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トーマスの暴走とゾーイの僅かな雪解け

トーマス・マイヤーは、ベラと距離を置かれた事に始めは酷く憤っていたが、次第に自身のちぐはぐな感情を持て余すようになっていた。


(ベラ…。王命に逆らえずしたくもない結婚をしなければならないなんて…。何とかしてあげなければ。)


ベラが忙しくなり殆ど顔を合わせなくなると、トーマスは自宅に引き籠もりがちになっていた。


しかし次第に、ベラを助け出さねばという見当違いな正義感から、学園にも行かず当てもなくウロウロする日々を送っていたのだった。


まるで巡礼のように、ベラがよく行っていた聖ロムール教会にも足を向けた。


特別目的があったわけでもなく、助け出す方法も思いつかないトーマスは、しばらく教会の一番前のベンチに腰掛け、ぼうっとしていた。


「ゾーイ・レフェーブル伯爵令嬢が倒れたのは知っているか。」


静かな聖堂にはそれなりに人がいたが、入り口付近で小声で話す人間の声はよく聞こえた。


トーマスは後ろを振り返らなかったものの、耳だけはその声の方に集中する。


(あれはロッシュ教授か…。そうだ、ゾーイは行方不明だというじゃないか。)


トーマスは、まるで体の中にある天秤の均衡が崩れるように、感情が溢れだした。


(ゾーイ!私のことが好きなゾーイ。きっとどこかで怯えながら私を待っている…。)


先ほどまでベラで一杯だった頭の中に、幼い頃のゾーイや大人になり美しく成長したゾーイの姿が流れ込んできた。


(ベラも私を待っているが、今危険な状況にあるのはゾーイだ。まずは彼女の元に行かねば。)


トーマスの崩壊した思考は一つの結論を導き出し、行動が決まった。


ヴァレンティンはトーマス同様、馬で教会へ来ていた。


気付かれないよう馬を走らせ後を追うトーマス。


しかしこの積雪にも関らず、ヴァレンティンの乗る馬は、まるで小春日和に大地をかけるように颯爽と走っていく。


(くそ…!このままでは見失う…。)


食らいつくようにヴァレンティンに付いて行った先は、王都にあるヴァレンティンの邸宅だった。


(あの男がゾーイを誑かしたんだな。)


自分の考えが支離滅裂だと思いもせず、トーマスはヴァレンティンの邸宅前で張り込みを始めた。


日が昇ってもヴァレンティンの姿は現れない。


正午を過ぎてもなお、一向にその姿を見ることはできなかった。


虫の知らせか、執着からくるある種の直感か、エリックはレフェーブル家へ向かった。


エリックが屋敷の門前に到着した時、玄関が開き、予想外にもヴァレンティンが出て来た。


何かをソレイユと話したと同時に、ヴァレンティンの姿は扉と共に消えた。


(そうだ、以前見たじゃないか。扉の魔道具だ。あれがあると、追跡は難しいな。)


教授ではダメだと、扉の消えたあたりを睨みつけていたトーマスは思った。



―――――――――――――――――――――



「私の話を聞いていただけますか?」


そう言ったゾーイだったが、全員の視線が向けら尻込みした。


しかしグッと息を吸い込み、話し始める。


「そもそも私がこの指輪を行使する時、指輪の魔道具はこう言いました。 “命と引きかえに、蘇らせたい者は誰だ” と。」


乾いた唇を舐めるゾーイ。


「その時思い至ったのはベラについてでした。そうか、と思いました。私の命と引き換えに、蘇らせなければいけないんだと。私の命は、ベラより遥かに軽いんだと。そう思ったら何だかどうでも良くなって。でもいざ死にそうになったら、死にたくないって思っちゃったんです。執念深いですよね。」


俯きながら自嘲するゾーイ。


「でも、その後聖人について知る中で、私思ったんです。逆なんじゃないかって。聖人が蘇るのではなく、蘇らせる人がいるんじゃないかって。」


部屋にいる者が押し黙り、温度が何度か下がったように感じられた。


「ロッシュ先生は言いました。聖人について共通点が無いと。それはそうです。聖人は、ただ蘇らせられただけなんじゃないでしょうか。蘇らせた側に共通点があるんじゃないかって。」


ヴァレンティンとカーラがハッと息を飲んだのが分かった。


「まだ少ししか調べていませんが、聖人の近くには必ず魔力持ちがいました。平民でも。そしてその人物は、皆命を落としています。私がそうなるかもしれなかったように。」


ヴァレンティンの顔が引き攣る。


「でも確実ではありません。まだ2人しか調べていませんから。それに、何故私が死ななかったのかも分からない。だからこそ私は、この件を放っておけません。しなければいけない気がするんです。だから…。」


ゾーイは未だ、不安だった。


誰かを信じ、離れて行き、やがて一人になる。


しかし孤独を知った今、失うものさえ無いと開き直っているのかもしれない。


自分の気持ちは、ゾーイにさえはっきりと分からなかった。


しかし、こんなにもゾーイが抱える問題を考えてくれている人がいて、その気持ちが嘘ではないと、不思議とそう感じられたのだ。


数秒沈黙した後、ゾーイは言った。


「私に、協力してくれますか?」


最後に発した言葉は、ゾーイが思う以上に震えていた。

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