第三話 学園長
エラとライリーが学園長室へと向かっているとちょうど始業のチャイムがなった。
「大丈夫? 授業始まったみたいだけれど」
「エラ嬢を案内していたと説明すれば大丈夫だと思いますので」
「そう、なら良かった」
そんな会話をしながら二人は校舎内へと入る。貴族が通う学校ということもあり、内装はかなり立派なものだった。
王立リートン学園。それは下級貴族が通うために創られた学校である。王国中の下級貴族の令息、令嬢が集まり、勉学に励む。豪商の子などが通うこともあるというが、ある程度のコネと経済力が必要なため、そのようなものは数える程しかいない。
「到着致しました」
そう言われて顔を上げると、エラの前には大きな木製の扉があった。
ライリーに礼を言い、授業に戻るように言う。ライリーが戻ったのを確認して学園長室を三回ノックした。
「どうぞ」
少ししわがれた声で返答が返ってくる。エラは重い扉を力一杯押して開いた。
「失礼致します」
そう軽く挨拶して中に入る。室内は重厚感のある装飾が施されていた。
目の前の長机で書類仕事をしてる人物のところまで歩いていく。
「初めまして、私、姉のミアの代理で視察に来ましたエラでございます」
「あなたがエラ様ですか! お待ちしておりました。私はこの学園の学園長を務めさせていただいているアーサーと申します。どうぞ、そちらにおかけください」
学園長の言葉に甘えて赤色のソファに腰をかける。程よく沈みとても座り心地が良い。
エラが座ったのを確認して学園長がとことことやってくる。先程は胴体が長机に隠れていてわからなかったが、身長がエラの腰ほどまでしかない。しかし顔には白く立派な髭が生えている。他にも顔の造形などから、この学園長は小柄な初老の男性なのだろう。
(かわいらしい……!)
心の中でかわいらしさに微笑みながら、エラは話を始めた。
「こちらが私が視察に来た者だと証明する書類でございます」
「ありがとうございます。確かに国王様の印もあるようですね」
始めに必要な書類などの確認を済ませる。特にエラの身分証明は慎重に進めていく。下級貴族の通う学園だ。厳重な警戒が必要となる。上級貴族と比べて狙うハードルが低いため、下級貴族の被害は後を絶たない。
エラが到着する前に、何度か視察と偽って学園に侵入する者もでているらしい。
「エラ様、王立リートン学園までお越しいただき誠にありがとうございます。エラ様には明日からこの学園に生徒として通っていただくことになります。書類で確認済ではあると思いますが、もう一度ご説明させていただきます」
「ありがとうございます。アーサー先生、そんなに畏まらないでください。私は生徒ですので」
「しかし……」
「いち生徒として扱っていただいた方が評価もしやすくなると思いますわ」
「そうですか、では」
そういうとアーサーは咳払いをする。
「では、いち生徒として扱わせていただきますね」
その前置きの後に、学園で生活するにあたっての説明を始めようとしたときだった。
「学園長!」
そう叫びながら一人の女生徒が入ってくる。女生徒は学園長の前にいるエラを見て軽く会釈すると、もう一度学園長の方を向いた。
「お取り込み中申し訳ございません。緊急でご相談したいことが」
(なにかあったのだろうか)
女生徒は息を切らしている。よほど急いで来たのだろう。
「私にはかまわずに話して」
エラは少しの好奇心から女生徒に続きを話すように促す。
「ハロウィンパーティーで使用する巨大カボチャが盗まれました」
学園長が驚いて席を立つ。ハロウィンパーティー。そこまで重要なものなのかとエラは首を傾げる。
「今年は王族の方々も来られるのじゃぞ? 完璧なものにしなければならぬというのに……」
(なるほどね……)
王族が来るパーティーだということは事前から入念な準備を積み重ねてきたのだろう。失敗は許されない。
「カボチャをしまっていた倉庫には鍵もかけてありましたし、盗めるはずないのですけれど」
女生徒が困ったように行った。不安が表情から伝わってくる。
「すぐに確認しに行く。みなには教室で待機しておるよう伝えておいてくれ」
「わかりました、学園長」
女生徒が退出し、学園長がエラに向き直った。
「すみません。今すぐ倉庫の確認に向かわなければならないので、少しお待ちいただけますか?」
こう問われたとき、素直に頷いておけば良かったのかもしれない。
「迷惑でなければ、私も行ってよろしくて?」
十数年、部屋に引きこもっていたことにより爆発した好奇心がエラの人生を左右する。