訳あり令嬢と王子と勇者パーティと。
初投稿です。誤字脱字等ありましたらご報告下さると助かります。
夢で見たのを文章化したらまったく違うお話になりました。なぜだ。
ここはヘリュンケ大陸の中で4番目に大きい国 メリュート王国
煌びやかな首都 国の守りを固める辺境は漆黒の砦が壮観である、と各国の旅行者からもっぱら評判だ
しかしここ数年、メリュート王国には不思議な《噂》が流れていた
その《噂》とは、『首都には王族の至宝が隠されている』というものだ
ソレを見つければ王になる事ができるだとか、金銀財宝に埋もれ遊び暮らせる、なんて囁かれるほど。
眉唾物の噂に表面上惑わされる貴族はいないがそれでも話の節々にあがるソレは
妙に現実味があるのでかえって不気味だとも言われる。
しかしソレが、ただの大きな館だとは誰も思わないだろう。
ここは窓が一切なく、傍から見ると少し違和感のある造りをした館
王都では地方の貴族が一時的に滞在できるように別邸というものを持っていることが多い
そして、別邸にはこれでもかと贅を凝らすのが一般的だ
そうすると『私達はただ数日滞在するためだけの館にこんなにも金を掛けられるのだ』というアピールに繋がる
結果として有利な婚約を結べたり大きな取引に繋がることもあるのだ。
そんな贅を凝らした館が集まる王都にして少しばかり地味に見えるが、特に異質なのは大きな玄関だ
重厚な作りの扉には外から大きな鍵が何重にも付いている
中にいるものを出さないためではなく、外部からの侵入を防ぐためだ。
普段は物音一つしないそこから ギィ…ギィ…と断続的に金属音がした。
「メリアロア様ァ…こ、これはもしや侵入者でしょうか…」
「お、恐らくそうね。」
今日は何を食べようかしら?あら、メイルがシナモンケーキを焼いてくれたの?じゃあミルクティにしましょうか
なんて話てたら聞こえてきた不審な音
外と唯一出入りできるその扉は、よく見ると若干ガタガタと揺れている
斜め後ろに控えるジュディに悟られないよう腕をさすった
まったく、家主がいない間にとんだ事件だわ!
ジュディは侍女とはいえまだ幼いか弱い少女だ これ以上恐怖を与えて混乱させるのは得策じゃない。
今この屋敷にいるのは私を含め6人 まず5人の安全確保をしなければ。
ジュディは私と一緒にお茶の準備に向かっていた
メイルはいつも通りキッチンね、となると今すぐ動けるのは…
「…カロマ、いるわね?」
スッと返事もなく背後に現れる少年 愛想は悪いが家主の優秀な右腕である
まず、皆がどこにいるのかを把握し家主の部屋に避難させること
自分の安全を第一に行動し、隙あらば家主に連絡をとってほしいと手短に伝える
カロマに頼めば皆のことは大丈夫だ、たぶん。
「御意」
「メリアロア様も油断してはなりません! 狙いは確実に……」
ガンっ!!! ガンっ!!!! ガンっ!!!!!!
唐突に大きくなる音 思わず肩が跳ねた
「っもう! なんでこんなことになるのよ!」
急いで玄関から死角になる場所へ逃げる
私は貴族令嬢、家主が不在な時くらい役に立たなくちゃ。
ガチャンッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!
「――やっと開いたぜ!!」
力任せに開けた扉の隙間から真っ赤な髪がのぞく
まさかの来客は勇者だったか 乱暴な訪問だこと。
違う世界から来たと話す勇者はこの世界には珍しく、損得考えずに善行を施す人種だ
高位貴族からは扱い辛いと言われているが、平民からの人気は鰻登り中
なんとも非常識な訪問の仕方ではあるが、彼に言わせればこれも善行の一つなのだろう。
「んん~勇者君さっすが! 聖女ちゃん、先に進もう」
勇者から30cmほど下に見える藍色と黒の髪は魔術師のようね
噂には聞いていたけれどかなり幼く見えるわ…でも幼く見えても高位魔術師
高位魔術師は家格だけで成り上がれるものではない
高位魔獣の討伐、中位以上の錬成術など才能があるものしか名乗りを許されない
この国でも特別な職業だ
しかしあの聖女に対してちゃん付けねぇ
あの子も神殿のお気に入りなのかしら? ありえなくはないわね
「これも神のご意志です」
出た 聖女。
思わず顔をしかめる そう、あいつは私の天敵だ
白い法衣にプラチナの髪 巷で噂の美女
昔聞いた噂では、あまりの美しさに隣国の王子からアプローチをかけられたらしい。
しかしあの女、「私は神のご意志と共にあります」とか言ってぬるっと断ったのよね
久々に見ても相変わらず【神のご意志】っていってるし。
でもあいつは本当に気をつけなきゃ…バレたら即あの世行きだわ!
