表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒い覚悟  作者: ビターグラス
16 仇の行く先は
91/96

未来の風景

「その、ごめんなさい。仲良くしたいって言ってもらえたことがこんなに嬉しいとは思わなくて……」


 サラが赤くなった目で、祷花を見ていた。子供のように涙を流し、それを慰めてもらったことがものすごく照れ臭かった。世留の不器用な優しさも好きだが、彼女の真っ直ぐに伝わる温かさも好きになってしまった。サラは今まで、自分に触れていた祷花の手を握る。その手はまだ温かかった。サラは祷花の手に触れたまま、その手を見つめていた。祷花は戸惑っているようだが、その手を引き抜くことは出来なかった。


 しばらくして、ようやく祷花の手が解放された。サラの手の熱が、祷花の手に残っていた。祷花は自分が思っていたよりも、サラが大人でないことが少し嬉しかった。彼女が冷静な大人であれば、きっと仲良くなることは難しかったかもしれない。顔女は自身をまだ子供だと思っている。ほとんど世界のことなど何も知らなかったのだ。この旅をするだけでも、周りにあるものは新鮮な体験であった。それでも、周りを見るだけで、そこに自分がいるという意識はなかった。本を読んでいるのとあまり変わらない。しかし、今、彼女は他人の世界に踏み込んだ。自分の意志で、彼女はサラの見ている世界に入りこんだのだ。祷花にはその認識はない。しかし、それでも、彼女と浅くはない関わりが出来たとは感じていた。


「サラ、さん。友達になってくれますか」


 祷花はサラへと握られていた手を向けた。手の先に彼女の真剣な瞳があった。サラはその手を迷わず握り返した。


「はい。私たちだけの”友達”になりましょう」


 サラにとっては他に人が使っている友達の定義などはどうでも良くなっていた。他の人がどういおうと祷花となら仲良くなりたいと思ったのだ。誰かの言った友達の意味をなぞるより、自分たちだけの特別な関係になれればそれでいいと思った。そして、二人は手を握って、微笑みあう。いつのまにか二人の間に空いていた距離はなくなった。世留の座っていた空間は埋まり、二人は隣に座った。




「中々、いい話を聞きましたね。仲が良いのは良いことです」


 御者台に座っていた彼には、中で起こっていたことを目で見ることは出来なかったが、それでも会話を聞くだけで、二人の関係が良い方に行くということは理解できた。仲間に入れてほしいとは思うが、そんな野暮なことをすることは出来ない。商人なのだから、空気を読む能力は高いのだ。彼は中の出来事を聞いていないかのように、いつも通り少しだけ微笑んだ顔で馬を歩かせているのだった。




 仲良くなった二人はお互いのことを話していた。サラの出自、祷花の体験だ。サラは治癒師であり、崇められて勇者一向に入れられて、世留に出会って彼に付いて行き、つい先日都を追放されたこと。祷花は軟禁状態で、世留に出会うまで小さな世界の中で生きてきたこと。それを話すと、二人の共通点が出てくる。それは世留に救われたということ。サラに関しては既に、自分の恋を理解しているのだ。祷花にはそこまでものは未だない。しかし、世留が支えになっているというは事実。二人は彼と一生一緒にいたいと思える相手なのだ。サラも祷花も薄々それには気が付いていた。


「……こんなことを言うべきではないかもしれませんが、お互い世留さんに助けられてたってことですよね。その、サラさんはずっと彼と一緒にいたいと思っていますか」


 祷花はタービュライに聞こえないくらい小声で、サラの耳元で囁いた。まさか、彼女がそこまで踏み込んでくるとは思っていなかったサラは目を丸くして、頬を赤くした。彼女にそう訊かれた瞬間、彼女の頭には彼の顔を下から見上げた時の顔を思い出したのだ。彼女は頷くだけで精いっぱいだった。今声を出そうとすると、震えてしまって何も言えなくなってしまうだろう。祷花は、それだけで本当に世留のことが好きなんだと思った。しかし、彼女は身を引こうとは思っていない。そもそも、本で知ったことだが、この世界では一夫多妻の夫婦も一妻多夫の夫婦もいる。もちろん、同性で結婚している人たちだっているのだ。


「サラさん。私も同じなんです。世留さんと一緒にいたいんです。いいですか」


 彼女がここまで強引に意見を通そうとすることは珍しい。それだけ、世留とサラとの未来を掴みたいのだ。三人なら幸せになれるだろうと。サラは彼女の言葉を聞いて、彼女の顔を見た。そして、頭に祷花と世留と一緒に家庭を築いている未来が頭に浮かんだ。その中では、世留を幸せに笑っていたのだ。


「……はい。二人で彼のお嫁さんになりましょう」


 サラは祷花の頬に触れて笑った。祷花はその手の甲に触れて応じる。二人の決意は固い。たとえ、世留に甲斐性が無くとも、何が何でもどちらもが彼の妻になる決意をしてしまった。彼の預かり知らぬところで、彼の未来が決定してしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