商売の始まり
タービュライと祷花が広場に出て、商売を始めたのは昼に近くなってからだった。タービュライは朝から出かけていたのだが、それはこの町で商売をする許可を取りたかったからだった。彼はこの町の商人組合に出向いて、手続きをした。旅をしながら商人をやってきているのだから、その手の手続きは何度もこなしてきているのだ。この町でも特別な手続きはなく、彼が商人としてどれくらい稼いだがを見るだけだ。商人組合で作った商人証には、これまで商人として、何をどれくらい売ったのかということが記録されている。それを組合に見せて、町に店を出させても問題ないかどうかを確認して、許可が出れば心置きなく商売ができるのである。ちなみに、商人証には在庫や資産なども許可した者のみ確認できるため、商人の証というだけの物ではないのだ。
そして、出店の許可を取った後、すぐに荷馬車の用意をした。それから稼ぎに行こうとしたところで祷花に出会い、そのまま一緒に店を出すことになったというわけだ。そして、二人は広場の端っこに馬車を止めた。彼の店は荷馬車がそのまま店になっている。荷馬車の横の部分の布を持ち上げて、馬車の下の部分に収納されていた板を引っ張って足を立てて平らにした。そこに見ればすぐにわかるような商品を中心に置いていく。その手伝いを祷花がしていた。彼女はせっせとタービュライに言われたとおりに商品を並べていく。その間に、タービュライは裏に在庫を置いてすぐに補充できるように準備していた。その間、表の商品の並びは全て、彼女任せだった。裏の在庫の準備が出来たところで、表の様子を見に行く。すると、そこにはタービュライではできない程、見栄えのいい商品の配置になっていた。彼が思わず、おおとこぼすくらいには見栄えが良い。
「ど、どうでしょうか。直すところがあれば、教えてください」
祷花はおどおどした様子でそう言ったが、彼に文句をつける点などなかった。
「完璧ですね。ワタシもここまで見た目良く並べられません。せいぜい、綺麗に整頓するくらいです。巫女さんは素晴らしい美的感覚を持っているみたいですね」
彼がここまで饒舌に褒めることは中々ないだろう。それほどまでに人の目を引くような商品の並べ方をしていた。
「店の見た目は完璧です。裏の準備も完璧です。それでは、開店しましょうか」
彼は満足げに腰に手を当てて、開店の宣言をした。
「広場にお集まりの皆さん。どうでしょう、万能何でも屋の品ぞろえ、欲しいものがあればお言いつけください。なんでも、売って見せましょう。誰か欲しいものはありませんか」
広場に響く声量。しかし、不思議とうるさいとは感じない声質。その声に広場にいた人々は彼の方を見た。広場近くの露店でも荷馬車での販売をしている店はない。現在は他の町からきた商人はこの町にはいなかった。それも手伝って、彼の荷馬車の周りにちらほらと人が集まっていく。少し人が集まれば、それに惹かれてより人が集まっていく。
「店主さん。じゃあ、傷薬ちょうだい。できるだけ安くしてほしいんだけど。俺、これから討伐の依頼があるんだわ」
集まるだけだった人の中から、冒険者と思しき男性が手を上げて店の前に出てきた。彼はサクラや詐欺師と言うわけではない。たまたま、冒険者の依頼を果たそうとしているところだったのだ。タービュライは内心で喜んでいたが、それを表に出すことはない。商人らしい笑顔で、その冒険者の前に立った。
「そうですね。傷薬のセットというのは大抵三つですが、ワタシの店は何と五つセットです。どうせ高いんでしょって思いますか。それがなんと、ワタシの傷薬は五つセットで二百四十八円ですよ!」
彼は店を始める前に一人でこの町を散策していた。この町には薬屋以外は傷薬は売っていないため、競合することもなく、新薬が出来る度に料金が上がっていた。この町では現在、傷薬は一つ九十六円だった。そうなれば、もちろん彼の傷薬を買おうとするだろう。そして、目の前の冒険者も彼の傷薬を買った。
「ありがとな。これで少しは稼げる」
冒険者は軽い足取りで彼の店の前から去っていった。それから、何人かが彼の店の表に並べられた商品を見てたり、手に取ったりしていた。その賑わいは落ち着かず、表に並べていた商品は次々と亡くなっていく。表の商品が無くなっていくと、客たちは自分が買える分が無くなると、沢山の商品を確保して買い物をする。売れれば売れるほど、売り上げが伸びる速度が上昇していた。客の呼び込みをしてしばらくしてようやく落ち着いたときには表に並べてあった商品は、値段の高い宝石をあしらった指輪や枯れないように加工された花のピアスなどが残っていた。裏に用意していた商品も同じような物ばかりで、今それを並べると高級アクセサリー店になってしまうだろう。
「今日はこんなところでしょうか。まずまずの出だしです。肝心なのは明日明後日ですからね」
裏の商品を片付けている間にアクセサリーも二、三点は売れたが、それ以上は売れないと見て、表の商品も片付け、この日は店を閉めたのだった。