そおっとついていくしかないわね。
適度な距離を取りつつ、後をついていく。
ここに住んでいるのは私なのにいけないことをしている気分ね
カン…カン…と魔術師の杖をつく音のみが広い廊下に響き渡る
「――聖女、ほんとにここなのか? ここの問題を解消すれば王子も旅に出てくれるのか?」
「えぇ、あれさえ無くせば神のご意志のもと勇者様と共に魔王退治の旅路に……」
「ふうーん、聖女ちゃんは何か知ってるんだねぇ。
王子様も魔法得意だから仲良くなりたいなぁ……」
きゅふふ と奇妙な音を立てる魔術師
まだその話をしているのか かなり前にその議題は纏まったはずなのに。
諦めが悪いわね、殿下は同行する必要がないと判断されたじゃない
こういうところがあるから貴族に嫌われるんじゃないの。
というか魔王討伐はどうしたの?まさか殿下が共に旅立つまで行かないつもり?
でも殿下ってそんなに強かったかしら?
頭の中で あら?どうだったかしら?と考えつつ目的の部屋を探す彼らの後をついていく
嫌だわ、彼らは土足だからカーペットが汚れてしまう…
庭師のモースは掃除を手伝ってくれるかしら
折角生地から選んで誂えたお気に入りの廊下だから護衛のヤンにも手伝ってもらいましょう
「それにしても変だよなぁ、王都の真ん中に森があってその中にこんな豪華な屋敷なんて。」
「ここは殿下秘匿の場所ですもの。
だれにも怪しまれないように隠匿魔術まで掛けるなんて…道理で見つからないわけですわ。」
「秘匿ねぇ、どんなモノがあるのかなぁ」
緊迫した空気に耐えられず、額から汗がつうっと伝った
あぁ、やっぱり目的はそれなのね。
いよいよ年貢の納め時かしら。
彼らが立った扉は主寝室の扉 ここは家主が王宮の職人を呼んで作らせた特別な空間
あくまで寝室 でもどこよりも手間をかけ暖かさを感じる作りになった部屋
あぁ、嫌だわ こんなことになるなんて。
カツン、と軽い靴音を立てフワリと目の前に現れる
「そこで何をしている?」
「…そちらこそ、こんな時間にご帰宅ですか。
レアンドール殿下。」
スラリとした細い体躯 王族らしく整った顔に薄紅色の瞳
第二側妃に似たサラサラとした薄茶の髪
ローブは邪魔だ、と普段から片側にしか引っ掛けない
長い髪は魔力が溜まるから伸ばしているだけで本当はうっとおしいと言っていた
あぁ、良かった 間に合ったんだわ
「メリアロア、少し休みなさい」
前からふわりと頭を撫でられ、意識を取られる
なんだか緊張しすぎて思考がバラバラとしているの
でも レアンドールがいる
大丈夫 もうみんな無事だわ
本当に良かった
まだまだ死にたくないもの。
「ー私が気が付かないなんて、アレにも隠匿魔術でも掛けたんですの?」
白い法衣を纏う女は嫌悪の表情を浮かべた
自分が理解できない事象を目の当たりにすると、人は困惑する
だがこの女はその事象を理解しようとせず嫌がるのだ
全く持って理解し合えない人間なのだな、と思う。
「君たち神殿は昔から無礼なところは変わらないな
人の家に不法侵入だなんて…。
答える必要はないしお前が知らないだけで隠す魔術はいくつも存在している。
勇者に魔術師、それに聖女か。
今や一世を風靡する勇者パーティが何をしている?」
「せ、聖女ちゃんがここにあるものを無くせば、王子様の心配事がなくなってぇ…!
お、王子様!私達と一緒に魔王を退治してくだしゃい!」
うるうると瞳を潤ませた魔術師が聞いてくれと言わんばかりに懇願する
「――」
「そうなんだ。この世のための旅だろう?
あんたが居たほうが俺たちも心強いんだ!
それにあんた、王様になりたいんだろ?
魔王退治でもすれば…」
勇者も続く さもこれはお前のためなんだと言わんばかりに。
「――――馬鹿馬鹿しい。」
「ーーーーー下がって!!!!!!!」
ダンッ!!!!!!
