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黒い覚悟  作者: ビターグラス
13 勇者と呼ばれた敵は
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逃走

跳躍した勇者は常人ではありえない程高く飛び、世留と同じ高度まで来た。そして、勇者が世留に向けて持っていた剣を突き出した。サラもいるのに、そこに躊躇いはない。勇者はサラに当てないという自信があるようだ。世留が動けばサラの位置も変わる。彼を悪だとするならば、それくらいは予想するだろうが、勇者はそう思っていないらしい。そもそも、その可能性は彼の中にはないのだろう。人を盾にするという発想がないのだ。もちろん、世留は彼女と盾にすることはないだろうが、その本性を知っているなら、彼を悪だと断定しないはずだ。


 世留は相手の振るう刃を空中で簡単に回避する。サラに負担にならないように、できるだけ軽く無理な動きをしないようにひらりと空で軽くステップを踏んだ。そして、勇者は落ちていく。世留とは違い、空中に足場を作り出しているわけではないのだから、当然落ちていく。しかし、その硬度から落下しても彼は再び跳びあがり、彼に接近した。世留はしつこい勇者を見て、高度を上げた。ただし、硬度を上げるとその分地上よりも魔気が薄くなり、窒息する可能性もある。単純に高いところは火の魔気は一定の高度からは上には来ないため、高度を上げると寒い。どれだけ過酷な環境でも世留は平気でも、サラを抱えながらとなると、そういうわけにはいかないのだ。しかし、少し上がるだけで、勇者は彼の上昇についていけなくなる。跳躍の瞬間にどれだけ飛ぶかというのを決めているのだから、跳躍の途中で上昇されると届かなくなるのだ。勇者は地面に落ちて、三度跳躍。世留は先ほどの二回目までの相手の跳躍で高度を変更すると相手がついてこられないということを知っていた。だから、彼は今度は急降下した。足場を消失させて、地の魔気の作用に体を任せて、落下していく。下降と上昇ですれ違い、勇者は最高高度で下を見て、世留を視界に収めて落下していく。剣の先を世留に向けていた。しかし、空中では体勢を変えることは出来ない。そのため、彼が落ちる地点から外れれば、その剣を受けることはないのだ。世留は勇者が剣で狙っていることも気が付かず、素早く町を抜けるように移動した。そして、町の中に降りて、建物と建物の間の細い道に隠れながら移動することにした。


 サラを地面に降ろして、町の出口へと急ぐ。サラはドキドキする心臓を抑えつつ、彼の後ろについて走って追っていた。それでやっとだ。彼の胸に自分の体が当たっていた場所が熱を持ったままで、未だに彼の温もりがあることが嬉しいが、恥ずかしい。今思えば、世留は平気でサラを抱き上げてくる。彼女は今までは平気だったことも今では一つ一つが、心臓を高鳴らせるものになってしまった。それでも、それが嫌だとは思っていない。それどころか、自分がこういう心を持ち、そして、その相手が世留だというだけで嬉しいのだ。


「サラ。後、少しだ」


 彼が呟いた言葉が彼女の耳を打つ。彼女は返事を息が上がっていて返事することが出来ず、走りながら微かに頷いた。世留がそれがわかったのか、わからなかったのか はわからない。二人は、ようやく町から出ることが出来た。しかし、出たからと言ってすぐに休めるというわけではない。彼らは、身を隠すために森の中に入った。都やクリーターの近くの道よりも森が道に近く、簡単に隠れることが出来た。空から見ても、簡単には見つからないだろう。ある程度、森の中に入り、サラのために休むことにした。町の中でなければ、戦闘になっても戦えるだろう。町の中だと、町の人も戦闘に参加しかねない雰囲気だったため、こういう場所での戦闘の方が良いと思って逃げたのだ。目に着いた人全てを殺したいわけではないのだ。戦いを回避できるならその方が良いと彼は思っているが、勇者はそうではないだろう。そもそも、彼の話もサラの話でさえ、聞こうとはしていない。完全に世留を悪だと決めつけているのだ。むやみに殺したいわけではないが、面倒な話し合いをしてまで邪魔者を生かしたいと思っているわけでもない。あの勇者は殺すべきだろう。


「ヨルさん。ごめんなさい。私、足手まといですよね」


 しおらしく、申し訳なさそうに彼女は、肩を落として、俯いてそんな弱気なことを言った。その言葉を一言一句、聞き逃さなかったが、それでも、世留は自分の耳を疑わずにいられなかった。彼女はそんなことを言うとは思わなかったのだ。もし掠ると、何かを企んでいるのかもしれないとも思えてしまう。彼女の言葉に返事が出来ず、自分が動揺していることに気が付くと、その事実にさらに動揺していた。サラに動揺させられる日が来るとは思わなかった。


「でも、私は、貴方から離れたくはありません。どうにか、連れていってほしいのです」


 両手を絡ませて、神に祈るかのように懇願してくる。彼の動揺は大きくなるばかりだ。そんな状態でもたった一言、返事をした。


「ついてくればいい」


 サラはその一言だけで、嬉しくなる。彼自身に一緒にいていいと言われたみたいで、それが心の奥を暖かな光で照らされているような感覚。今まで感じたことがないような心に彼女は耐えられなくなり、目には涙が溜まっていた。

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