繁盛の方法
翌日も昨日と同じくらいの時間に店を広げた。昨日売っていたものも在庫自体は持ってきてはいるが、表には出していない。いつくか商品は昨日の物とは入れ替えてある。それでも、昨日売っていたものが欲しいという人は、在庫がないかと聞いてくるという算段だ。
「昨日に引き続き、今日も開店いたしました。なんでも売ります。何か、入用の物はありませんか。どうぞ、ワタシの店をご利用ください!」
昨日よりは集まる人の数は少しだけ少ない。それもそのはずで、昨日の時点で買いたいだけ買った客は今日も買おうとなることは少ない。彼の店の前を通り、ちらと商品を見るだけなら、売っている物は昨日と同じに見えるだろう。だから、集まる人数は必然的に減ることになる。ここからが彼の腕の見せ所である。昨日の起爆剤は特価の傷薬だ。それなら、昨日とは違うものを特価に擦ればいいだけだ。そして、今日はその特価の数を増やす。
「今日で二日目。昨日は大変、好評で買っていただける方が多くて、用意していた在庫が無くなってしまいました。ですので、昨日とは同じものを安く売ることが出来なくなってしまいました」
彼はそう言いながら、俯いて少し大げさに暗い顔をした。客はその演技にすぐに飲まれてしまう。その次に出る言葉をある程度は予想しているだろう。そして、それを間違えているということないはずだ。
「ですが、昨日とは違うものはまだまだあるのです。今日は何と、タオルです。それも三枚セットで、五百円! どうです、買いませんか」
集まる客の反応は良くはない。集まる人同士でひそひそと何かを話しあっているようだった。その反応は彼の思った通りの物だ。タオル三枚で五百円はこの町の物と大差ない。せいぜい三十円程度安くなったくらいだ。珍しい柄ではあるが、それだけで売れるほど甘くはない。物好きもたまにいるわけだが、今回はいなかった。
「ではでは、少し珍しいものをお見せいたしましょう。こちらはどうでしょう」
彼が手に取ったのは、白い陶器の食器。真っ白で汚れ一つなく、太陽の光を反射している。精巧な模様などはないが、ただの食器だ。
「この食器を三枚で、三百円でどうでしょう。え、三枚では足りない。そうですね」
彼はこくこくと顎に手を当てて、深刻そうにうなずく。
「では、今買っていただけるなら、こちらのガラスのコップもお付けしましょう。このコップを付けても三百円ですよ。残念ながら、今を逃せば在庫が無くなってしまうかもしれませんので、この次にほしいと言っても売ることが出来ないかもしれません。今だけ、ですよ」
ウインク一つして、客にアピールする。そこらのおじさんがやれば腹の立つ好意だが、好青年に見える彼がやれば効果は覿面。今だけ、と言う言葉につられて、一人二人と商品を買っていく。タービュライがお金のやり取りをしている間に、祷花は食器を割れないように包んでお客さんに渡す。良いコンビネーションで客を捌いていく。今宣伝した食器は全て売れた。皿もコップも在庫がなくなったが、他の商品はまだまだ残っている。食器を買えなかった客が少しつまらなさそうにしているのを見て、タービュライの脳はすぐに計算を始める。
「すみません。今のお皿セットは全て売れてしまいました。しかし、買えなかったお客様、食器は売れませんでしたが、まだタオルはあります。とは言っても先ほどと同じ値段なんて、買いませんよね。ワタシも買いません。ですので、このタオル三枚セットを二百円で売りましょう!」
しかし、客は食いつかない。それはそうだろう、欲しいのは食器だ。タオルを買いたいわけではない。と言うことで、彼はタオルを一枚持ち上げた。
「すみません。ではこういうのはどうでしょう。値段は少し高くなりますが、これもお売りしましょう」
タオルを避けた下にあったのは、一枚の皿だ。その皿の淵には綺麗な模様が描かれていた。青だけで鳥やクローバーが円状に描かれている。ここらの地域の物ではなく、ファーネランドがある地方の物だ。人の多い都で売ろうと思っていた商品だが、ここで売れば都で売るよりも売れると確信したため、売ることにしたのだ。
「さて、では値段ですが、そこの綺麗なお姉さん。これはいくらくらいに見えますでしょうか」
周りの人間より、少しだけ見た目に気を遣っている、手入れされている髪と綺麗な服を着ている女性に質問を投げかけた。彼女に声をかけたのは意図的だ。綺麗なものを見て、高い値段を付けられそうな美的感覚を持った人に声をかけたのだ。彼の予想通り、その女性は七百円くらいだと答えた。
「素晴らしい。大抵、こういうものはそれくらいしますよね」
彼が同意を求めれば、それに頷くしかない。値段の高い物には価値がある。その価値をわからない人間には見られたくない。そう言った見栄が、首を振らせない。
「ですが、この皿を今だけは、五百円でお売りしましょう。もちろん、このタオル三枚セットも合わせて五百円です。つまり、この綺麗なお皿が三百円と言うわけです。さてさて、お求めになる方はお並びくださいね!」
またもや、ちらほらと人が並んでいく。迷っている人たちの目の前で、綺麗な模様の皿が減って行く。それを見れば焦りから、列に並ぶしかなくなる。そして、客の第二波を捌ききった。その間に、食器以外も売れていく。昨日来ている人ならば商品の並びが変わっていることに気が付いた人もいるかもしれない。その人が昨日は売ってないものを買う。それを見て、自分も欲しいなと思った客がそれを買う。すると、表に並ぶ商品が少なくなっていき、今買わないともうないかもしれないと思う人が出てくる。それが今、必要かどうかは関係ない。なくなっていくのを見ると、欲しくなるのだ。さすがのタービュライもここまで都合よく売れるとは思っていなかったのだが。
こうして、二日目も無事にほとんどの商品を売ることが出来た。店じまいをしている間に、祷花は自分たちを見る視線に感づいた。その視線の方向には誰もいなかったが、彼女の体に悪寒が走り、身震いした。




