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ソレイユと追跡者の思惑

ソレイユはバラトから戻った後、ゾーイの言葉通り学園に通っていた。


始業のチャイムが鳴るのをぼんやりと聞きながら、1年の教室の席で、見るともなしに教材をパラパラとめくる。


座学の授業の殆どは一方通行で、教員や教授が話す内容を聞き、必要に応じてメモを取る。


「魔道具はいつ、誰の手によって作られ始めたのかは明らかになっていません。つまり魔道具はかつて神の産物と呼ばれ…」


ソレイユは半分教員の声に耳を傾けながら、考えていた。


(義姉様の話はまるで夢物語のようだった。それも悪夢だ。でも…あんなに必死に説明する義姉様を見た事が無いし、そもそも義姉様が嘘を吐くとは思えない。)


ソレイユは服越しに、胸の辺りにあるアミュレットに触れた。


入学祝いにとゾーイがくれたアミュレットは、チェーンを付けて首からかけ、制服の中にしまっていたのだ。


「レフェーブル君?聞こえてますか?あなたにご用の方がいらしているようですよ。」


突然かけられた声に、ハッとソレイユの意識が戻った。


いつの間にか授業は終わり、合間の休憩時間のようだ。


「え、僕に用?」


「ええ、ほらあそこ。ドアのところでお待ちですよ。」


クラスメイトの令嬢が指さした先には、トーマス・マイヤーが立っていた。


(何故彼が…?義姉様との関係は、最近良くなかったようだし。僕に何の用だ?)


「ありがとう。」


教えてくれたクラスメイトにお礼を言って、ドアの方に歩き出すソレイユ。


ソレイユの笑顔はなかなかの破壊力があり、笑いかけられた令嬢は頬を赤らめてフラッと机に手を付いていたが、ソレイユは気が付かなかった。


「こんにちは、トーマスさん。あ、ごめんなさい。マイヤー伯爵子息。僕に何かご用ですか?」


「ソレイユ、俺たちの仲じゃないか。トーマスで構わない。」


(俺たちの仲…。)


「それよりソレイユは、ゾーイの行方を知っているか?もう2週間になるだろう。」


ソレイユは慎重に言葉を選んだ。


「いえ、僕も心配しているのですが。伯爵家としても、必死に捜索しているところです。」


その言葉を聞き、あからさまにトーマスの顔が暗くなった。


「そうか。本当に伯爵家は捜索しているのか?数日前から伯爵家の騎士が出て行くのがめっきり減ったようだが。」


ソレイユはギョッとした。


今の言葉は、レフェーブル伯爵邸を逐一監視でもしていなければ出てこないはずだ。


トーマスの視線も、どこか危うく揺れているように感じた。


確かに伯爵家の捜索は、数人の騎士をカモフラージュとして派遣しながらも、実際は中断されている。


何故ならヴァレンティンを通してゾーイの安全は確認されたからだ。


しかしゾーイが戻らない今、その事実は慎重に隠され、外部には漏らされていない。


「気のせいではないですか?」


「本当か?君たち伯爵家の人間は、ゾーイを毛嫌いしていただろう。君だって今もこうしてのうのうと学園に来ているし。まさかこのまま見捨てようなんて…」


「いい加減なことを言わないでください!!その言葉はレフェーブル伯爵家を侮辱するものですよ。正式に抗議してもいいくらいだ。」


トーマスの発した言葉が、ソレイユの頭をかつてないほど沸騰させた。


(僕だってこんなことしている場合じゃないと思っているんだ…。何も知らないくせに…!アンタこそ義姉様を傷付けたくせに…!)


ソレイユの権幕に一瞬度肝を抜かれたトーマスは、一歩後ろに下がる。


ソレイユはトーマスの肩までしか背丈は無く小柄な方だが、睨みつけるその目は獲物を見つけた猛禽類のようなどう猛さが見え隠れしていた。


「そ、そうか、すまない。その、それではこれで失礼するよ。」


いそいそと立ち去るトーマスを、荒く肩を上下させながら睨みつける。


気持ちを落ち着かせようと、ソレイユは息を深く吐きながら胸のアンクレットを服越しに掴んだ。


「ソレイユ君?大丈夫?すごく大きな声が聞こえたけれど。」


声の方を振り返ると、そこには制服姿のベラと、以前にも見た屈強そうな騎士が立っていた。


「あ、ベラさんご無沙汰しています。すみません、少しマイヤー伯爵子息と口論になってしまって。お恥ずかしい限りです。」


「口論?何があったの?ゾーイが原因で?」


「はい?いえ悪い意味ではなく。ベラさんは気にしないでください。」


突然冷淡な言い方になったソレイユに、僅かに動揺するベラ。


「そう?それはそうと、ゾーイの居場所は掴めたのかしら?」


ソレイユは明らかに違和感を覚えた。


なぜこうも立て続けに、義姉を避けていた連中が行方を気にし始めたのか。


「いえ、まだ手がかりも掴めていません。」


僅かな変化だったが、ベラは明かに不満げな表情をした。


「そう、心配ね…。私はここのところ、王宮や教会に赴く事が多くてなかなか探してあげられなくて…。」


先ほどの表情から一転、ベラの目の端には涙が浮かんでいる。


1年の教室から出入りする学生たちが、チラチラと見ては通り過ぎていく。


「あれ、聖人のベラ・デュポン公爵令嬢だよな。見たか?伯爵令嬢を心配しているみたいだ。」


「ああ、やはり聖人として蘇る人は、清らかなんだな。」


周囲はベラの様子を見て好印象を抱いているようだ。


(何だか、まるでパフォーマンスのようだな。)


「何か悪い事が起きていないと良いのだけれど。」


「ええ。でも大丈夫です。義姉様はとても強い人ですし、優しい人だから。それに僕が必ず見つけ出して、助けになります。」


ソレイユは事情を知っていることなどおくびにも出さず、毅然として言った。


「ソ、ソレイユ君は変わらずゾーイが好きなのね。でも…今ゾーイは追われる身でしょう?むしろあなたの気持ちや行動が、迷惑になってしまわないかしら…。」


ベラの言葉を聞いた瞬間、ソレイユの頭がまるで制御を失ったようにクラクラしだした。


(そうだ…義姉様は僕だけを遠ざけて…さも僕の為のように言いながら。)

(何故追われていると?まるで義姉様は罪人のようじゃないか。)


ソレイユの中に、拮抗する二つの感情が生まれたようだった。


表情の暗くなったソレイユを見て、ベラは慈愛に満ちた笑みを浮かべ、近づいた。


「大丈夫よ、私はソレイユ君の味方だから。ゾーイがあなたを嫌ってもね。」

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