最後の悪あがきも
何度も攻撃している内に、その弱点の位置も見えてきていた。もやの濃さが一部だけ濃いままで、そこからはもやが分散していないのだ。そこに集中して、隔たりを増やしていく。もやの黒い部分も徐々に分散していく。そして、黒く光る宝石のようなそれが出現した。それを攻撃するとどれだけのダメージが入るのかはわからない。しかし、確実にそこに攻撃を当てられる状態。彼は最後も油断せずに、その宝石の中心から真っ二つにするように空間を隔てた。その瞬間、黒いもやが苦しむかのような動きを見せた。うねうねともがきながら、もやが化け物の空間に散っていく。全てのもやが散るまで、もやはもがき続けた。そして、最後に、真っ二つになった宝石にひびが入り、地面に落ちた。カラカラと左右で別のタイミングで転がった。
化け物に取られていたネクロマンサーの力が彼に戻ってくる。力が元に戻ったのを感じた。しかし、遊羽の亡霊はもう戻って来ない。彼が無理やり、亡霊として存在させていたのだ。その力を彼に戻したのだから、もう亡霊は戻ってこない。遊羽の魂は完全に消失したのだ。世留は彼女の心の中で、仇は取れたとだけ報告した。
「そ、そんなっ。主人が、いなくなってしまうなんて」
彼の後ろから悲痛な声が上がる。その姿を見る前に、声の主は走り出した。二つになったボロボロの宝石を持ち上げる。彼女はそれをじっと見つめていた。小さな宝石を大切に、落とさないように持っていた。それだけ、彼女にとっては大切な存在だったのかもしれない。世留が少しだけ彼女に同情を抱くその瞬間に、彼女はその宝石を飲み込んだ。彼女の体に散っていったはずの黒いもやが彼女の体に集まっていく。世留はすぐに彼女ん向けて、超能力を使用した。相手の体をバラバラに、バラバラに刻んだのだ。黒いもやが肉片を包んでしまう。あの化け物を倒したと思っていたが、どうやら完全に宝石を砕くべきだったと後悔した。だが、それを悔やむより先に、彼は彼女が飲んだ宝石を探す。体をバラバラにしたのは、その宝石を見つけるためだった。飛び散った血ともやで見えにくかったが、その宝石を見つけた。
「しつこい化け物だ。これで、終わりにする」
宝石に向かって何度も超能力を使用して、宝石をバラバラにした。もうそれが宝石だとはわからないだろう。粉々になってしまい、ガラスの破片とすら思われないだろう。集まった黒いもやが再び、空気中に散った。きっと、粉々にした宝石がいつかは修復されて、あの化け物が再び出現するのかもしれないが、それはきっとずっと先の話だろう。彼は相手がもう少しも動かないのを確認すると、その空間から出ていった。最後は自身の空間の隔たりを解除してその空間の出入口を閉じた。最後にその空間に残されたのは、肉片になった従者と粉々になった宝石だけだった。
「やぁ、君の復讐は終わったかな」
現実の空間に戻ると、彼の前に何者かが立っていた。夜空を思わせるような髪を微かな風に揺らし、世留を見る瞳も星が見えるような錯覚をする夜空を映した瞳。何より、目の前の人物の体を包んでいるのは、髪や目と同じ濃紺のマントだった。おそらく、女性。彼女はいつの間にか、そこにいた。世留はとっさに反応することもできなかった。彼女が何者かもわからない。
「君はこの世界を大きく変化させてしまう。この復讐の先に、君は何を望んでいるんだい」
淡々と抑揚なく話す彼女の言葉は不気味だとも感じる。彼女が何を考えてそう言っているのかも理解できない。世留はネクロマンサーになってから初めて、この相手にはどんなことをしても勝てないな、と思った。
「特に何も考えいない。もう、復讐は終わった。遊羽もいない。だが、三人だけだが、仲間が出来てしまった。とりあえずは、三人と旅を続けたいな」
「そうか。しかし、君のネクロマンサーの力と超能力は相性が良すぎる。使い方次第では世界のルールを変えられるだろう。君がそうしないと確信は出来ない。悪いとは思うのだが、ここで死んでもらうことになる」
世留は相手の死の宣言に対して、不思議と抵抗する気に慣れなかった。それは復讐を終えたからかもしれない。確かに、三人と行きたいと願ったのは嘘ではない。しかし、ここで死んでしまってもいいかなと思っている彼も確かにいるのだ。彼はそうか、とだけ返して、黙り込んだ。彼は既に、自身の死を待っている。
「ヨルさん!」
「よ、世留さん!」
彼の名前を呼んでいるのは、女性二人だ。サラと祷花が荷馬車から降りてきて、馬車より少し速いくらいの速度で、世留の用へと走ってきていた。どうやら、二人とも身体を強化しているようだった。
近づく二人を認識しながらも、夜空を模したような女性が彼の首に手を掛けようとした。しかし、その手が彼の首に触れることはない。そこから何かするわけでもない。
「……やはり、やめるべきか。悲しみと怒りを増やすのは、君のしたことを無に帰すような行為だろう。……もし、君が世界のルールを変えるようなことが会った時には、私と再び会うことになる。その時こそ、君が死を覚悟するべき時だと思っていてほしい。それまでは、君は自由に生きると良い」
それだけ言うと、瞬きもしないうちに、目の前からその女性は消えた。名前も何もわからないが、二度と会いたくない相手だと思った。




