1話 10年後の向こう
ここはルーンスタック王国の宮廷。
宮廷魔術師ヴェルフリッツ・バーイヤーは自室で興奮していた。
「やった……やったぞ‼ ついに不死の魔術陣の完成だ。ハハハハハ」
ヴェルフリッツは喜んで高笑いをした。
「一度死んで10年後に復活するリスクはあるけど、それでもこれだけのリスクで済むなら大したことはない、さっそく遺書をかかないと。」
ヴェルフリッツが魔術陣から背を向けた瞬間、魔術陣が思わぬタイミングで作動し、輝き始め。
「そんな、どうして⁉」
ヴェルフリッツはそして光に包まれ、命を落とした。
ヴェルフリッツが目覚めると、辺りは真っ暗でホコリ臭い。
(ここは……? どこだ?)
(息が苦しい、誰だ?なんの冗談だ?僕をこんなところに閉じ込めて)
「爆ぜろ‼」
目の前で魔術が炸裂し、ヴェルフリッツはせき込みながら墓穴から這い上がった。
ヴェルフリッツの視界の中に墓石に刻まれた名前が入る。
ヴェルフリッツ・バーイヤーここに眠る。
ヴェルフリッツは唖然とした。
(僕は……確か)
(ヴェルフリッツは思い出す、趣味で作った不死の魔術陣……)
そう自分は10年の間死んでいたのだ。
服も死に装束。
「冗談じゃない、でも……」
記憶が正しければ先ほどまでは、自分は宮廷の自室にいた、だがここは、僕の故郷、バーイヤー辺境伯の領地、ウェストヘイルの町だ。
頭の中が真っ白なヴェルフリッツは墓から這い出て、屋敷に向かう。
屋敷にたどり着くと、衛兵が二人屋敷の前にかかった橋の上で警備をしていた。
「止まれ‼」
ヴェルフリッツが屋敷の門の前まで来ると衛兵がヴェルフリッツにそう声をかける。
「僕の名前は、ヴェルフリッツ・バーイヤー、父オクトー・バーイヤーの息子です通して下さい。」
「申し訳ないが、ヴェルフリッツ様は亡くなられた、おかしなことを抜かす奴を通す訳にはいかない、不審者め‼」
「違う僕は……」
ヴェルフリッツが反論しようとした瞬間、奥から少女と父、オクトー・バーイヤーが現れた。
「なんだ?騒がしい」
オクトー・バーイヤーは現れるなりそう言い放つ。
「父上‼僕ですヴェルフリッツ……」
ヴェルフリッツの顔の横を氷の槍がかすめる。
「お父様……?」
ヴェルフリッツは一瞬何が起こったかわからない様子だったが、次の瞬間、さらに強力にオクトーの放った氷の槍がヴェルフリッツの腹を貫いていた。
ヴェルフリッツは不思議そうに自分の腹に刺さった氷の槍を見て血を吐き出す。
どうして、僕が?僕は何もわるいことはしていない……
ヴェルフリッツはその場で気を失った。
「吹き飛べ‼」
オクトー・バーイヤーがそう唱えると、魔力を込めた魔術陣がオクトー・バーイヤーの足元に広がった。次の瞬間何かがはじけた様な音と共にヴェルフリッツは屋敷の前の橋の上から吹き飛び、川に落ちていった。
「オクトー様、いかがなさいますか?」
門番の一人がそう聞くと。
「そのままにしておけ、死した我が息子の顔で、私を馬鹿にするものは許しはしない、ヴェルフリッツは死んだのだ。」
オクトー・バーイヤーが振り向き。
「行こうレーヌ」
というと、レーヌと呼ばれた少女はうなずくと。
「はい、お父様」
そう言ってオクトー・バーイヤーの後ろをついていった。