俺の魔術は俺の感情と深く連動する
彼らとの間に現れるモノ それは俺の魔術の結晶だ
そんなに見たいなら見せてやろう
くらくらり、とまるで壊れた人形のように立ち上がる姿
クスクスと笑う口は歯が抜け口も裂けていた
「あら、別に攻撃など致しません。
主様とメリアロア様に危害を食われなければ♪」
「き、キャアアアアア!!! ば、ばけもの!!!!!」
ドロドロに汚れたメイド服 肌の色はすでに人の色ではない
辛うじて中身は見えないが、片目は腐り落ち空洞の奥に暗闇が広がる
それでも普通に立ち、喋る それが生きてる人間はこの上なく恐ろしい
「まっ! 失礼な方ですね!」
「ジュディ、不法侵入する時点で失礼な方たちだ
許してやれ
それとメリアロアの世話を頼む。」
「はい!主様!」
俺の怒りを察知してメリアロアの為に我が身を犠牲にしに来るジュディ
素晴らしいな、今度褒美を渡さなくては。
もちろん、勇者パーティを始末してからだが。
勇者は目を見開き顔を歪め冷や汗をかいている
聖女は奇声をあげながら必死に魔術を打とうとしているが、屋敷内では反魔術の魔道具を設置しているので全て不発におわりただ喚いているだけだ
魔術師に関しては…死には、していないだろう
「な、なんだあれは…! お、おい説明しろよ!
レアンドール!」
高尚な精神を持ち、物事を善と悪で考える我らが勇者様はとても純粋だ
人々がどうしようもない絶望を前にして縋る異世界の勇者
しかしそれは形骸化したもので今やただの客人扱いである
「君たちに説明する義理はない。
そもそも私が君たちパーティに参加しないと決めたのは陛下だ。
私も異論なしと答えたし、君たちにも通達しただろう
」
大体なぜ私が同行せねばならないのか
散々議会の場で説いたのだが、聖魔法はある程度の傷は癒せるがただそれだけ。
聖女がいれば私など必要ないのである
体も大して鍛えていないし、派手な見た目も研究者気質な中身も旅には不向きなのに。
なにしろ私になにかあれば次期国王である兄が何をするか分からない
母親は違えど今どき珍しく仲の良い王妃と側妃たちの子供はもれなく皆愛が重く育ったのだ
国を治めるのやーめたとか言い出しかねないし、彼らは二度と土を踏めないだろう
「それか神殿に私の秘匿された能力についてでも聞いたか?
どうせ『高い魔力を隠している』とでも言っていたんだろう」
ーあぁ、帰ってきてからまだメリアロアに会っていなかった
メリアロアはすぐに拗ねてしまうから早く帰宅の挨拶をしなくては。
くるりと向きを変え主寝室へ入る
「ーーーーやはり、ここに隠していたのですね!?」
「隠しているも何も、彼女は私の婚約者だ
婚約者を世話して何が悪い」
ベッドの隣にある椅子に座り、今日も美しい顔に口吻する
ただいま、愛しいメリアロア。
「ーは? それ、し、死んでる…のか?」
主寝室のベッドで眠るのは私の婚約者 メリアロア本人だ
ジュディが常日頃から完璧な状態を保ち、本人の要望で今日は薄黄色のドレスを纏っている
穏やかに息をするが、その瞳が開かなくなってからもう10年
日頃から常に側にいるから私にはそんな感覚は無いが、彼女を巻き込んだ事件は演劇になるほど有名だ
彼女は皆から愛されている
「君たちには関係のないことだ 私の兄に叱られるといい」
死なないといいな、と伝え転移魔法で王宮に贈り届けた
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「まったく……困った勇者くんだなぁ」
「本当に迷惑でしたよ、おかげでメリアロアが三日出てきてくれませんでした。」
穏やかなティータイム 向かいで笑みをたたえながら毒を吐く弟は
先日起きた勇者パーティ不法侵入事件にかなりお怒りのようだ
あの日 メリアロアの気の変動を察知し執務中に転移魔術で戻れば自分の愛の巣に不届き物が。
まぁそりゃ怒るよなぁ
「メリアロアは今どこに?」
「ーあぁ、隣に居ます。 メリアロア 兄上とお話しましょう?」
次の瞬間 弟の横にふわりと浮かぶ美少女が見える
なんとも奇妙な魔術 ネクロマンシー
魔術の天才である弟は見事に使いこなし、日常に溶け込ませていた
「ご機嫌麗しゅう 王太子殿下。」
「良い、いつものように話せ。」
