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黒い覚悟  作者: ビターグラス
2 都への道で
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三人パーティー

「夜に進むのは危険です。死んでしまったらあなたが可哀そう。ここで一緒に安全に休みましょう。何か目的があるのでしょうが、急いでいては見逃してしまうことも多くなります。急いては事を仕損じる。昔からある言葉ですよね」


 その女子はその理論を世留に押し付けるように言い放つ。彼はそれを耳に入れながら、彼女の話した言葉に納得した。急いでいてはできることも出来なくなる。家事に水を掛けるということわざを思い出して、彼は三人と共に夜を明かすことにした。可能性は低いが、彼らが黒い化け物のことを知っているかもしれない。


「じゃ、ここにいさせてもらおう。邪魔をする」


「そうか。それはよかった。夜を一人で行くのは危険だからね。まぁ、君にはあまり関係ないかもしれないけど。かなり強いみたいだしね。……まずは、自己紹介しよう」


 彼は焚火に木を放りこんで、笑顔のまま彼に視線を向けた。


「僕はカイ。名前しか持ってない。貴族じゃないからね。そして、こっちの女の子がフィル。そっちの女の子がサラだよ」


 ローブの女子、神官の女子の順番に視線と手で二人を順番に示して、自分の紹介と二人の紹介をした。その後、ローブの女子、フィルは頭を動かしたのが、ローブの動きでわかった。きっと、頭を下げたのだろう。そして、神官の女子、サラが立ち上がり、スカートを摘まむような動作をした。実際のスカートを摘まんでいるわけではない。あくまで真似だった。


「私はサラ・イストンです。貴族ではないのですが、聖女としてファミリーネームをいただきました。どうぞ、よろしくお願いしますね」


 優雅にお辞儀をして再び、その場にお行儀良く座った。それから、世留が名前を名乗ってその場に座った。彼等と世留は初対面であるはずだが、そこに気まずさを感じている人はいなかった。それぞれが誰が何をしていようと気にしていないのだ。だが、唐突にカイが口を開いた。


「そう言えば、世留は一人旅なんだよね。どこか目指してるとか?」


 世留の事情は人に話すようなものでもない。彼は目をつむって、黙ったままだ。それをどう解釈したのかわからないが、カイが勝手に口を動かし始めた。彼らが旅をしている理由だ。


 世留にとってはどうでもいいことだったから、特に口を挟まなかった。それが静かに聞いてくれていると解釈したのか、彼はべらべらと話し始めた。


 彼はどうやら、彼の国の王に勇者としていずれ起こる災厄の情報と、その原因の排除を頼まれたらしい。彼が言うには、彼はこの世界で生まれたわけではなく、科学と言うものが発達した世界の住人のようだ。それはそこにいる女子二人にしか話していないことらしい。世留はそれを自分に離されても反応に困るなと考えていた。その後、話はサラとフィルと出会った話をされて、ようやく退屈な話が終わった。


 話を終えた彼が世留に視線を向けて、じっと見つめる。無言で君の事情を話せと言っているのだ。だが、今の世留にはそう言った行動は意味を成さない。だが、彼は知りたいことがあると前置きをして、彼の事情を話した。




「……それで、その黒い化け物の情報が欲しい。何か知っていたら教えてくれないか」


「……復讐のために? 君に協力しろって? ごめんだね。復讐が終わったら君は何をするんだ。そんなことやめて、未来のために生きた方が良いよ」


「いきなりなんだ。話せと視線を向けてきたのはお前だろう。話した途端に否定するのか。協力しないのはいい。それは自由だろうから。だがな……いや、意味がない。熱くなりすぎたな」


 カイが焚火を見つめながら、発した言葉に思わず怒りの火が灯った。だが、こういう輩には何を言っても無駄だと思った。それに、自分が熱くなり、冷静さを欠いていることに気が付いて、すぐにその熱を冷ました。勇者は彼が早口にまくし立てても、表情は変えない。真顔のままだ。その話を聞いていたはずの、フィルも特に反応はしていない。ローブが一定の周期で前後しているのを見ると、寝ているのかもしれない。そして、サラは世留を熱っぽい表情で見つめている。胸の前で両手を組んで、神に祈りをささげるようにしている。


「ああ、なんて悲劇。そして、復讐と言う糧を得て、生きるしかなくなった貴方は可哀そう。可愛そうです。私が力になりましょうか?」


 サラは組んでいた手を解いて、世留の膝の上に置いてる彼の手を取って、世留と見つめあった。彼は冷たい目で、彼女を見ていたが彼女はそれにすら気が付かない。可愛そうと言いながら、憐れんでいるわけではない。彼女は無意識の内に、人を憐れむ自分が尊いのだと言いたいのだ。全ての生き物が彼女にとっては”可哀そう”なのだ。そして、それを救えるのは聖女と認められたもののみだと考えている。彼女は他人を救って、人の感謝に酔いしれたいだけだった。だから、彼女は誰かを助けるときに自分しか見えていないため、目の前の人が眼中にないのだ。


 世留は握られた手を振り払った。

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