犯罪者の町の中へ
町の門を潜ると、ほんのり甘い煙の臭いがした。良い匂いと言うわけではなく、どこか嗅覚に絡みついていくるような、甘ったるいという表現が一番、しっくりくるような臭いだ。町の中に並ぶ建物は乱雑で、真っ直ぐな道などはない。店に沿って、道が出来ているという風だ。その店にも世留もサラも見たことがない品物が並んでいた。彼らは知る由もないが、それらは町同士の取り決めで、売ったり所持したりしているだけで、牢屋に入れられるようなものだ。快楽を与える代わりに、人の心を壊すと言われているようなしものばかりだ。そして、町に充満している微かな甘い香りはそれらの中の植物を燃やした時に出る煙の臭いだった。一度使用すると、その快楽から逃れられなくなることから、魔薬とも呼ばれているものだ。町に流れる煙程度なら大した影響はないが、この町に長い時間を過ごしていると、次第に魔薬が欲しくなるらしい。この町の人からすれば、魔薬を使わないとこの町の住人とは認めないと言われるほどだ。
「相変わらずねぇ。この町はいつもこうなのね」
ソフは口ではそう言いながらも、楽しそうだ。世留から見れば、彼女はこの町を気に入っているのだと思った。ソフは辺りをゆったりと見回していた。特に何かを探しているという風ではない。彼女にしかわからないが、彼女にとってこの町は故郷と同等の存在だった。ネクロマンサーになってしまってから、五年ほどはこの町で暮らしていた。彼女の可愛らしい見た目と、ネクロマンサーとしての力で、彼女は魔薬に手を出さずとも、この町に馴染んでいたのだ。
町を歩くと、そこにあるのが違法でないものも並んでいることも分かった。クリーターの町にあった食材なども並んでいる。その中のいくつかは取引禁止の高級食材だが、彼らがそれに気が付くことはなかった。そして、そんな食材を扱っている店の三つ隣の店らしきものの前に、綺麗な男性一人と女性二人とが首輪をつけられて店先に立っていた。彼らは通りがかる人の何人かに目をつけて、男性は見た目からわかる金持ちの女性に、女性は金持ちそうな男性に声をかけていた。男性は女性の手を優しくつかんで、手の甲にキスをしてその女性の目を見つめている。女性は二人係で男性一人の両手に自身の豊かな胸を押し当てていた。それから、二人は別々に、建物の中に連れ込まれていった。世留たちがその店の前を通りかかり、中を見ると、そこにはいくつものおりがあり、その中に人間を含む様々な生き物がそれぞれの檻の中に閉じ込められていた。そこでようやく、彼はこの店が奴隷を売っているのだと理解した。檻の中の一人と世留の目が合った。檻の中の女性は彼をじっと見ているだけだ。世留が手の中に刀を召喚したその瞬間に、ソフがその刀の面に手を振れた。
「無駄よ。この町で奴隷を助けても、意味ないわ。あなたが牢屋の中に入るだけよ。この町では、こういうのにいちいち反応していたら、斬りがないわ」
彼女は冷たい瞳で、言い放つ。それに負けたわけではないが、この町のルールがそうなっているのなら仕方がないと、無理やり自身を納得させた。しかし、サラはそれで納まるような性格ではない。しかし、彼女は自身の心を言葉にはしなかった。この町ではそれが普通。納得したわけではないが、この町で暮らしている人はそれで納得しているのだ。この町の人の生活を壊して、生活できないようにする方が可哀そうだと、彼女も無理やり自分を納得させた。
それから、周囲の町では悪とされていることがいくつも横行しているのを目の当たりにした。暴行に窃盗なら可愛いもので、死体が路地に転がっているのも見つけてしまった。幸い、それは世留の感知能力で見つけてしまっただけなので、サラは見なかっただろう。
「ここがわたしのおうちよ」
ソフがそう言ったのは、ボロボロでひびの入った木だけで作られた四角い小屋だった。ソフはサラを中に入れるのが嫌ではあったが、世留のためにサラも小屋の中に入れた。小屋の中にはほとんど何もなかった。あるのはボロボロのソフサイズのベッドだけだ。世留はわかっているが、彼女は寝る必要はない。食事も世留と同じで何らかの代わりの方法があるはずだろう。
「はい、水。魔法でできたものだけど」
彼女は綺麗なコップに入った水を二人に渡した。その後に彼女は自身の分の水を持ってきて、床にぺったり両足を伸ばして座った。世留もサラも彼女の近くに座った。
「そうだ。歩いて疲れたと思うけど、少し休憩したら、晩ごはんにしよう。わたしの行きつけに連れて行ってあげる」
彼女は楽しそうに笑っていたが、世留にはそれが不思議だった。ネクロマンサーは食事を必要としないはずだ。彼女にそれを聞いても、首を傾げているだけで、彼の言葉の意味を理解していないようだった。




