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黒い覚悟  作者: ビターグラス
14 商人と巫女と町の噂と
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行き過ぎた嫌がらせ

 馬と車輪の音以外の足音が路地で鳴る。馬車の後ろからいくつか重なった足音がした。正面にも三つの人影。いずれも、筋肉の付いた男でにやけ面だった。


「ちょっと止まってもらおうか、新人の商人さんよ」


 止まれも何も、馬の前に立たれては止まるしかない。ここで強行突破してもいいが、彼らを殺す可能性がある。馬に傷をつけられる可能性もある。どちらにしろ、止まった方がリスクは少ない。馬車が止まると同時に後ろにいた三人が荷馬車の布を勝手に開けて中を見た。


「おー、看板娘いるぞ。こいつは依頼には入ってないよな」


「ああ、俺たちのものにしようぜ」


「俺たちの依頼はあの商人の確保だけだ。他の金目の物ももらっておくぞ」


 後ろに乗り込んできた男たちは好き勝手に口を動かしていた。彼らは何も隠すこともなく、自分たちの受けた依頼の内容まで話してくれた。


「そういうわけだ。商人さん。あんた、少し目立ちすぎたな」


 屈強そうな男の手が彼の肩に触れた。その瞬間、御者台の上だというのに、彼は相手の腕を縦方向に回転させて、彼の体を地面に叩きつけた。


「商人の間では、体に触れてしまうのはご法度なんですよね。理由としては、それだけで触れた側は何をされても文句言わないという合図ですからね。正当防衛と言うらしいです」


 タービュライは背中を叩きつけた相手を御者台の上から冷たい鋭い目で見下していた。


「な、てめぇ。……まぁ、いいか。抵抗するならこいつを殺すぞ」


 既に荷馬車に乗っていた一人が祷花の首元にナイフを突きつけていた。刃を少し動かせば、彼女の喉は斬れてしまうだろう。しかし、それは祷花が普通の一般人だったらの話だ。


「そうですか。構いませんけど、死ぬかもしれませんよ、アナタが」


 しれっというものだから、盗賊はそれを挑発と受け取った。タービュライの余裕そうな顔を崩したいというだけで、その男はナイフを彼女の喉元に当てて、思い切り引いた。ナイフが彼女の喉元から離れた瞬間、荷馬車から男が吹っ飛んでいった。路地の狭い通路の中、何十回か回転して止まった時にはもう動かない。


「あ、ごめんなさい。や、やりすぎたかもしれません」


 祷花は相手が彼女が思ったよりも吹っ飛んでいったのを見て、申し訳なさそうにしていた。後ろにいた残り二人の男は唖然としていた。こんなに可愛らしいのに、そこまでの力があるようには見えない。魔法を使ったと疑いたくなるが、ここらの魔気は魔法を使ったときのような動きはしていない。単純に力で彼女に負けたと考えてしまうのも当然かもしれない。


「ふざけんな! お前だけでも!」


 荷馬車の正面の二人がタービュライに突撃していく。その声に反応して、後ろの二人もタービュライの確保に協力するように動いた。祷花はその様子を見ているだけだ。加勢しようとはしていない。それは事前に打ち合わせていたことの一つだ。お互いに自分のことだけを守りましょうという約束。祷花は少しだけ心配そうにしていた。


「奇襲するならもう少しうまくやらないとダメですよ」


 男四人が意識を閉じる前に見たのは、こんな状況でも不気味なまでに爽やかな笑顔をしているタービュライだった。




「全く。誰の依頼か知りませんが、相手の力量も測れない馬鹿に裏の仕事は務まりませんよ」


 彼は、見た目盗賊の六人を縄で縛った。


「こ、この人たちどうするんですか」


「さて、どうしましょうかね。商人組合に送ってもいいんですが、取り合ってもらえるかどうか……。とりあえず、行きましょうか」


 結局、二人はその男たちを荷馬車の後ろに括り付けて、馬車を走らせた。こんな男たちを荷馬車には乗せたくはない。商人組合も遠くはないから、少し引きずっていこうと思ったわけだ。彼が怒っていたというのもあるかもしれない。


「神様、ありがとうございました」


 祷花は手を合わせて、力を借りていた神様にお礼の祈りを忘れずにしていた。




 二人は商人組合の前に来ていた。もう夜と言っていい時間だが、まだ商人組合は開いているようだった。馬車を駐車場に止めて、括り付けた男たちを引きずりながら、商人組合の扉を開いて中に入った。


「今日は、どのような……って、盗賊ですか。それなら、冒険者ギルドに……」


 中に入ると、身なりの綺麗な女性に声を掛けられた。タービュライは事情を説明すると、女性は焦った様子で組合長を呼ぶと言ってその場から移動した。しばらく待つと、線が細い長身の男が出てきた。彼も少し急いだ様子で、タービュライに近づいていく。彼にはそこまで急ぐ理由が良くわからず、不思議に思っていたが、それを表に出すなんてことはしない。組合長にもいつもの爽やかな笑顔を向けていた。


「お待たせしてすまない。私が起鼓詩支部の組合長、インレイダー・ルミナスだ。今回のことは何とお詫びすればいいのか、本当にすまない」


 彼が頭を下げているのを見て、この盗賊のことだろうとわかったが、そこまで謝られることでもない気がしていた。とりあえず、タービュライは彼に頭を上げてもらい、話をすることにした。部屋に案内される前に、捕まえた男たちを組合に渡した。しかるべき対処をしてくれるだろう。そして、タービュライ、祷花、インレイダーはソファが二つ対面して置かれ、その間に低いテーブルが置かれた部屋に案内されたのだった。

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