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黒い覚悟  作者: ビターグラス
12 犯罪者の町にて
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出立

「もう出ていくのかしら?」


 ギルドを出てから、世留はこの町に入ってきた方向とはほとんど反対方向にある門の方に来た。門と言うよりただの両開きの扉という簡素なものだ。しかし、その門の近くで、二人、正確には世留がソフに足止めを食らっていた。足止めと言っても、ソフが彼の腕に引っ付いているだけだ。今回は振り払おうと思えば、簡単に振り払えるだろう。しかし、彼はそうしなかった。急いでいる旅ではあるが、彼女の引き留めに付き合えない程ではない。しかし、ソフが引っ付ている手とは反対の手が引っ張られた。引っ張ったのはもちろん、サラだった。世留はそれを早く行こうと言っているのだと思った。さすがに、時間を使いすぎただろうか。そう思うが、ソフを無理やり引き離すのは難しい。見た目が子供であることが、力押しという方法を使わせない。ソフはそれを理解しているわけではないだろう。見た目以上に生きているのかもしれないが、彼女の心は体と同じく、まだ幼かった。


 それから少しだけ、くっつている彼女と話していると、ソフは満足したのか、ゆっくりと彼から体を離した。


「それじゃ。また会えるといいわね」


 彼女は笑いながら、明るい声で別れの挨拶をしていた。彼女の心には寂しさはあるが、また会えるかもしれないと思えば、我慢もできた。そして、世留たちはその町から出た。




 町の外は心なしか、町の中よりも明るい気がした。彼は日差しの下で買った地図を開いた。しかし、世留が見たことをある地図は大湖が中心にある、彼の出身地だけの地図だ。外の地域の地図など読めるはずもない。その地図を横で見ていたサラが、地図の端の一点に指を置いた。


「ここが、あの地方へ続く道ですね」


 彼は地図に書かれた文字は読めないが、サラが指さした場所には、大湖へ、と言う意味の言葉が描かれていたのだ。頑張れば、世留でも大湖くらいは読めたかもしれないが、そもそも詳しく読む気のない彼には全く読めなかった。結局は、サラに地図を持たせて、道を進むことにした。


 都から離れるほど、道の整備は雑になっていく。今、彼らが歩いている道はそこから森が近い場所だった。つまりは、簡単に魔獣や動物に遭う可能性があるということだ。森からはみ出したような茂みからも小型の魔獣は出てくる。しかし、今の彼は魔獣を呼び寄せるほど疲れているわけでない。しかし、一応、彼は刀を持ち、警戒しながら歩いていた。


 その横について、たまに地図を見ながら歩いているのがサラだ。彼女は森の近くでも大して警戒はしていない。そもそも、魔獣が襲ってきても、世留が警戒してくれているから大丈夫だと考えていた。盗賊さえも彼は倒したのだ。彼と歩いていれば、安全は確保できていると言っていい。しかし、町で歩いていた時と同じく、刀を持たずに揺れている左手が視界にちらちらと入る。彼の手を見るとあの町で起きたことが思い出される。その度に、なんて大胆なことをしたのだろうと思った。そして、なぜあんなことをしたのか自身でも理解できていない。だが、ソフと名乗った少女が彼にくっつくだけで、気に食わなかった。自分にも構ってほしいと思ったし、もっと自分の方を見てほしいと思った。彼は危なくなれば助けてくれるが、それ以上は踏み込んでこない。まるで当然であるかのようにそうしている。もっと自分を知ってほしいのかもしれない。しかし、自分にはそれだけの価値ある過去があるのかと聞かれると自身がなくなる。彼女はそんな感覚は初めてだった。今まではどんな過去でもその時、必要とされ聖女と呼ばれているだけでよかったのだ。過去は気にせず、今は讃えられていればいいとさえ思っていた時期もある。勇者との旅の間も、治癒師としての腕がいいということで一緒にいただけで、誇りある勇者の一行として讃えられるというのが心地よかった。それなのに、今はそんな肩書だけを彼に見てほしくはないのだ。サラと言う人物を見てほしい。たとえ、自身に治癒師としての能力が無くとも、一緒にいてくれるのだろうか。そんな疑問も浮かぶ。自身を過去を彼に話して、彼は自分を軽蔑しないだろうか、そんなことが気になって仕方がない。勇者と旅していた時間より、短いはずなのに、彼との旅の方が自分にとっていいものだと感じる。


 彼女はその心が何なのか、すぐには気が付けない。しかし、ふと、教会でシスターたちが話しているのを思い出した。その会話の中にあった言葉の一部が、彼女の心に当てはまっていた。そして、シスターは最後にこう言っていたはずだ。


「あなた、彼のこと、好きなのよ」


 思い出しただけなのに、その言葉が自身の心に向いている気がした。目の前にそのシスターがいて自分に指を指している。顔などはわからないが、その言葉が真実であると、高鳴る心臓が示している気がした。息切れが起きそうなほど、動悸がする。そんな状態で彼の横顔を見ると、顔がいつも以上に熱くなるのを感じた。

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