周囲を当てもなく探すヴァレンティンの心臓は、早鐘のように打っていた。


(まさか、またいなくなった…?)


“まだ完全ではありませんが、魔力が戻ってきているんです”


つまり、彼女はいかようにもヴァレンティンの下から消えることができるという事。


(少しは信頼してくれたと思ったのに…。いや、待て。)


ポケットに入っていた香水瓶型通信具を手に取る。


ゾーイ側のティカップ型通信具が開かれている様子はない。


いずれかの追手が連れ去って行った可能性もあると、ヴァレンティンの顔は青ざめた。


(クソッ!ほんの少しの時間でも目を離すべきじゃなかった!)


ヴァレンティンは煉瓦造りの図書館の壁を拳で叩いた。


手がかりが全くない状況で、ヴァレンティンの気持ちばかりが急いていた。


「ロッシュ教授。」


突然背後から声を掛けられる。


その声にバッと振り向くと、そこにはダニエル・ショパンが立っていた。


「ダニエル先生…?どうしてこんなところに?」


警戒したヴァレンティンは、ゆっくりと体をダニエルの方に向け、ポケットに入る杖の位置を意識する。


「どうしてなんて、それはこちらのセリフですよ。ここは南部、ショパンの領ですからね。」


「あぁ…失礼しました。そうでしたね。僕は旅行に来ているんですよ。」


ヴァレンティンの言葉を聞くと、ダニエルは不気味に笑った。


「ふっふふふ。髪を染めてまで?ご冗談を。愛の逃避行というところだったのでは?」


ダニエルがそう言うが早いか、ヴァレンティンは懐から杖を取り出し一振りした。


するとダニエルの足が払われ、無様に道に転がった。


ダニエルが体を起こす前に、ヴァレンティンが彼の胸の辺りに足を乗せ、グッと踏みつける。


杖を顔に向けられたダニエルは、何かに縛られているように身動きが取れない。


「な、なにを…」


「ゾーイをどこに連れて行ったんですか。」


ダニエルが言いかけた言葉に、ヴァレンティンの酷く冷たい声が被さる。


ダニエルは、想像以上に怒りを露にするヴァレンティンに慄いた。


「な…私は何もしていませんよ。勘違いしないでください。」


「それなら何を知っているんですか。」


一層顔に近付く杖を避けるように、ダニエルは顔だけ横に向けながら目だけを前に向ける。


「わ、私は関係ありませんが、数名の騎士が茶髪の女の子を連れて行くのを見ましたよ。」


吐き捨てるように言うダニエル。


(王都か。)


ヴァレンティンはダニエルから足を下すと、素早くアタッシュケースを扉に変えた。


その時ダニエルが起き上がりざまに小声で何事か呟き、扉に向かって黒い物体を投げたのがヴァレンティンの目の端に映った。


扉にピトッとくっついたその物体はボコボコと膨らみ、まるで口を開けるように扉を飲み込んだのだ。


「魔物か…!?」


「あー、あははっ。コイツに飲み込まれたら最後、あの魔道具はもう返ってきませんよ。」


地面に座りながら、胸にある足跡をぱっぱと払いながらダニエルは言った。


「ほらもう消化を始めた。」


「どういうつもりですか。」


扉はもはや、グニャグニャとした黒く半透明な何かと化し、小さくなり始めている。


ヴァレンティンはその扉だったものを一瞥し、ダニエルを睨みつける。


「南部の魔物をご紹介しようと思いましてね。基本的には動かず無害ですが、ぶつかった物体を飲み込む習性があるんです。」


ダニエルは肩を竦め、ニヤニヤと笑った。


(バカバカしい。)


ダニエルをジッと見たヴァレンティンは、踵を返し歩き始めた。


「ちょ、ちょっと待てよ!」


ダニエルが慌てて立ち上がり呼び止めるが、ヴァレンティンは無視して歩き続ける。


「どこに行くつもりですか!足もないのに!大事な魔道具が無くなって言い返す気力もありませんか!」


ピタリ立ち止まったヴァレンティンは、半身になり顔をダニエルに向けた。


「魔道具などどうでも良いです。僕の体があればどうにでも。」


ヴァレンティンの表情一つ変えない澄ました顔に、ピクリと片頬を上げるダニエル。


「チッ!イライラするなぁ…。いつもいつも澄ました顔しやがって…。」


ブツブツと言い出したダニエルをジッと見つめる。


「消えてくれよな。俺の目の前から、いや、この世からさぁ。」


そう言ったダニエルは、彼の魔道具である占い師が使うような透明で、小ぶりな玉を取り出す。


それはまるで手に吸い付いているように落ちることはないのだ。


彼の魔道具のやっかいなところは、数秒先の未来を見ることが出来ることだ。


(先手必勝…ってね。)


ヴァレンティンはダニエルが瞬きする間に、杖を振ってその玉を難なく破壊した。


手に持つその玉が粉々に砕けた事に一拍遅れて気が付いたダニエルは、目玉が零れ落ちるのではないかというほど目を見開く。


「な…なんで…」


「それでは僕は先を急ぎますので。」


ヴァレンティンは再び背を向け歩き出す。


「待て!まだだ!所詮あの女に捨てられたんだろう!彼女は抵抗なく付いて行ったぞ!お前なんて、どうでも良い存在なんだよ!」


立ち止まったヴァレンティンは、今度こそしっかりと振り返りダニエルに杖先を向けた。


「これ以上俺を苛立たせないでくれ。死にたくなければな。」


ヴァレンティンの殺意の宿った目に慄いたダニエルは、黙り込む。


黙ったダニエルを睨みつけたヴァレンティンは、すぐさまバラトへの最短ルートに頭を巡らせ、駆け出した。


(ゾーイ…、ゾーイどうか…無事でいてくれ…!)

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