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黒い覚悟  作者: ビターグラス
13 勇者と呼ばれた敵は
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強敵との決着

 激しい光と渦巻く熱の中に人影があった。それは間違いなく世留だ。光が無くなり、彼の姿を見ることが出来るようになったが、その姿は今までの戦闘で一番傷ついていた。服は熱で焼けたのはボロボロで素肌が露出しているが、火傷の後のように赤くなっている。服がない部分は赤黒くなってしまっている。しかし、それでも世留は気丈にそこに立っていた。


 勇者は斬撃を世留に立てたときと同じ力を使っていた。それは距離を気にせず、考えた場所に繰り出した攻撃を当てるというものである。爆発を完全に彼に当てることは出来なかったが、その衝撃や熱波を隔たりの内側に送っていた。彼の見た目からその目論見が成功しているのは間違いなかった。しかし、勇者にとってそれが最後に力を振り絞ったものであった。もちろん、勇者自身それを自覚している。これ以上の攻撃はない。できることと言えば、剣を振るうことだけである。もはや、剣を杖にしていないと倒れてしまうほどに消耗していた。それに対して、服はボロボロでも明らかに世留にはまだ戦える余裕がある。勇者は負けを悟った。次の一撃を受ければ確実に死ぬだろう。悔いはないと言えば嘘になるが、全力の全力を出して、自分の手はあの強敵に届かなかった。それがいっそ清々しい。そんな心境で、勇者は世留を見上げていた。


 世留は彼に戦えるだけの力がないのを認めて、地上へと降りた。世留にも見た目ほどの余裕はない。ネクロマンサーの力は既になくなりそうだった。確かに勇者はかなり強くなったと、認めるしかない。口だけの馬鹿な男ではなくなった。様々な経験をしてここまでたどり着いたのかもしれない。彼が相容れない敵でなければ、一緒に旅をすることもあったかもしれない。そんなことを思いながら、世留は勇者の前にゆっくりと移動した。そして、刀の届く距離で剣先を持ち上げた。勇者は世留から視線を外して、両手を大きく広げた。


「強い敵だった」


 世留が呟いて、刀を握る手に力を入れて振り下ろす。その刃が彼の胸に届こうとしている目の前に、ローブが現れた。力を入れ、振り下ろした刀を止めることは出来ない。勇者も目の前に来たのが誰なのかを理解した。声を出す前に、突き刺したままの剣を持って、振り下ろされる刀に打ち付けた。


「ど、どうして。フィルが」


 フィルは勇者の顔を見つめていた。その目には涙が溜まり、それが流れていた跡もあった。彼女は何も言わずに、勇者の体を抱きしめた。


「……この世界の何が無くなっても、カイだけは亡くしたくない」


 勇者の衣服に籠った、震えた声が男二人の耳を打つ。


「ネクロマンサーが勇者を殺すなら、フィルがあなたを殺す」


 世留はそれ以上は何もできなかった。勇者も戦うことは出来なかった。剣を降ろして、両手を上げた。世留は鋼の色が混じった黒い刀を手から落として、刀を消滅させた。彼はそのまま、勇者たちに背を向けてゆっくりとその場を離れていく。


「フィル。ごめん。もう戦わないよ。僕はもう、勇者じゃない」


 フィルは首を振る。そして、再び勇者の顔を見つめた。


「勇者じゃなくていい。ただの、カイで、フィルの隣にいてほしい」


「……っ、ああ。そうする。もう、傷つくのは、嫌だから」


 世留が見えなくなっても、二人は抱き合っていた。それはきっと、二人で旅をして積み重ねた愛情なのかもしれない。世留もサラも知らない二人が重ねた時間が生んだ、勇者であるという使命を捨てさせるほど大切なものだったのだろう。




 二人から離れた世留は既に満身創痍だった。超能力を解除せざるを得なくなった状態で、止血していたはずの肩から斜めに入った長く深い傷跡から出血している。赤黒く染まっていた服が再び赤く染まる。


「ヨルっ! こ、こんなに血が……。今、治癒しますから」


 彼女は自分の手を彼の胸の上あたりまで持ってきて、掌を彼に向けた。それから、彼に自身の魔気を混ぜ込むようなイメージをする。しかし、うまく彼に魔気が混ざらない。混ざってもすぐに弾きだされるような感覚がある。そして、その感覚がある度に、彼女に焦りが募っていた。治癒の準備段階から失敗したことはないのだ。このままでは治癒が出来ない。そうしている間にも、彼女の視界には彼の体から血が流れているのが見えている。それが余計に焦らせる。


「もう、いい。ここまでやられたんだ……。黒いもやも失くなってきている」


「どうして、どうしてなんですか。いつもはうまくできるのに。こんな時だけ。一番必要な時に何もできないなんて」


 彼女の治癒が上手くいかないのも当然だった。ネクロマンサーには治癒師の治癒は効果がない。黒いもやが、他人の魔気を拒否するのだ。サラが彼に向けていた手を引いた。そして、彼の刀が血を吸っていたのを思い出した。今、刀はない。


「刀を、刀を出してください」


 世留はそう言われ、視界も定まらず、意識も朦朧とした中で、その言葉通りに刀を出した。何の疑いもなく、彼は自身の手に刀を出した。その刀を、サラが握る。握ったのはグリップ部分ではない。刀身の部分だ。彼女の手は簡単に切れて、そこから出血する。刀には血が滴らなかった。彼女の血が刀に吸収されている。世留はぼやける視界でその様子を見て、一瞬で意識がはっきりした。


「な、何をやってるんだ!」


 さすがの世留もかなり動揺していた。これまでの旅の中で一番動揺していたかもしれない。しかし、刀をすぐに奪うこともできない。下手に取り上げてしまえば、彼女の手をさらに傷付けることになるだろう。しかし、このまま吸血を続けていたら、彼女が死んでしまう。焦った彼には自身の意志で刀を消すという手段に気が付くまでに時間を要したのだった。

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