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ゾーイの休息と思わぬ来訪者

部屋を出たカーラは、真っすぐ自室に戻った。


「あー、聞いてたか?」


ソファに座り、眉間に皺を寄せ腕を組む男に話しかける。


「夢みたいな、夢の話だったな。」


ヴァレンティンは、鬼のような形相でカーラを見た。


「命を懸けたなんて。」


「んー、そうね、お前、大丈夫か?頭の血管が切れないか少し心配だが。」


ヴァレンティンは酷く腹が立っていて、カーラの冗談もまともに取り合えない。


カーラからゾーイの逃亡計画を聞いた時は強く反対した。


しかしカーラの言う通り、ゾーイがヴァレンティンに対して疑いの目を向けているのは分かっていた。


ならば思う通りに行動させ、遠くから安全を守るのが得策かもしれないと、カーラの計画に乗ったのだ。


そして事情を聞くというカーラの服の胸ポケットに通信具を忍ばせ、先ほどのゾーイの話を聞いたのだった。


「ゾーイは人が好過ぎると思わないか? 死ななかったのは幸いだったが、何だその夢は? 呪いにでもかけられたのか?」


頭をガシガシと掻きむしるヴァレンティンをカーラは苦笑しながら見ていた。


(この男は、ゾーイの妄想などと露ほども思わないんだな。まあ、私もそうだが。)


「お前はとりあえず、ゾーイが気絶したという教会でも調べてみては?全ての始まりが、そこな気がするんだが。」


カーラの言葉を聞き、俯いたヴァレンティンは頷いた。


「そうだな、そうしよう。今ゾーイの顔を見たらまた怖がらせてしまいそうだ。」


カーラは肩を竦めた。


(結構重症だな。ゾーイに何かあったら、コイツの気が狂ってしまうかもな。)


授業の為に帰宅するヴァレンティンを見送り、カーラは自室で一息ついた。


「はぁ。何だかとんでもないことになりそうだ。さて、どうしたもんかな。」


カーラは、この先ゾーイをどうするか思案していた。


ふと、ゾーイから預かったアンクレットを見る。


(7回…か。)



――――――――――――――――――――――――



カーラが部屋を出ると、ゾーイは残っていた紅茶に口を付けた。


嘘はついていない。だが真実を全て話したわけでもない。


(夢だなんて、きっと話半分で聞いたわよね。小娘の妄想と思ったかしら。)


ティーカップをソーサーに戻し、ソファの背もたれに背中を預ける。


(とにかく体力を取り戻さなくては。)



入浴を済ませた頃、タイミングを見計らったように侍女が現れた。


「ゾーイ様、カーラお嬢様より、最上級のおもてなしをするようにと申し遣っております。」


そう言った侍女は、テキパキとゾーイの身支度を行い、夕食の準備を整えた。


「あの…カーラさんは…?」


「カーラお嬢様は、王都へ戻られています。明後日夕方には帰ると言付かっています。」


「そうですか。ありがとう。」


(あまり長くここにいられないわ。早く回復しなくては。)



次の日の夕方、ゾーイが相変わらずベッドに横になり静養に努めていると、窓の方からコツコツと音がするのに気が付いた。


「何かしら…?」


ゾーイが恐る恐る窓に近付き、掃き出し窓を開けると、そこには何もなかった。


「風のせい…?」


「いや、私のせいだな。」


突然背後の居室内から聞こえた声に驚き振り返る。


黒髪をオールバックにした、全体的に黒ずくめの男が、ソファにゆったりと腰掛けていた。


「は、が、学園長…。」


「不用意に窓を開けることは勧めないな。たとえここが隠し部屋でも。」


“エリック・ルーでもなければ、この部屋は見つけられない”


(まさかそんな…)


学園長自ら、ゾーイを捕らえに来たのだろうか。


「そんなに怯えた顔をしないでくれ。別に何もしないさ。」


そう言って立ち上がったエリックは、硬直するゾーイの右手をすくい上げ、ゾーイの目を真っすぐに見つめる。


漆黒の目の中に金色の光が見えた。


「それで、君のこの右手についている指輪についてだが。」


その言葉を聞き、ゾーイの表情が固まった。

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