ぎこちない二人
祷花はサラと少しでも仲良くなりたいと思っていた。彼女が救ってくれたからではなく、少しの間だが彼女が世留と同じような、優しい人だと感じたのだ。彼とは違って少し変な所はあるが、それでも彼女と仲良くなりと思っていた。
サラは、つい先日のことを思い出していた。自分の育った町には既に戻れない。あの都でもそうだったが、自分には友達と呼べるような人はいないのだ。今更だが、人との付き合い方がわからないことに気が付いた。世留と一緒にいたいのだが、そうするには一般人の感覚も必要かもしれないと感じていた。だが、そう言ったものを他の人がどうやって習得しているのかもわからない。彼女は横にいる祷花をちらと見た。彼女なら常識を知っているかもしれない。少なくとも、独りよがりだった自分よりは一般人のことを知っていると考えた。
「祷花さん。あの……」
それ以上は言葉が続かなった。呼ばれた祷花は彼女を見て、彼女の言葉を待っている。サラは、何を聞けばいいのかは全く分からなかった。そもそも、彼女と何を話せばいいのか。教えてほしいとだけ言っても、何を教えればいいのか相手だってわからないだろう。彼女自身教えてほしいことが明確にはなっていないのだ。一般人の知っていることを教えてほしいと言っても伝わらない。
「サラ、さん? どうしたんですか」
「あ、いえ。その、普通の人はどうやって生活しているのか、ふと気になったのです」
「……?」
サラの口から出たとっさの言葉は祷花に伝わらない。そもそも、タービュライの方がそう言った話題に敏いだろうが、サラの頭には彼の名前は候補に挙がっていないのが不思議だ。女性であるという共通点がそうさせているのかもしれない。サラはそれ以上はどう伝えたらいいのか、わからず黙ってしまった。祷花は彼女が声をかけてくれたのをチャンスだと思った。ここで何か言葉を続ければ、彼女のことが少しはわかるかもしれないと思った。
「サラさん。その、」
しかし、結局はぎこちない距離感が、言葉の続きを作らせない。サラの二の舞でそれ以上は口からは出ていかない。だが、祷花が彼女と違うところは引っ込み思案で恥ずかしがり屋で、焦るとあたふたするところだろうか。だが、それのせいで言葉の続きが勝手に出てくるのだ。
「わ私ととと友達になって、くれませんか、か」
焦りと震えで、声が引きつり、変な言葉になったが、サラには伝わったようだったが、その意味を理解しているかどうかは別であった。
「友達、とはどういうものなのでしょうか。もちろん、意味は知っています。しかし、どうすればその状態になるのかわからないのです」
そして、偶然にも彼女が知りたいことの一つでもあった。人と人の関係の一つ。彼女の周りの人が使う友達という言葉は、良好な関係のことを指しているようだったが、それ以上はわからない。友達になったら何なのか、何か変わるのか。そう言ったことは彼女には理解できないのだ。一度だけ友達になろうと声を掛けられたことはあるが、その人は友達になりたいわけではなく、彼女の治癒能力が築く富と地位が目的だったようだが。彼女はそれを知らない。なぜなら、その言葉を言った相手に、淡々と友達の定義について問うたからだ。その人は彼女を面倒そうな人だと思い、結局はそれ以降会うこともなかった。当時は、それで傷つくほど、他人の心を理解できなかったため、彼女はその人を気にすることはなかったのだが。
「そ、そうですね」
祷花は焦ったように、顔を俯けた。実際のところ、彼女も本当の意味で牢入り娘だったのだ。母親や世話をしてくれる人と言うのはわかるが、友達と言うのはいなかった。同世代の人に会ったこともない。彼女は世留やサラ、タービュライが初めて会った歳の近い人だった。タービュライはしっかりしていて、友達と言う感じではないし、世留は友達と言うよりかは憧れの人だ。サラは仲良くしたいと思える人だが、友達ではない。
「……その、実は、私も友達と言うのがどういう関係なのかわかりません。自分で言ったのにおかしいですよね。でも、本当にそう言う人がいなかったので、わからないんです」
サラは彼女の言葉を静かに聞いていた。
「でも、たとえ、友達と言う関係でなくとも、私はサラさんと仲良くなりたいと思います。だから、そのどうしたらいいでしょうか」
彼女の瞳は真っ直ぐサラを見ていた。サラは彼女の言葉に、何か、心が震えるというような衝撃を受けた。仲良くなりたいと声を掛けられたなあの時とは全く違う。今だからそう思うというわけではないだろう。彼女の真摯な言葉が、彼女の心を突き刺したのだ。祷花は治癒の天才と仲良くなりたいのではないのだ。サラと仲良くなりたいのだ。その心がサラにもわかった。不思議と、目から涙が溢れてきた。
「え、その、ごめんなさい。ど、どどうして泣いて……?」
「ごめんなさい。祷花さんの言葉が、真っ直ぐで……。私は」
とりあえず、祷花は幼い頃に泣いてしまったときに世話係にされたように、彼女の背中の方へと手を回し、彼女の肩を抱いた。しかし、サラにとっては逆効果だった。彼女はそこまで温かいハグを経験したことはない。彼女を世話をしていたシスターに抱かれたときもここまで温かくはなかった。祷花の暖かい優しさが自分に映ってくるような感覚がある。それがとても嬉しくて、余計に涙が出てきてしまう。それでも、祷花は彼女を抱きしめていた。彼女が泣き止むまで。




