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黒い覚悟  作者: ビターグラス
14 商人と巫女と町の噂と
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商人として

「僕たちを襲った人たちは、誰かの依頼で仕事をしていただけなのでしょうか」


「ああ。この騒動を起こしているのは薬屋だ。君たちが商売を始める前からおかしなところはあったが、ここまで悪いことをする人だとは思えなかったのだが。いや、すまない。言い訳をするべきではなかった。この町の商売関連で起きたトラブルは商人組合の責任だ。貴方の身の安全や品物の確保も私にさせてくれないか」


 インレインだーはタービュライたちに起きたことをとても申し訳なく思っているというのが伝わるほど、紳士的な対応をしていた。商品を盗まれたり、金銭が盗られたりしたわけではないため、保証などしてもらう必要はないのだが、商品を仕入れられるというのは彼にとってはかなりの得であった。


「薬屋ですか。ワタシも値段調査にお邪魔しましたが、店主の方は、こんなことをするような人には見えなかったのですが」


「それが、何週間前からか様子がおかしいと報告が来たことはある。だから、何度か、店主に会ったのだが、おかしな言動はなかったんだ。一日、チームで尾行をしたことはあるが、その時もおかしな点は見つからなかった。だが、貴方たちだけでなく、薬屋が起こしたと思われる小さな事件はあるんだ。今回は小さくなかったが」


 インレイダーはテーブルに肘を立てて、その上で指を組み、そこに頭を乗せていた。どうやら状況は自分が思っていたより酷いものだったのかもしれないとタービュライは思った。祷花は緊張した空気に委縮した様子で何も言葉を発することはない。


「ああ、すまない。今回の保証の話をしたかったんだ。とりあえず、身の回りの安全と荷物、商品の安全。そして、商品の仕入れを通常通り行えるようにする。他に何か必要か」


 彼はテーブルから肘を降ろして、彼をまっすぐ見て保障の話をした。だが、タービュライは商人としてこの事件を見過ごせないと思った。今は自分だけに被害が出ているが、これから先この町の商人や卸業の人にも被害が出る可能性の方が高いだろう。


「そうですね」


 タービュライはわざとらしく顎に手を当てて、考えるふりをした。少しだけ間を開けて、先ほどは委縮いていた祷花見ると、何かを心配そうな顔をしていた。彼女も世留に助けられてきっと彼と似たようなことがしたいと考えているのかもしれない。タービュライは彼女の考えはわからなかったが、一人でもこの事件を負うことは出来るだろうと算段を付けた。その時間は一瞬で、インレイダーを待たせることなく、彼は顎から手を離して、テーブルに掌を着いて頭を少しだけ下げた。


「この事件、ワタシも解決に向けて捜査に協力したいと思いますが、よろしいでしょうか」


 インレイダーは驚いていた。目を丸くして、彼を見ていた。タービュライからはその顔は見えない。インレイダーは少し身じろぎをして、姿勢を正した。


「いいのか。貴方にとっても危険なことだろう」


「構いません。それより、この町の卸業や産業に携わる方に影響や被害が出る方が困ります。この町に根差している商人には生活がかかっていることでしょうから」


 最後は彼は顔を上げて、冗談を言うような軽さでこういった。


「それに、商人を敵に回したら怖いっていうことを教えてあげたいですからね」


 インレイダーはクールに見える彼の中にも商人としての矜持があることを理解した。そして、彼の名前をどこかで聞いたことがあると思っていたのだが、ようやく彼の情報を思い出した。


「……そうか。貴方が、あの、最年少優秀商人と呼ばれたタービュライだったのか」


「昔のことはあまり言わないでほしいですね。あの頃は、慢心と強欲だけで承認をしていました。今のように誇りも矜持もありませんでしたので」


 そう言いながら、彼は少し照れていた。祷花はその横顔を見て、珍しいものをみられたのかもしれないと少し嬉しくなっていた。


 その後、薬屋の店主の話をインレイダーの知っている情報を教えてもらった。そうは言っても、先ほどから話していた情報とあまり変わらなかった。店主の様子がおかしくなったのは、数週間前。いつもはおかしな様子はない。タービュライ以外はまだ襲われたり、脅されたりしているという情報はないということ。情報がないという言い方を下と言うことは、既に他の商売に関わる人に被害が出ている可能性を考えるべきだと言外に言っていると思った方が良いだろう。


 一通り話を終え、二人はインレイダーに見送られながら商人組合を出た。止めていた馬車に移動して、馬車の点検を行う。


「タービュライさん。あの、これ。手紙? がありました」


 荷台に移動したと思った祷花が折られた紙一枚をタービュライに見せた。そこには、汚いギリギリ読める程度の字が書かれていた。


 余計なことはするな

 商売を止めないと

        殺す


「悪戯、と言うわけではないでしょうね。薬屋の手の者でしょうか。まぁ、どちらにしろ、明日からは商売をする余裕はありませんから、忠告を素直に聞いた形になりますけど」


 タービュライはその一枚の紙にも動揺することもなく、その紙を胸の内側のポケットにしまった。

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