嫌がらせ
二日目の夕方手前、さすがに三日目に売れる物が高級なものがほとんどになってしまう。実際にはもうこの町で商売をする必要はない。この地域で使われている貨幣も一年はこの地域で過ごせるほどには溜まっている。しかし、彼は商人だ。暇さえあれば稼ぎたいと思うのが性だろう。そのため、この町で少しだけ仕入れを行うことにした。したのだが、いきなり出てきて、他の商人から客を取った商人への嫌がらせとして、彼には商品を卸さないという協定が生まれているようだった。そのせいで、彼に商品として物を売ってくれる生産者はいなかった。
「さて、困りましたね。まぁ、売る物がないというわけではありませんので、いいとしましょう。こういう嫌がらせを受けると、商売を始めた頃を思い出します」
隣にいた祷花は心配そうな顔をしていたが、タービュライは大して気にしていないようだった。稼ぎたいとは思うが、勝てない勝負はしないのが彼の流儀だ。幸い、大量の稼ぎがあるため、困ることもないだろう。仕入れのために出たが、結局仕入れることが出来たものはなかった。祷花に勝ってもおうと思ったが、彼女の巫女服は既に覚えられていると予想できたため、彼女に勝ってもらうという作戦も通用しないだろう。祷花のような可愛い人がいれば、少しはこういう嫌がらせが少なくなるかもしれないと思ったが、タービュライのような優秀な商人にはそう言ったものは通用しない。それを理解した上で、彼は少しこの町の商人のレベルを計ったともいえるだろう。少なくとも、この町の商人組合は馬鹿だらけと言うわけではなさそうだということはわかった。
「では、そろそろ帰りましょう。気晴らしに夕飯を料理店で食べていきましょうか」
祷花は未だに心配そうな顔をしていたが、タービュライの顔にはそういった不安や不満はなかった。いつものように爽やかな笑みで彼女にそう訊いているのだ。彼女は戸惑いながらも、その言葉に頷いた。
「では、荷馬車に行きましょう。宿屋に馬車と馬を預けてからに……と、思ったのですがね」
彼の荷馬車の周りに人影があった。今にも荷馬車に何かしようとしているようにしか見えない。売り上げの金銭は全て、彼の金銭専用の上限なしに入る袋の中にいれて持ち歩いているため、それらが取られることはないだろうが、商品はそのままだ。一つ二つ盗まれても、彼には大したダメージはないが、商人として商品を盗む輩を許すことは出来ない。もし、これが他の商人が仕組んだことだった場合は、そいつは商人の風上にも置けないやつだと思った。
「ワタシの荷馬車に何か?」
タービュライは爽やかな笑みで、六人ほどの男たちに声をかける。周りから見れば、彼はその五人を悪い奴には見ていないようにも見えたかもしれない。実際、祷花は彼が男たちを疑い、怒鳴らないことが不思議だった。彼女にはわからないが、ここで怒声を上げるとそれだけで、暴行を加えたとか言われかねない。それに一人が彼の大声と共にしりもちでもつけば、それだけで大声を出した人がやったと思われる可能性がある。そう言う嫌がらせも受けたことがある彼の経験から来る対処方法だった。とにかく、穏便に見えるように交渉すること。怒りが勝れば、負けるのはこちらだと思っていた方が良い。
「ああ、すまん。あんたの馬車だったか。少し避けてほしくてな。ほら、あの馬車をこの道に通したいんだ」
白々しい奴らめ、タービュライはそう思ったが、それを表に出すことはなく、素直に彼らの言うことに従うことにした。そもそも、馬車はすぐに動かすつもりだったため、逆らう意味もない。彼はすぐに御者台に乗り、馬を歩かせた。
「はぁ、少し目立ちすぎたのですかね。まぁ、確かにお客さんを取ってしまった可能性はあるかもしれませんが……。いえ、商人でない可能性があるのでしょうか」
彼は前に、商人組合でないグループに嫌がらせを受けたことがある。砥石をばらまくように売った時は鍛冶屋にこういう嫌がらせを受けたし、服の修繕のサービスをしたときは、その町の服屋に直接怒られたこともある。とにかく、才能がある彼にはすぐに敵が出来る。そして、今回の調査でこの町で、独占して売っていた種類の物が一つだけある。それは傷薬だ。もしかすると、薬屋からの嫌がらせかもしれない。何せ、しつこいのだ。彼がこうして、馬を歩かせている間にも、彼の後をつけるように角で何名かまではわからないが、人が付いてきている。相手の雰囲気から言って、明らかにタービュライにとって不都合な相手だと感じていた。
「まぁ、この程度なら大丈夫ですかね」
彼は意図的に宿屋への近道であるが、暗い路地を通ることにした。馬車一台がギリギリ通ることが出来る幅の道だ。もし、タービュライを殺したり、捕まえたりするならこういう場所だろう。路地の中にからからと馬の歩く音と、馬車の車輪が回る音が響いていた。




