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第3話 慈愛

 私は逃げるようにして執務室を後にした。


 あの二人と同じ空間にいたくなかったのだ――自分が異物のように感じられてならなかった。


 それは母のあの目だ。私とカタリナに向けられる母の目は、明らかに違っていた。


 カタリナに向けられる母の目――それは、慈愛に満ちているように見えた。少なくとも、私は生まれてこの方、母にそのような目を向けてもらったことはない。


 




 もともと、私と母の関係性は、一般的な母娘のそれとは違っていたのだと思う。


 私と母には、〈聖女〉しか繋がりがなかった。だからと言って、そのことに不満を持ったことはない。〈聖女〉というのは、そういうものだと思って育ってきたからだ。


 だが、母とカタリナを見て確信した。


 私は母に愛されておらず、カタリナは母に愛されている。





 自室のドアの前に立ったとき、私は異変に気がついた。


 鍵をかけたはずのドアが開いていたのである。おそるおそる中を覗いてみると、身の回りの世話をしてくれる召使いたちが、慌ただしく動いていた。


 彼女たちがやっていることを見て、私は思わず叫んでいた。


「あなたたち、一体、何をしているの!」


 いきなり声をかけられたにもかかわらず、彼女たちは手を休める様子はなかった。


「マリア様、お部屋の移動をお願いします」


「部屋の移動? そんな話は聞いていないわ。誰に言われたの?」


「先ほどエリザベート様が。カタリナ様がお使いになるそうです」


「カタリナ……!」


 私は聖女のモチーフがついたペンダントを思わず握りしめた。


「そう……それで私の新しい部屋はどこ?」


 私は精一杯平静を装った。


「今日から離れで寝泊まりするようにと、エリザベート様が……」


 

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