「――ありがとう申します。
久しぶり! リカルド! 元気そうでなによりだわ!」
キラキラと眩しい笑顔は若干透けている
それもそのはず、弟の婚約者 メリアロアは10年前の事件から解毒薬が見つからず眠ったまま成長しているのだ
世にも奇妙な話だが 弟の屋敷には実体があり
弟の能力によって精神だけが自由に動き回る事ができている
ある意味「運命共同体」であり、決して離れられない二人
しかしそれでいて二人ともやけに幸せそうなのは、愛し合っているからなのだろう
弟はメリアロアが毒を盛られ、解毒薬が無いことを知ると死にものぐるいで国中を探し回った
結局見つかることはなく、ただただ残り短い灯火を見送ることになる予定だった
しかし、メリアロアには膨大な聖魔力があり
、内側から解毒を始めたのだ
複雑な毒を少しずつ自ら解毒し始めた婚約者を見て何を思ったのか部屋にこもること数日
以前から天才魔術師として名を馳せた弟は「死体から魂を蘇らせる」魔術を完成させた
婚約者は仮死状態であったため弟の術に掛かり、精神だけこの世に存在する不思議な存在になったのだ
なんとも不思議な恋愛劇は王妃自ら広め、今や庶民にまで知れ渡る名演劇になっている
それもまた王族特有の「重い愛情」から来るもので少しでも情報を集められないか、と考えた結果なのだという
乙女趣味の王妃が暴走しただけな気もするが、結果的に弟と婚約者のためになっているので陛下もそのままにしてる、ということだ
「そういえば、ハインヒル令嬢は相変わらず元気になさっているか?王太后が気になされている。」
「ジュディは元気よ! こないだレアンドールに新しい義眼を貰ってとても喜んでいたわ。」
王太后の幼馴染みであり、影武者だったハインヒル令嬢は今メリアロアの侍女兼護衛として使役されているのを聞いたときは王族皆が気を失いそうになった
なぜなら、ハインヒル令嬢は今から40年ほど前王太后の影武者として豊穣祭へ出席中に亡くなられたからである
犯人はすぐ捕らえられたが、眼球から後頭部まで突き抜けた毒矢により彼女は苦しんで死んでいったそうだ
これは王族の中では特に重大な事件として学ぶもので 王太后の代わりに亡くなられたハインヒル令嬢は表沙汰には出来ない存在であるからこそ我々が感謝を伝えなければならないと教わってきた
だがある日突然弟が
「ハインヒル令嬢を蘇生させた。メリアロアの護衛に最適かと思って」
と事後報告してきたのだ
そして次から次へとこのような報告をしてくるようになる
「150年前の文献にあった宮廷庭師のモースを呼んだんだが、あいつはすごい。絶滅したと思われていた花を蘇らせてなんてことのないようにしてるんだ」
「手近にあったからカロマという男を蘇生したんだが、優秀だったから側近にしている。
話を聞いたら亡国の暗部だったらしい。」
「メリアロアは概念的に食事ができるそうなんだ。
料理人を蘇生するのでオススメはいないか?」
天才は本当に存在するのだな、と家族全員が驚いた訳である
しかしこの男の中心にあるのは
「メリアロアにとって良いかと思って」
という突き抜けた恋愛感情からなるもので王位なんて微塵も興味がなく、今日も呼び出されたから来てやった というスタンスを崩さない
良かった 本当に良かった
私だって特に王位に執着はしてないが、少なくとも弟に任せるより安泰な、平和な世に出来るはずだ
だから私は王太子として、兄として常日頃こう思うのだ
「…お前たちが幸せそうで、私は嬉しいよ」
「何言ってるの?疲れてるのね、王太子。」
「えぇ、幸せですよ。」
…それはそれは、本当になによりだ。
その後メリアロアとレアンドールが事件に巻き込まれ、王族初の魔王が生まれそうになったり
勇者パーティ一行が騎士団長にしごかれすぎてやる気を無くしたり隣国の王子が聖女を諦めていなかったり
結局色々大変なのは兄である王太子ということに誰も気がついてないのである。
お読みくださりありがとうございました。
そのうち長編化できればなぁと考えております。
夢ではもうちょっと切羽詰まったホラーちっくでゴシックっぽい服だったんですが
コメディ好きすぎて結局ラブパワー全開になりました。アレオカシイナ
個人的に魔術師ちゃんをブリブリにしたいなと思ってます。