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黒い覚悟  作者: ビターグラス
12 犯罪者の町にて
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晩御飯

 世留はとりあえず、ソフが食事を必要とするということで納得をした。ネクロマンサーでも、色々な種類のものがいるのだと思うことにして、彼は今、ソフの行きつけの店とやらに向かっていた。今は、ソフだけが彼の左腕に巻き付いている。サラは世留の隣、服が少しすれる程度の位置を歩いていた。彼らが町を歩いていても、彼らを見る者はいない。それどころかすれ違う人のほとんどはフードを目深にかぶって顔をみられないようにしているようだ。ソフもすれ違う人や、道に座り込んでいる者に気にしている様子はない。それどころか、あえて気にしないようにしているようにも見える。世留にはそれが気が付いたことだというだけで、疑問には思わなかったので特に彼女に訊くということはなかった。サラは少しだけ俯いて歩いているため、彼女も周りの様子には気が付いていない。と言うか、今、彼女はそれどころではないのだ。未だに彼の少しだけ冷たい手の感触が残っている。無意識に自身の手を握っていた。そして、ちらちらと揺れている彼の手を見てしまう。いや、俯いているせいで、手が視界に入るのだ。もう一度、手を握りたいと思っているもの、そうする勇気は今はない。先ほども、彼女が少しだけ心を前に出したからこそ、彼は手を握ってくれたのだ。もう一度、それをやる度胸は今の彼女にはない。




「ここよ。中々いい見た目でしょ?」


 彼女が二人を連れてきたのは、外壁の塗装がボロボロになってしまっている建物だった。外壁のほとんどが茶色で、正面中央にある扉の周りは灰色で塗られている。その塗装にはひびが入っていて、ところどころは塗装が剥げている。そして、扉の上には文字が書かれていたが、世留には読めなかった。ソフがさっさと中に入って言ったので、二人もそれに続いていく。中は見た目以上に広い、丸いテーブルが五台。それを囲むように、六つの椅子が置いてある。その奥にはカウンターがあり、その周りにも椅子が置いてある。テーブル席は三組ほど埋まっていて、カウンターには二人の客がいた。テーブル席の人は騒いでいるが、カウンターで飲んでいる人は何か考えこんでいるような様子だ。そして、カウンターに目を瞑っているのではないかと思えるほどの糸目の男がいた。この店の店主なだろう。タンクトップで下を向きながら、腕を動かしていた。おそらく、料理などを作っているのだろう。そして、世留たちが貼ってきても彼は顔を上げることはない。ソフも彼の反応を気にすることはなく、カウンター席まで移動していた。ソフが座った左隣に世留が座り、彼の左隣にサラが座った。


「おじさん。いつもの頂戴。あ、この二人にもね」


 店主はコクリと頷いただけで、声を出すことはなかった。それから、店主は腕を止めることなく作業をしていた。


「そう言えば、ヨル。この町に何のようなの?」


 ようやく落ち着いたのか、それとも今、それについて疑問に思ったのか、彼女は世留にようやく目的を訊いた。彼はそれを隠すことでもないので、素直に元の地域に戻るために情報が欲しいと伝えた。そう伝えると、彼女は少し頬を膨らませていた。


「そっか。ずっとわたしといてくれるわけではないのね。……でも、そうね。情報が欲しいならギルドね。明日、私が連れて行ってあげる」


 最後には不満そうな顔はなりを潜め、笑っていた。彼女の素の笑顔は中々、子供らしくて可愛い。しかし、その笑顔もすぐにやめてしまった。


「あなたは元の場所に戻ってどうするつもりなのかしら」


 それは当然の疑問かもしれない。目的もなく、娯楽のために旅ができる時代ではないのだ。町の外に出れば魔獣がうろついているのだから、何かそれに見合う目的がない限り、旅なんて危険なことは出来ないだろう。世留は幼い見た目の彼女にそれを言うべきか考えたが、彼女もネクロマンサーであるというのなら、見た目以上にこの世界で過ごしているのかもしれない。彼は結局、話すことにした。


「俺は、幼い頃からずっと一緒にいたパートナーを黒い化け物に殺された。だから、その復讐のために、旅をしてる。だから、まずは戻らないといけないんだ」


「ふくしゅう……? そんなことのために生きてるの? わたしのお姉ちゃんは、そんなことしちゃダメだって言ってたわ」


 無邪気な瞳が彼の目に映る。復讐が間違っているのだと、無垢な心が突き付けてくる。しかし、彼にとってはそれだけがこの世界にいる意味なのだ。そのあとのことなどは気にするべきことではない。彼は彼女の頭に手を置いた。それは彼女が子供だと自分に言い聞かせるためだった。復讐は駄目だという理論はあの勇者を思い出す。怒りが沸いてくる。それが心を支配るする前に、目の前にいるのは幼い子供が無邪気な考えなしで言っているのだと、言い聞かせる。


「それでも、俺はやるんだ。それだけが今の生きがいだからな」


「そう。あなたには理由があるのね。わたしと同じかと思ってたけど、全く違ったわ。わたしは、ただここにいるだけだもの」


 幼い瞳に何年も生きてきたかのような諦めが映っていた。世留もサラも、不相応な瞳の色に声を掛けられない。そんな彼女の前に、ステーキの乗った皿が三枚出てきた。


「あ、出てきたみたい。食べましょ」


 結局、ステーキが来たことでそれ以上それに関して何かを話すということはなかった。

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