勇者
世留たちが町から脱出した後、落ちた勇者は広場に大きなひび割れを作り出していた。剣を突き刺さった剣は彼の力でも抜けず、町には大きな被害が出ていた。町の人々はその被害を目の当たりにして、さすがに引いていた。町を救ってくれたことには感謝しているが、ここまでの被害が出ていると、彼をここに置いておきたいとも思えなくなっていた。そして、町長が前に出て、剣を抜こうとしている勇者に声をかけた。
「勇者様。申し訳ありませんが、その剣が抜けたらすぐに町を出ていってください。これ以上、この町に被害が出されると困りますので」
勇者はそう言われてようやく、周りの状況を目にした。自分が魔獣から救ったはずなのに自分がそれを壊していれば、そう言われても当然だろう。しかし、勇者には特別な力が増えていた。世留と初めて会い、負けてからずっと、何もせずに大人しくしていたわけではない。そもそも、魔王討伐の使命もあり、何の努力もせずにいることは出来ない。そして、彼は旅の途中で様々な力を手に入れてきたのだ。勇者らしく、選ばれた人しか使えない技術や装備、そして加護。あのときとは違うのだ。彼は自分の信じている正義が間違っているとは思わない。だからこそ、あの世留と言う人物が間違っているとわかっているのだ。サラもきっと彼に何かされているに違いないと確信していた。
彼は茶色の手袋を右手に着け、その手を地面に着けた。すると、大きなひびが入っていた地面が元に戻っていく。広場は前と同じかそれ以上に綺麗になっているだろう。そして、ひびを全て閉じたのを感じると地面から手を離した。そして、突き刺さっていた剣は地面の修復と同時に抜けて地面に落ちていた。
「すみませんでした。それでは、もう町を出ますので」
町長は彼の力を目の当たりにして呆気に取られていて彼の言葉には返事が出来なかった。勇者はそれを気にすることなく、世留が出ていったであろう方向から出ていく。その後ろからローブに身を包んだフィルが付いて行く。
彼らは門を出て、すぐに辺りの森の中に移動し始めた。彼と前に戦闘になったときにもボロボロにされて回復した後に追ったが見つからなかった経緯がある。その時にフィルが気づいて話してくれたのは、彼らが森の中に逃げたというものだったのだ。確かに隠れやすいと言えば、森の中だと納得した。だから、次も森の中に逃げた可能性が高いと考えて彼らは森の中へと入っていく。フィルが森を観察して、世留たちが逃げた形跡がないかを調べる。世留たちは追手をまくような細工はしていない。だから、草をかき分けたような跡があったり、よく見れば二人組の足跡があるのだ。そして、自ら森の中に入るような一般人はいない。だから、きっとその形跡は世留たちの物だと予想した。それは確信に近い。
勇者たちが森に入った時には世留たちは既に森から脱出していた。それも今回は集まってきた魔獣は大多数を放置して出てきていた。いつもならすぐに襲ってくる魔獣だが、今回はすぐに引いたのだ。引いたというよりは、他にいい獲物を見つけたという方が正しいかもしれない。きっと勇者たちだろう。
森から脱出したところで、長い真っ直ぐな道が見えた。その先には町が見えた。遠くにあるせいで、まだまだ小さいがその町はきっと、大湖や起鼓詩がある地域の町になるのだろう。しかし、速度を上げることはしなかった。サラの様子が先ほどからおかしい。ここまで落ち着いた休みはなしと言っていいだろう。気絶するように眠っていた時も起きてからすぐに町を出てしまった。それ以降も休める時間はなかった。だから、今の彼女はきっと疲れているのだろう。世留はそう考えていた。未だ少しだけ動揺が残っていたがそれを無視することにした。
「見つけたっ」
世留たちの目の前に人が落ちてきた。土煙が上がり、そこには人影が一つだけ見える。世留は刀を既に持っていて、彼の相手をする準備が整っていた。土煙を剣を一振りするだけで全て払った。
勇者は初めに会った時に着けていた服装のままであったが、手袋を着けていた。右手に茶色、左手に青色の手袋を着けていた。右手からは土の魔気を、左手からは水の魔気を感じ取れる。
「いい加減、逃げるのはやめてほしいな」
勇者はもう一度、剣を振り、その剣先を世留に向けた。彼もすぐに戦闘に入れる状態。彼らは対峙して視線を交差させる。勇者はその時間をじっと待つことはできなかったようだ。
「最後にもう一度訊くよ。サラを解放するんだ。そうすれば、無駄に戦闘する必要はなくなる」
「……それは無理だな」
「そうか、残念だ。じゃあ、君を殺して、彼女を連れて帰るよ!」
勇者が剣を構えながら、世留に突っ込んでいく。




